認知症高齢者におけるADL依存度とバランスへの高強度機能的運動プログラムの効果

Toots A, Littbrand H, Lindelöf N, Wiklund R, Holmberg H, Nordström P, Lundin-Olsson L, Gustafson Y, Rosendahl E.Effects of a High-Intensity Functional Exercise Program on Dependence in Activities of Daily Living and Balance in Older Adults with Dementia.JAGS 64:55–64, 2016

PubMed PMID:26782852

  • No.1608-2
  • 執筆担当:
    畿央大学健康科学部理学療法学科
  • 掲載:2016年8月1日

【論文の概要】

背景と目的

 WHOによると認知症は高齢者のADL依存を引き起こす主因であり、公衆衛生において重要視されるべき問題であるとされている。認知機能低下はバランス機能低下に関連し、その影響は認知症のタイプと重症度により異なるとされている。本研究の目的は認知症高齢者に対する高強度機能的運動プログラムがADL自立度およびバランス機能に及ぼす効果と運動効果が認知症のタイプにより異なるかどうかを調査することである。
 

方法

 本研究はクラスター無作為化比較試験である(Umeå Dementia and Exercise (UMDEX) study)。スェーデンのウメオ地区における16カ所の介護施設入所者186名(36クラスター)を対象とした。参加者は認知症の診断を有する65歳以上の高齢者でADL依存があり,MMSEは10点以上の者である。
 研究参加者のうち93人が下肢筋力強化とバランス運動から構成される高強度の機能的運動プログラムに割り当てられ、他の93名はコントロールとして座位活動に割り当てられた。高強度の機能的運動プログラム(HIFE)は立ち上がりや歩行、立位での体幹回旋など荷重位で行う日常生活動作に即した39運動で構成されている。介入期間は4ヶ月間(トータル40セッション)とし、筋力強化は参加者の状態に合わせて出来るだけ低い位置からの立ち上がりや、高いステップ動作などを8-12最大反復回数(RM)で実施し、バランス練習はベルト装着にて支持基底面を狭くする、または変更など方法で理学療法士の見守り下で実施された。評価は割り付けをブラインドされた測定者によりADL自立度はFIMおよびBarthel Index (BI)で測定し、バランス機能はBerg Balance Scale (BBS)を用いて評価した。測定はベースラインと介入後4ヶ月時と7ヶ月時に行った。
 

結果

 線形混合モデルでは介入後4ヶ月時(FIM=1.3, 95%CI=1.6-4.3,BI=0.6, 95%CI=0.2-1.4)および7ヶ月時(FIM=0.8, 95%CI=2.2-3.8,BI=0.6,95%CI=0.3-1.4)におけるADL自立度に群間差は認められなかった。バランス機能は4ヶ月時において有意な群間差が認められ運動を行った群が高い値を示した(BBS=4.2, 95%CI=1.8-6.6)。相互作用解析では運動の効果は認知症のタイプにより有意に異なっていた。群間における良好な運動効果は非アルツハイマー型認知症(脳血管性、混合型、その他)の参加者において、7ヶ月時点のFIMおよび4ヶ月時と7ヶ月時のBIとBBSスコアにおいて明らかとなった。

考察

 機能的運動療法が認知症を有する施設入所者のバランス機能を改善させたことは、類似した設定で行われた先行研究結果と一致している。しかし、今回の研究においてはバランス機能の改善やADL自立度の低下を抑える効果は非アルツハイマー型認知症者に限定的であることを示唆している。運動療法に対する良好なレスポンスがアルツハイマー型認知症者では得られなかった事は運動学習の困難さを反映しているかもしれない。本研究結果は認知症を単一の疾患とみなすのではなく、別々の臨床症状で構成されるものであり、病状管理を最適化するために異なる治療戦略が必要であるとする見解を支持している。
 

まとめ

 施設入所している軽度から中等度の認知症高齢者に対する4ヶ月の高強度な機能的運動プログラムは非アルツハイマー認知症のみではあるが、ADL自立度の低下を遅らせ、バランス機能を改善させるものと思われる。

【解説】

 地域包括ケアシステム、介護予防の推進が注目される中、認知症関連研究も軽度認知障害(MCI)、認知症リスク軽減に関する臨床研究が脚光を浴びている。しかし、認知症と診断された症例に対して、運動療法の持つ三次予防としての重要性について明らかにしていくことは非常に重要なテーマである。認知症を有する施設入所者に対して、高強度かつ積極的な運動療法の効果を明らかにするには研究デザインや介入方法などかなり難易度が高いものが必要となることから、本研究実施にあたっての研究者へのエフォートは相当に高いものであったのではないかと想像される。ある意味、理学療法の原点にも立ち返ったとも思われる個別化された介入手法と、得られた研究成果は今後の認知症者に対する運動介入を考える上で貴重なものであるが、認知症の中でも最も大きな割合を占めるアルツハイマー型に対する効果が明らかでなかったことは同時に大きな課題が残る研究とも言える。
 

2016年08月01日掲載

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