慢性心不全患者に対する繰り返しサウナ療法と運動療法の併用が心臓機能や身体活動に及ぼす影響

Haseba S, Sakakima H, Kubozono T, Nakao S, Ikeda S:Combined effects of repeated sauna therapy and exercise training on cardiac function and physical activity in patients with chronic heart failure. Disabil Rehabil. 2015 May 5:1-7.

PubMed PMID:25941983

  • No.1508-1
  • 執筆担当:
    鹿児島大学医学部
    保健学科理学療法学専攻
  • 掲載:2015年8月1日

【論文の概要】

背景

 慢性心不全(chronic heart failure: CHS)は、寿命の増加や医療の向上により、高齢者において世界的に増加している。CHS患者は運動耐容能が低下し、ADLや健康QOLが低下する。一般的にCHS患者は利尿薬や血管拡張薬などの薬物治療を行っている。非薬物療法や非手術療法として繰り返しサウナ療法や運動療法がある。繰り返しサウナ療法は和温療法として知られ、心臓機能の改善、心不全症状の軽減、運動耐容能の改善、血管内皮機能の改善などが報告されている1)。同様に、運動療法は運動耐容能の向上や生命予後の改善が報告されCHS患者に対する心臓リハビリテーションの中心的役割を担っている。しかしながら、CHS患者に対する和温療法と運動療法の併用の有効性に関する報告は少ない。

目的

 本研究の目的は、CHS患者に対する和温療法と運動療法の併用による有効性を自覚症状、心臓機能、ADL、歩行能力の観点から検討することである。

方法

 2007年1月から2012年12月までの5年間に当院心臓血管内科に入院し、和温療法を実施した患者は8 1名であった。その内、運動療法を併用したのは46名であった。対象の除外基準は(1)入院時左室駆出率が40%以上かつ入院時脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)が80pg/ml未満、(2)心不全の軽症例で、NYHA心機能分類がclass 1または2でかつ、入院時ADLがBarthel Index (BI)で100点、(3)心不全の極めて重症例もしくは他の重篤な合併症を有し、入院時BNPが1000pg/ml以上、とした。その結果、和温療法と運動療法を併用した群(併用治療群)26名、和温療法のみを行った群(単独治療群)28名を対象とし、比較検討した。全例とも症状に応じて、利尿剤、ACE阻害剤、αβ-遮断薬、抗不整脈剤などの薬物治療を受けていた。
 和温療法は、遠赤外線乾式サウナを用いた60℃のサウナ浴を15分間施行し、出浴後30分の安静保温を行い、その後脱水の予防目的に発汗量に応じた飲水を行った。午前中に1日1回、週5日行った。
 運動療法は呼吸困難や易疲労性といった心不全症状の悪化傾向がないこと、浮腫や急激な体重増加がないこと、四肢の他動運動後に循環動態が安定していることを確認して開始した。理学療法プログラムは四肢や体幹の他動および自動介助運動、ベッド上起居動作練習、端座位保持、起立、立位練習、筋力強化、歩行練習、サイクル型エルゴメータ、ADL練習等を午後に1日1回、40分、週5日施行した。
 評価項目は、NYHA心機能分類、胸部X線検査から心胸郭比(CTR)、血液生化学検査からBNP、心エコー検査から左室駆出率(LVEF)、左室拡張末期径(LVDd)、左室収縮末期径(LVDs)、左室内径短縮率(FS)、左房径(LAD)、ADLの評価については、BIと歩行能力とした。歩行能力の評価は、病院内での可能な歩行能力について独自の7段階に分かれる歩行能力グレード(Grade1: ベッド上安静(歩行不可能)、Grade2: 立位可能であるが歩行には介助が必要、Grade3: 室内歩行は可、Grade4: 病棟内歩行可能、Grade5: 200m未満の短距離の歩行は独立して可能、Grade6: 200mから500mの間の歩行は独立して可能、Grade7: 500mより長い距離を病棟内で歩行可能)を作成し、評価を行った。
 また、運動療法開始時および退院時に心肺運動負荷試験(CPX)が施行可能であった17 名に対し、嫌気性代謝域値(AT)と最大酸素摂取量(peak V(dot)O2 )、V(dot)E/V(dot)CO2 slopeを求めた。

結果

 NYHA心機能分類は、入院時と退院時の比較において併用治療群と単独治療群ともに有意に改善が認められた。しかし、退院時のNYHA心機能分類は両群間に有意差を認めなかった。
 併用治療群のCTR、BNP、LVEFは入院時に比べ退院時に有意に改善した。しかし、HR、BP、LVDd、LVDs、FS、LADは有意な改善を示さなかった。単独治療群はHR、BP、CTR、BNP、LVEF、LVDd、LVDs、LADが入院時に比べ退院時に有意に改善した。しかし、FSは有意に改善しなかった。CTR、BNP、LADは入院時と退院時で両群間に有意差を認めなかったが、退院時のLVEF、LVDd、LVDs、FSは両群間で有意に異なった。特に入院時と退院時のLVDdの変化量は、両群間で中等度の効果量(Effect size)を示した。
 BI得点は両群ともに運動療法開始時と比べ退院時に有意に改善した。退院時のBI得点は併用治療群が単独治療群より有意に高かった。入院時と退院時のBI得点の変化量は、両群間で中等度の効果量を示した。
 歩行能力において、grade1-3は、併用治療群が入院時14例から退院時1例になったのに対し、単独治療群では入院時11例から退院時5例が室内歩行にとどまっていた。病棟内歩行が自立しているgrade6-7は、退院時に併用治療群が20例、単独治療群が18例となり、併用治療群の歩行能力が高かった。また、入院時と退院時の歩行能力の変化量は、両群間で中等度の効果量を示し、併用治療群は単独治療群と比較して改善度が高いことが示された。
 CPXを施行した症例の運動療法開始時と退院時を比較するとpeak V(dot)O2とV(dot)E/V(dot)COslopeに有意な改善が認められた。

考察

 この研究のゴールはCHF患者に対する和温療法と運動療法の併用の有効性を評価することである。今回、併用治療群はCHF患者の身体活動、BNP値を改善させ、心エコー検査では心臓機能を改善し、胸部X線検査から心臓の大きさを減少させ、運動耐容能を改善させた。これらの結果は和温療法のみの単独治療群でも同様であったが、併用治療群のNYHA心機能分類の改善、歩行能力やADLの改善は単独治療群より統計学的に有意性が高く、特に併用治療群の退院時歩行能力やADLは単独治療群と比較して有意な改善を認めた。これは、CHF患者に対する和温療法と運動療法の併用は心臓機能を改善させ、さらに運動療法を併用することにより身体機能の改善を促進することを示唆している。中でも、重症心不全患者に対して和温療法を先行して実施することで心不全症状の改善を促進し、より積極的で効率的な運動療法を施行可能となり、退院時のADL能力や歩行自立度の向上が得られることが期待できると考えられる。CHF患者に対する和温療法と運動療法の併用は大変有用性が高く、心臓機能の改善だけでなくADLや歩行能力向上に有用である事が示唆された。

【解説】

 和温療法は1995年鹿児島大学の鄭忠和教授らが、うっ血性心不全患者に対する有効性を報告2)し、現在、慢性心不全患者に多く使用されている治療法である。慢性心不全患者に対する和温療法は心臓血管機能の改善やリラクゼーションによる精神面の改善が示されている。また、運動療法は運動耐容能を改善しADLを向上させることが報告されている。本研究は後方視的に和温療法と運動療法の併用が慢性心不全患者に及ぼす影響を心臓機能、活動性の面から検討し、和温療法に加えて運動療法を施行することは、心不全患者にとって心臓機能やADLを改善するのにさらなる効果が期待できることを示している。特に重症心不全患者には運動療法を行う前に和温療法を実施することで心不全症状が改善し、より積極的に運動療法が導入可能となり、ADLや歩行能力の自立度向上が得られることを示している。
 和温療法は精神的なリラクゼーションや鎮痛効果を通して身体や精神面の不調を減少させる。そのため、和温療法と運動療法の併用は慢性心不全患者の心臓機能、歩行能力、ADL、健康QOLを改善するための包括的治療として推奨されるかもしれない。

【引用・参考文献】

  1. Miyata M, Tei C. Waon therapy for cardiovascular disease: innovative therapy for the 21st century. Circ J. 2010 74(4):617-21.
  2. Tei C, Horikiri Y, Park JC, Jeong JW, Chang KS, Toyama Y, Tanaka N. Acute hemodynamic improvement by thermal vasodilation in congestive heart failure. Circulation. 1995 15; 91(10):2582-90.

2015年08月01日掲載

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