非同期性の治療介入はラット脳梗塞後の皮質脊髄路の神経回路再編成による運動制御を回復させる

Wahl AS, Omlor W, Rubio JC, Chen JL, Zheng H, Schröter A, Gullo M, Weinmann O, Kobayashi K, Helmchen F, Ommer B, Schwab ME. Neuronal repair. Asynchronous therapy restores motor control by rewiring of the rat corticospinal tract after stroke. Science. 2014 13; 344(6189): 1250-1255. doi: 10.1126/science.1253050.

PubMed PMID:24926013

  • No.1504-2
  • 執筆担当:
    鹿児島大学医学部
    保健学科理学療法学専攻
  • 掲載:2015年4月1日

【論文の概要】

背景

 脳梗塞後の運動機能の自然回復に対して、脳は限られた適応力を持っている。リハビリテーションは長期的な帰結を改善させる。動物モデルでも電気刺激や薬物治療の効果が示されているが、これらの治療選択の効果は限られたものである。リハビリテーションは機能回復を増強させる臨床アプローチであるが、その科学的基盤ははっきりしていない。

目的

 本研究は、薬物治療とリハビリテーション介入のタイミングによって機能回復や皮質脊髄路の神経再編成に違いを生じるのかラット脳梗塞モデルを使用して行動学的、組織学的、電気生理学的に検討した。

方法

 ローズベンガル血栓性脳梗塞モデル作製2日後から4つの異なった治療グループに分けた。①髄膜内にanti-Nogo-A抗体を2週間投与し、それに平行して集中的な課題指向型トレーニング(エサ取り課題、前肢のリーチ動作を1日100回施行)を行った群(anti-Nogo-A/ parallel group)、②対照抗体(control antibody)を2週間投与し、それに平行して集中的な課題指向型トレーニングを行った群 (control/ parallel group)、③anti-Nogo-A抗体を2週間投与した後に続けて2週間集中的な課題指向型トレーニングを行った群(anti-Nogo-A/ sequential group)、④対照抗体(control antibody)を2週間投与した後に続けて2週間集中的な課題指向型トレーニングを行った群(control/ sequential group)に分類した。そして、4つの異なったリハビリテーション計画が機能回復に違いを生じるのか比較した。
 損傷皮質からの入力が消失すると反対側半球の皮質脊髄路からの線維が脱神経側脊髄半側へ正中線をこえて神経再支配が起こる。そこで、4つの治療群の非損傷側皮質運動野からの無傷の皮質脊髄路を標識して、無傷の皮質に起源を持つ標識された線維で脊髄の中心線を越えて脱神経された脊髄半側へ神経再支配した線維の数や場所を調べ、機能回復との関係を組織学的、電気生理学的に調べた。 

結果

 anti-Nogo-A/sequential groupは16日後からラットのパフォーマンス(エサ取り動作)が改善し、熟練したリーチ動作はほぼ完全に回復した。このグループは実験の最終日に2つの異なった熟練した前肢テストを行ったが、その成績は優秀であった。この2つの課題は以前練習したことがないので、機能回復が練習していないトレーニングにも転移可能であることが示された。anti-Nogo-A/ parallel groupはエサ取り動作で他の群より悪く、時間経過とともに成功率が低下した。control/parallel group は低い回復を示したが、最初の2週間には集中的な課題指向型トレーニングの効果がみられた。すべての群に脳梗塞巣の縮小効果は認められず、治療による神経保護効果は観察されなかった。今回の結果は脳梗塞後に免疫療法に続いて運動療法を行った方が良好な機能回復を示すことが明らかとなった。
 非損傷側半球の無傷の皮質脊髄路を標識して機能回復との関係を調べた結果、4つの実験群は頚髄において異なった軸索発芽パターンを示した。anti-Nogo-A/sequential groupは中心線を越える線維が多く、上肢運動に関係する灰白質の6層や9層に選択的に皮質脊髄路線維がいくつかの分岐を持って放射状に組織され、良好な機能回復を示した。反対にanti-Nogo-A/ parallel groupは横断する線維がanti-Nogo-A/sequential groupより多かったが、広範囲に枝分かれしており、背側、主に感覚層(1~5層)に分布して、良好な機能回復を示さなかった。また、異常な軸索成長パターンを示し、灰白質と白質の境界を越えて軸索が成長する傾向にあった。
 本結果はanti-Nogo-A/sequential groupの前肢機能の回復は無傷の皮質脊髄路から中心線を越えて脱神経された脊髄半側へ明確な神経再支配を生じることを示した。この神経再支配が本当に麻痺側前肢の機能回復に関係しているのか確かめるために、無傷の皮質脊髄路の働きを薬剤投与により一過性に遮断すると改善していた麻痺前肢のリーチパフォーマンスが低下し、薬剤投与を中断すると2週以内に前肢機能は改善した。また、電気生理学的に非損傷側の運動皮質に対する大脳皮質微小刺激法によって麻痺前肢筋の筋活動を観察した。この結果は皮質脊髄路線維が解剖学的、機能的に側性を交換したことを証明し、脱神経された脊髄半側への神経再支配は麻痺側前肢運動の回復の要因であることを示した。

考察

 本研究は、脳梗塞モデルラットを使用して薬物治療の時期に関連したリハビリテーションのタイミングが機能回復や線維発芽パターンに影響することを示した。最初にNogo-A免疫療法を行い、引き続いて2週間の集中的リハトレーニングを行うとほぼ完全に機能回復を示し、運動トレーニングや免疫療法だけの治療と比較して良好な回復率を示した。これらの動物はペレット握り動作の改善だけでなく、他の動作の回復も見られ、回復の一般化を説明した。行動学的回復は無傷の運動皮質から脱神経側脊髄半側への皮質脊髄路の横断と関係していた。脊髄の正中線を横断した皮質脊髄路が機能回復に関係していることは多くのモデルで確認されているが、今回の結果は発芽した線維の量だけでなくそれらの線維の終了パターンも機能回復に関係していることを示した。早期に集中的なトレーニングをすると、高い神経再支配がみられるが、灰白質・白質の境界を超えて異常な成長を示し、背側の感覚層に神経再支配する。このような広範囲に拡がった発芽は頚髄のインターニューロン、V2a固有脊髄ニューロンや運動ニューロンにおいて悪いサーキットの結合であり、把握機能は主動作筋や拮抗筋の同時収縮による機能障害を起こすかもしれない。
 今回の研究は、脳における臨床的なタイムウインドウの存在が成長促進因子の投与や運動依存的可塑性に大きく影響されることを示唆した。介入の順番が脳梗塞後のリハビリテーションの効果に要求される。最初に内因性の成長抑制因子Nogo-Aの免疫療法により損傷によって生じた構造的可塑性を抑制して、新しい過興奮性を導く回路を動員して外部刺激応答を長くする。発達と類似して、これらの新しく形成された結合は不正確で弱い。そこで、次にリハビリテーションにより、機能結合の選択や安定による新しい回路のスペアを形成し機能を持たないものを剪定する。このステップはヘッブの学習ルールを含んでいる。

【解説】

 脳梗塞の急性期にはグリア増殖による軸索伸長抑制やオリゴデンドロサイトに存在するミエリン関連糖蛋白(MAG)やNogo-Aなどの軸索伸長阻害因子の発現など、神経の再生を阻害する因子が働く。本研究では、動物実験ではあるが、脳梗塞後の早期に薬物療法(軸索伸長阻害因子に対する免疫療法anti-Nogo-A)に続けて課題指向型訓練を行うと、薬物療法と課題指向型訓練を同時に行うよりも麻痺の回復が促進されることを示した。免疫療法や運動依存的回復が脳梗塞後の機能回復に影響し、介入順序の重要性を示唆した研究報告である。また、脊髄固有ニューロン(propriospinal neuron)は大脳皮質から上肢運動器官へ至る下行性経路を中継して、運動野から運動ニューロン髄節に直接投射する直接経路とともに間接的な皮質運動ニューロン経路を形成している。頚髄の正中線を横断した皮質脊髄路が機能回復に関係していることは多くの動物モデルで確認されており、本研究は非損傷側皮質からの神経再支配は量より質が前肢の熟練した運動獲得に重要であることを示している。
 anti-Nogo-A治療はALSや脊髄損傷患者などで臨床試験が行われているが、ヒト脳梗塞での効果はわかっていない。しかし、この動物実験は集中的な訓練を早期に行うと過剰な神経再支配と異常な軸索成長を促し、機能回復を促進しないことを示した。反対に、脳梗塞早期に脳内の環境を調整し、それに続く集中的な訓練の方が機能回復には効果的であることを示唆した。動物モデルにおいて、脳梗塞後早期の高強度の運動トレーニングではなく、低強度の運動トレーニングには神経保護効果があり、機能回復を促進することが先行研究で報告されており、本研究は早期運動介入を疑問視するものでなく、可塑性の生じる脳環境や時期に適切なリハビリテーションを実施する重要性を示唆していると考える。また、将来的にiPS細胞を使用した再生治療が行われるようになる可能性があり、その時には移植された神経回路に目的とする運動機能を獲得させるための適切な理学療法介入が重要となるだろう。

【参考文献】

  1. Lindau NT, Bänninger BJ et al., Rewiring of the corticospinal tract in the adult rat after unilateral stroke and anti-Nogo-A therapy. Brain 2014; 137: 739-756.
  2. Sakakima H, Khan M et al., Stimulation of functional recovery via the mechanisms of neurorepair by S-nitrosoglutathione and motor exercise in a rat model of transient cerebral ischemia and reperfusion. Restor Neurol Neurosci. 2012; 30: 383-396.
  3. Matsuda F, Sakakima H et al., The effects of early exercise on brain damage and recovery after focal cerebral infarction in rats. Acta Physiol. 2011; 201: 275-287.

2015年04月01日掲載

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