TENSによる鎮痛効果に影響を与える要因について

Agripino ME, Lima LV, Freitas IF, Souto NB, Santos TC, DeSantana JM.Influence of Therapeutic Approach in the TENS - induced Hypoalgesia.Clin J Pain. 2015 Apr 28. [Epub ahead of print]

PubMed PMID:25924098

  • No.1601-1
  • 執筆担当:
    畿央大学健康科学部
    理学療法学科
  • 掲載:2016年1月4日

【論文の概要】

背景と目的

 TENSは鎮痛目的の非侵襲的電気治療であり、様々な疾患や障害に使用されている。近年明らかになっているTENSの鎮痛メカニズムには、内因性オピオイドの血中、脳脊髄液内の濃度上昇、下行性疼痛抑制経路の賦活、脊髄レベルでの鎮痛作用、様々な神経化学物質への影響などである。しかし、セラピストの説明や患者のTENSに対する期待度などが鎮痛にどのような影響を及ぼすのかを明らかにした研究はほとんどない。そこで、本研究の目的はこれらを変化させたりすることがTENSの鎮痛効果に影響を与えるのかを明らかにすることである。

方法

 被験者は健常人(18歳から34歳、平均年齢:20.4歳)161人であり、TENSの知識、経験がある人や一般的禁忌、疾患のある人を除外している。ダブルブラインドランダム化比較研究であり、下記の6群にランダムに割り当てている。
グループ1: TENSが鎮痛に効果的で、圧痛閾値が上昇すると説明してTENSを実施した群
グループ2: TENSが鎮痛に効果的で、圧痛閾値が上昇すると説明してプラセボTENSを実施した群
グループ3: TENSはあまり鎮痛に効果的でなく、圧痛閾値が一過性に低下すると説明してTENSを実施した群
グループ4: TENSはあまり鎮痛に効果的でなく、圧痛閾値が一過性に低下すると説明してプラセボTENSを実施した群
グループ5: TENSは鎮痛に効果的であるが、圧痛閾値に対する効果は不明と説明してTENSを実施した群
グループ6: TENSは鎮痛に効果的であるが、圧痛閾値に対する効果は不明と説明してプラセボTENSを実施した群
圧痛閾値(PPT)はプレッシャーアルゴメーターを使用(面積は1cm2)して、疼痛を感じ始めた時の圧力を測定(Nm)した。測定部位は第1中手骨橈側の背側と前腕中央腹側部位の2箇所である。また、この時の疼痛強度についてNumerical Scale(NS)で測定するが、測定時期はいずれもTENS前後である。さらに、対象の特性不安と状態不安についてState Trait Anxiety Inventory(STAI)を使用して測定した。TENS介入後には実施されたTENSが本当のTENSであったかプラセボ刺激であったかを確認している。TENSはEmpi社製の機器であり、治療時間30分間、使用した自着性電極は3×4cm、電極貼布部位は前腕腹側(手関節と近位10cmに合計2枚、1チャンネル)、周波数100Hz、パルス幅100μsecであった。プラセボTENSでも全く同一機種を使用するが、30secは通常のTENSが実施され、15secかけて漸減するプログラムを使用している。データ解析は、コルモゴロフ–スミルノフ検定後、カテゴリー変数にはカイ二乗検定、独立した測定には一元配置の分散分析を使用し、ポストホックテストにはボンフェローニ法を使用した。

結果

 グループ1,5ではPPTがTENS後にTENS前と比較して有意に上昇し、また、グループ3,4群よりも有意に上昇していた。グループ3ではTENS前後でPPTの有意差がなかった。すべてのプラセボ群(グループ2,4,6)でTENS前後PPTの有意差はなかった。NSはグループ1,5でTENS後に有意に軽減し、グループ3,4よりも有意に軽減した。グループ3ではTENS後にNSは有意に軽減しなかった。不安感についてはグループ間に有意差がなかった。研究終了時にブラインドについて確認したが、グループ間で有意差はなかった。

考察

 TENS開始前にTENSの効果を伝えることで実験的疼痛閾値が上昇し、ネガティブなTENSの影響を伝えると、実験的疼痛閾値の変化が見られなかった。これらはノセボ効果と考えられる。ノセボ効果とは、症例がある治療に悪い印象を持つと、悪い結果を引き出したり、副作用が発生する効果のことを言うが、TENSにも同様の影響がある事が示唆された。先行研究では不安感がコレシストキニンシステムを活性化し、疼痛を誘発すると報告されている。これらからも臨床家はTENSに関する十分なインフォームドコンセントを実施することが大変重要である。

まとめ

 健常人に対してTENSの効果を説明してから実施すると、ネガティブな説明をしてから実施するよりも実験的疼痛閾値がTENS後に上昇する。これらはノセボ効果によると考えるが、臨床家はTENS実施時にノセボ効果を最小にするために十分な説明を実施すべきである。本研究の限界としては、対象者のTENSに対する期待度を測定していないことがある。

【解説】

 TENSは太い求心性神経線維を刺激し、結果的に下行性疼痛抑制経路を活性化すると考えられている。例えば、中脳水道周囲灰白質(periaqueductal grey : PAG)や吻側延髄腹内側部(rostal ventromedial medulla : RVM)、脊髄の神経活動をブロックするとTENSの鎮痛効果が認められなくなる。この研究で使用しているような高周波TENS(HF TENS)はヒト、動物の血中、脳脊髄液内のベータエンドルフィンの濃度を上昇し、脳脊髄液内のダイノルフィンの濃度を上昇させる。RVMのオピオイド受容体のブロックや脊髄内のオピオイド受容体のブロック、PAGのブロックなどでHF TENSによる鎮痛効果が消失する。また、脊髄のムスカリン受容体とGABAA受容体をブロックするとHF TENSによる鎮痛効果が消失するが、脊髄のセロトニンやノルアドレナリン受容体をブロックしてもHF TENSの鎮痛効果に影響を与えていないと報告されている。従って、HF TENSはオピオイド受容体、ムスカリン受容体、GABAA受容体などを含めた内因性抑制メカニズムを活性化することで鎮痛すると考えられている。一方、10Hz以下程度の低周波TENS(LF TENS)はHF TENSと鎮痛作用機序が異なっているが、脊髄内やRVMのμオピオイド受容体のブロック、腹外側PAGのブロックによってLF TENSによる鎮痛効果が消失する。また、脊髄内のGABAA受容体、セロトニン5-HT2A、5-HT3、ムスカリンM1、M3受容体をブロックするとLF TENSの鎮痛効果が消失するので、LF TENSの鎮痛効果はセロトニンの放出増大と関係していると考えられている。LF TENSでは下行性疼痛抑制経路がより賦活されると考えられている。

【参考文献】

  1. Mark Johnson. : Transcutaneous Electrical Nerve Stimulation(TENS) Research to support clinical practice. Oxford university press, 2014.

2016年01月04日掲載

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