アクションビデオゲームをすることで島の機能的接続や灰白質量が増加する

Gong D, He H, Liu D, Ma W, Dong L, Luo C, Yao D.Enhanced functional connectivity and increased gray matter volume of insula related to action video game playing.Scientific Reports 2015 April 16 ; 5 : 9763.

PubMed PMID:25880157

  • No.1602-3
  • 執筆担当:
    鹿児島大学医学部
    保健学科理学療法学専攻
  • 掲載:2016年2月4日

【論文の概要】

背景

 島は大脳皮質の一領域で外側溝の奥にあり、注意や感覚運動などの神経ネットワークに関与していることが報告されている。また、アクションビデオゲームは高度の注意と手と目の協調性が必要であり、アクションビデオゲームの経験が課題の遂行能力を向上させ、認知機能に影響を与えるとする報告がみられる。しかしながら、注意や運動感覚で重要な機能を持つ島にアクションビデオゲームの経験が与える影響について検討した報告は少ない。

目的

 島を前部の神経ネットワーク(A-network)、後部の神経ネットワーク(P-network)とそれらの移行部の3つに分けて、それらの関係や皮質との接続性、島の灰白質の量に影響を与えるかどうかについて検討する。これは、アクションビデオゲームは注意や感覚運動の機能に影響を及ぼすとの報告があることから、機能の分かれた前部と後部を結ぶ神経経路に変化が生じていると予測されるからである。これらのことを示すことにより、成人や高齢者において脳の可塑性を促す可能性を示すことになる。

方法

 対象はアクションビデオゲーム専門家として、6年間以上の経験があり地方や全国大会で優勝したことのある27名(平均年齢23.26 ± 0.4歳)とした。比較の対象とした初心者はアクションビデオゲームをする習慣がなく経験が1年以内の30名(平均年齢22.3 ± 0.38歳)とし、全員右ききで目や聴覚、神経機能の障害歴がない者とした。島の神経ネットワークは、島の調査部位を10カ所決めて、それぞれのつながりをMRIにより測定された神経線維密度を比較して検討した。また、灰白質の量もMRIを使用して比較検討した。更に皮質との関連性はファンクショナルMRIを使用して検討した。

結果

 島の神経ネットワーク変化には左右差があり、左は初心者と比較すると専門家の方が有意に神経密度は高くなっている部分が多く認められた。左では特にP-networkとA-network、移行部との間で神経線維密度の有意な増加が認められた。また、島の一部で初心者と比較すると専門家の方が灰白質の量が有意に増加しており、トレーニング時間と灰白質の量に有意な相関が見られる部位があった。島に関連する皮質の活動を比較すると、注意に関連する島前部から投射される皮質の領域は、初心者でも専門家でも大きな違いが見られないのに対して、感覚運動に関連する島後部から投射される部位に違いが認められた。専門家は島前部から投射される皮質の領域と、島後部から投射される領域に重なる部分が認められた。

考察

 島の前部や後部の機能、それらの機能的なつながりに関してはCaudaらの研究とアクションビデオゲームの初心者の結果は同様のものであった。今回の研究では、初心者と専門家を比較することで左島の変化の優位性、前部と後部の関連性強化、前部と注意に関するネットワークと後部と感覚運動に関するネットワークの強化、更に後部と注意に関するネットワークの新たな形成について確認することができた。これらの結果から、アクションビデオゲームをすることで島の神経機能に影響を与えられることが考えられた。今後はアクションビデオゲームをすることと神経可塑性の関係の原因を検討する必要がある。

【解説】

 島は認知、情動、感覚運動との関連が知られており、中毒症状の治療標的としての可能性や行動選択に関する役割等、多くの研究報告がみられる。島の機能や神経ネットワークに関してはCaudaらの研究で丁寧に分析されているが、本研究は刺激による機能変化の可能性を検討した点が大変興味深い。刺激の種類や強度と脳の可塑性の関連が明確にできれば、理学療法介入に応用できる可能性があるので、今後の研究発展に期待したい。また、MRIを使用した研究はコストがかかるため我々が実際に行うことは難しいが、今回の研究のような報告が増えると、刺激に対する脳応答の解明が進み治療に役立つと考えられる。

【参考文献】

  1. Cauda, F. et al. Meta-analytic clustering of the insular cortex: characterizing the meta-analytic connectivity of the insula when involved in active tasks. NeuroImage 62, 343–355 (2012)
  2. Cauda, F. et al. Functional connectivity of the insula in the resting brain. NeuroImage 55, 8–23 (2011).

2016年02月04日掲載

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