加齢と運動機能(この論文では正確に描写できる手の機能のこと)悪化の関係について:中高年と高齢者の集団研究

Hoogendam YY, van der Lijn F, Vernooij MW, Hofman A, Niessen WJ, van der Lugt A, Ikram MA, van der Geest JN:Older age relates to worsening of fine motor skills: a population-based study of middle-aged and elderly persons. Front Aging Neurosci. 2014 Sep 25;6:259.

PubMed PMID:25309436

  • No.1505-1
  • 執筆担当:
    鹿児島大学医学部
    保健学科理学療法学専攻
  • 掲載:2015年5月8日

【論文の概要】

背景

 手の良好な機能は日常生活においてとても重要である。老化に伴って脳のボリュームは減少し、病理学的な異常な蓄積は、認知機能の低下とよく相関がみられる。老化によって良好な運動機能の低下はみられるけれども、関連性を結び付けられるほど研究は進んでいないのが現状である。自発的な動きは大脳構造が関与しているが、小脳もバランス機能と動きを司っており需要な役割を示している。良質な運動機能を評価する検査方法のひとつとして、アルキメデス螺旋描写検査という方法がある。この検査方法は、振戦などの巧緻動作をみる評価などに使われ、神経疾患等の検査で用いられることがある評価方法である。
 今回は、中高年と高齢者を対象として、このアルキメデス螺旋描写検査を用いてより良い運動機能を評価するとともに、脳の容量も測定し、相関を調べることとした。

目的

 本研究は,最適な肩関節の固定肢位を明らかにするための第一段階として実施した。棘上筋,棘下筋,肩甲下筋の完全断裂を筋骨格モデルでシミュレーションし,最適な固定肢位を明らかにすることを目的に,重症度と損傷筋による最適な固定肢位の違いを検討した。

方法

 無作為で検出され同意を得られた1,922名を対象とした。自己申告でパーキンソン病と告げた8名は除外され、また2名は描写の評価が困難であったために除外し、最終的に1,912名を対象とした。
 アルキメデス螺旋描写検査は、半径5.1㎝縦幅9.4㎝の大きさで電子盤上に描写してもらい、螺旋上からどの程度ズレがあるかでスコアをつけた。また、はみ出している面積や線が重なり合っている数を計測した。このスコア分けにより、1,888人が正常コントロール群に、24人が振戦と診断された。また、描写する速さや遂行時間、全長の長さ、描写速度の変異、はみ出した面積等を数値化した。
 脳の体積は、MRIで撮影し全員同じ角度、画像処理となるように撮影した。

結果

 属性として、48歳から96歳までを対象とし、年齢区分は5歳ごとに分けた。アルキメデス螺旋描写検査のクリニカルスコアで振戦と評価された24名(全体の1.3%)は、年齢、性別(男性>女性)、教育歴で正常コントロール群と比較し有意差がみられた。また、アルキメデス螺旋描写検査の全長、描写時間、描写平均速度、描写速度の変移、はみ出した面積、交差した数すべての評価項目で有意に拙劣であった。
 年齢によるアルキメデス螺旋描写検査の変化は、年齢を重ねるにつれてクリニカルスコアも悪くなっていき、特に75歳以上でその傾向がより強いものとなった。特に、模範となる線からはみ出した面積や線を交差した回数が著明であった。
 脳の体積とアルキメデス螺旋描写検査での遂行項目との相関関係については、大脳灰白質の体積が大きいほど良好なクリニカルスコアを示し(良好な結果であったとのこと)、スピードの変動が少なく(安定した一定の速度で描写できたということ)、はみ出した面積も少なく(忠実に模倣となる線をなぞれたということ)、線と交差する回数も少なかった(線上のブレが少ないということ)。大脳白質の体積が大きいほど、描写時間を要し、スピードの変動が小さく、ズレも少ない傾向にあった。小脳の白質・灰白質の体積ともに、相関関係はみられなかった。白質の欠損が大きいほど(白質の委縮があるほど)、アルキメデス螺旋描写検査のクリニカルスコアが悪いこととの相関がみられた。 

考察

 今回の結果より、いくつかのことがわかった。振戦がある人(今回は対象者全体の1.3%)は、螺旋描写のときに、素早く描く=丁寧さに欠け雑に素早く注意せずに描く傾向がある。また、年齢を重ねるにつれ、手の良好な機能(今回はアルキメデス螺旋を描写すること)は失われていくこともわかった。さらに、大脳灰白質の大きさと、アルキメデス螺旋描写検査でのクリニカルスコア・測定項目すべてで比例して良好な結果の相関がみられた。大脳白質の体積とアルキメデス螺旋描写検査でのクリニカルスコアは反比例の結果であったが、測定項目とはみられなかった(大脳白質の委縮が大きいほど、クリニカルスコアが悪い)。小脳も巧緻動作と関連があると思い検討したが、今回の結果からは小脳の画像上での体積との関連はみられなかった。

まとめ

 年齢を重ねるにつれ、手の機能は衰えていくことがアルキメデス螺旋描写検査のクリニカルスコアと計測項目(描写する速さや遂行時間、全長の長さ、描写速度の変異、はみ出した面積)を行うことでわかった。振戦がみられる人は、アルキメデス螺旋描写検査のすべての項目で悪い成績であった。さらに、大脳灰白質の体積と手の良好な機能は正の相関がみられた。

【解説】

 加齢により身体機能低下が起こることは皆が周知していることだが、どの機能がどのように、何と関連があるのか、などの詳細なことは単発的な結果か漠然とした感覚であることが多いように感じる。手の良好な機能といっても手の動きにはさまざまな種類があるが、今回はアルキメデス螺旋描写を模倣する検査方法にて検討した。アルキメデス螺旋描写検査は、ただ模倣するだけでなく空間的位置感覚が必要となってくる。筆者らは描写する行動をそれぞれ項目に分け、より詳細に検討した。この検査方法は臨床上で簡易かつ容易に行えるため参考にしたい。2000人近い人数の検査を行い、またMRIで脳所見も入手したことはとても大きな労力と苦労があったと思う。しかし、対象者の分母が大きいため、加齢による描写の影響の指標となる数値が得られたのではないだろうか。

【参考文献】

  1. Trouillas, P., Takayanagi, T., Hallett, M., Currier, R. D., Subramony, S. H., Wessel, K., et al. (1997). International cooperative ataxia rating scale for pharmaco-logical assessment of the cerebellar syndrome. The ataxia neuropharmacology committee of the world federation of neurology. J. Neurol. Sci. 145, 205–211.
  2. Haubenberger, D., Kalowitz, D., Nahab, F. B., Toro, C., Ippolito, D., Lucken-baugh, D. A., et al. (2011). Validation of digital spiral analysis as outcome parameter for clinical trials in essential tremor. Mov. Disord. 26, 2073–2080.
  3. 3) Sullivan, E. V., Rohlfing, T., and Pfefferbaum,A. (2010). Quantitative fiber tracking of lateral and interhemispheric white matter systems in normal aging: relations to timed performance. Neurobiol.Aging 31,464–481.

2015年05月08日掲載

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