筋骨格モデルシミュレーションを用いた腱板断裂修復術の最適な固定肢位の検討

Jackson M, Tétreault P, Allard P: Optimal shoulder immobilization postures following surgical repair of rotator cuff tears: a simulation analysis. J Shoulder Elbow Surg. 2013; 22(8):1011-8.

PubMed PMID:23352183

  • No.1505-2
  • 執筆担当:
    鹿児島大学医学部
    保健学科理学療法学専攻
  • 掲載:2015年5月8日

【論文の概要】

背景

 腱板断裂の罹患率は約20%であり,保存療法にて改善がみられない場合には,修復術が選択される。通常,修復術後には,患部を保護し治癒を促進するために,固定する期間が必要である。しかし,修復術後に再断裂を起こす割合は25%を超えるとの報告もあり,術後早期の固定の重要性が指摘されている。しかし,最適な固定肢位については報告が少なく,明らかになっていない。
 腱板に作用する高い受動張力は,治癒を阻害することが指摘されている。肩関節の肢位は腱板に作用する受動張力を変化させるため,最適な肢位による肩関節の固定は,治療成績を改善する可能性がある。

目的

 本研究は,最適な肩関節の固定肢位を明らかにするための第一段階として実施した。棘上筋,棘下筋,肩甲下筋の完全断裂を筋骨格モデルでシミュレーションし,最適な固定肢位を明らかにすることを目的に,重症度と損傷筋による最適な固定肢位の違いを検討した。

方法

 Jcaksonらが報告した,一般的な肩関節の筋骨格モデルを用い,筋のパラメーターについてはLangenderferらのものを用いた。損傷筋は,棘上筋の完全断裂,棘上筋・棘下筋の完全断裂,棘上筋・肩甲下筋の完全断裂とした。腱板断裂は筋長を短縮させることによりモデル化し,損傷筋の筋長を0,5,10,15,20mm短縮した筋骨格モデルを作成した。最適な固定肢位は,損傷筋の受動張力が最小になり,かつ挙上角度が最小となる肢位を,最適化法にて算出した。算出された受動張力は,ニュートラルポジションにおける受動張力と比較した。上腕骨の肢位は,挙上面と前額面のなす角,挙上角度,内旋角度で示した。

結果

 棘上筋の断裂モデルでは,損傷が重度になるに従い(0mmから20mm),挙上面と前額面のなす角は13から37°,挙上角度は61から109°に増加した。内旋角度は小さく,1-11°であった。最適な固定肢位では,ニュートラルポジションに比べ,棘上筋の受動張力が76-90%低下した。
 棘上筋・棘下筋の断裂モデルでは,損傷が重度になるにしたがい挙上面と前額面のなす角が小さくなる傾向を示した(0mm: 13°, 10mm: 23°, 20mm, 7°)。挙上角度と内旋角度については,棘上筋の断裂モデルと類似した結果であった。受動張力はニュートラルポジションに比べ,棘上筋で76-83%,棘下筋で29-47%低下した。
 棘上筋・肩甲下筋の断裂モデルでは,挙上面と前額面のなす角は,損傷が重症になるにしたがい28°から77°に増加した。挙上角度は58-70°,内旋角度は35-60°であった。受動張力は,棘上筋で67-81%,肩甲下筋で79-87%低下した。

考察

 本研究の結果から,腱板断裂修復術後の最適な固定肢位は,損傷された筋により異なることが示された。棘上筋断裂では,外転角度の増加により,受動張力が低下した。棘上筋・棘下筋の断裂では,挙上角度については,棘上筋断裂と同様だが,肩関節の後方を走行する棘下筋のため,最適な固定肢位の挙上面がscapula planeよりも後方となった。逆に,棘上筋・肩甲下筋断裂では,肩甲下筋の影響により,挙上面がscapula planeよりも前方となり,内旋を伴う肢位が最適であった。また,最適な固定肢位は損傷の重症度により異なり,損傷が重症になるほど,挙上角度が増加する傾向を示した。
 本研究の結果より,棘上筋断裂および棘上筋・棘下筋断裂では,外転位を保持できるOmo Immobil orthosis (Otto Bock)などの装具が推奨される。また,棘上筋・棘下筋断裂では,scapula planeよりも前方で挙上位を固定できる装具が推奨される。
 本研究では,損傷筋の受動張力を指標として,最適な固定肢位について検討を行った。しかし,術部の治癒には受動張力の他にも,血管新生などさまざまな要因が関与することが知られており,可能な限り多くの要因を検討して,固定肢位を選択するべきである。
 本研究の制約としては,筋骨格モデルの筋のパラメーターとして,健常者のデータを利用しており,腱板断裂に伴う筋萎縮や脂肪変性を考慮していないことが挙げられる。今後,これらを踏まえ,さらに検討を行う必要があると考えられる。

【解説】

 本研究は,筋骨格モデルシミュレーションを用い,腱板断裂修復術後の最適な固定肢位について検討を行った報告である。ヒトを対象とした研究では,検討することができない受動張力を検討した,有益な報告と考えられる。
 筋骨格モデルの限界として,本研究では複雑にからみあった腱板停止部や,第二肩関節などの構造が考慮されていない1,2)。これらのことを踏まえ,筋骨格モデルシミュレーションから得られた情報は,症例を対象とした介入研究の結果1)と対比させながら,解釈する必要があると考えられる。
 また,今回は固定肢位における受動張力に関する報告であったが,再断裂を予防するためには,ADLや運動療法における受動張力についても検討する必要がある。今後,さらなる基礎的データの蓄積が望まれる。

【参考文献】

  1. Gerber C, Fuchs B, Hodler J: The results of repair of massive tears of the rotator cuff. J Bone Joint Surg Am. 2000; 82(4):505-15.
  2. Mesiha MM, Derwin KA, Sibole SC, Erdemir A, McCarron JA.: The biomechanical relevance of anterior rotator cuff cable tears in a cadaveric shoulder model. J Bone Joint Surg Am. 2013; 95(20):1817-24.

2015年05月08日掲載

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