脳卒中用短下肢装具の底屈制限角度が下肢の運動学的変化に与える影響

Lee HY, Lee JH, Kim K:Changes in angular kinematics of the paretic lower limb at different orthotic angles of plantar flexion limitation of an ankle-foot-orthosis for stroke patients.J Phys Ther Sci. 2015 Mar;27(3):825-8.

PubMed PMID:25931739

  • No.1603-2
  • 執筆担当:
    畿央大学健康科学部
    理学療法学科
  • 掲載:2016年3月1日

【論文の概要】

目的

 短下肢装具(AFO)は、脳卒中患者が独歩するのをアシストしてくれる重要なものである。そこで、今回は、足関節底屈制限角度の違いが、脳卒中患者のマヒ側で股関節と膝関節の運動力学的要素に与える影響を調べることにした。

方法

 被験者は脳卒中患者15名。男性13名、女性2名。右マヒ8例、左マヒ7例。平均年齢46.5±14.4歳、平均体重68.5±8.1kg、平均身長168.3±5.7cm、発症後平均月数は26.5±12.5ヶ月であった。 被験者は0°(中間位)、背屈5°、背屈10°、背屈15°、背屈20°の5種類の足関節底屈制限角度に設定したAFOをそれぞれ装着し、歩行中の3次元動作解析(VICON system)により股関節と膝関節の最大屈曲角度などの動力学的解析を行った。

結果

 一歩行周期中のどのタイミングも底屈制限角度の違いによる股関節角度には、3平面上のいずれも統計学的に有意な差は見られなかった。 立脚期中期の膝関節矢状面最大角度(最大屈曲角度)は0°で5.5±0.8°、5°で8.0±0.7°、10°で9.3±0.7°、15°で11.5±0.7°、20°で13.6±0.8°となり、0°と比べて,10°、15°、20°のときに有意に膝関節最大屈曲角度が大きくなった。 立脚期中期の膝関節水平面最大角度(最大外旋角度)は0°で3.4±0.9°、5°で1.0±1.0°、10°で1.4±0.7°、15°で3.5±1.0°、20°で4.6±1.1°となり、0°と比べて、20°のときに有意に膝関節最大外旋角度が大きくなった。 しかし、一歩行周期中のどのタイミングも前額面角度(内外反角度)は制限角度の違いによる統計学的に有意な差は見られなかった。

考察

 脳性マヒ児を対象とした同様の報告でも足関節の10°以上の底屈制限角度は歩行中の股関節角度には影響を与えず、膝関節の屈伸角度と回旋角度に変化を与えると報告されている。本研究は、脳卒中患者の歩行姿勢の変化に対する基本的なデータを提供するものになった。

【解説】

 脳卒中片マヒ患者に使用するAFOは独歩獲得には非常に重要である。特に、装具の硬さや足関節角度(底屈制限角度)のディファイニング:defining(数ある装具から特定の装具を選定すること)は重要だが、選定を決定づける客観的因子はなかなかないのが現状である。この論文は装具のディファイニングに寄与するものであるが、有意差が出たことに対するバイオメカニカルな考察がないのが残念である。

2016年03月01日掲載

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