70-89歳の高齢者に対する体系化身体活動プログラムの重篤な転倒外傷予防への効果:無作為化比較試験(LIFE Study)

Gill Thomas M, Pahor Marco, Guralnik Jack M, et al. Effect of structured physical activity on prevention of serious fall injuries in adults aged 70-89: randomized clinical trial (LIFE Study) BMJ 2016; 352 :i245

PubMed PMID:26842425

  • No.1610-1
  • 執筆担当:
    畿央大学健康科学理学療法学科
  • 掲載:2016年10月1日

【論文の概要】

背景

 年間30%の高齢者が転倒し、その20-30%は中等度~重篤な外傷を引き起こす。生活機能低下や要介護状態につながりかねない重要な課題である。近年、転倒予防ための運動プログラムが多く存在するが、重篤な転倒に対する効果を大規模RCTで示されたものが少なく、エビデンスが十分であるとはいえない。

目的

 大規模高齢者介入研究であるLIFE Studyにより、体系化された身体活動プログラムが高齢者の重篤な転倒外傷を予防できるのかを検討することとした。

方法

 2010~2013年にアメリカの8施設で実施された。対象は70-89歳の高齢者 1635人で、選択基準は重篤な疾患、認知機能低下がなく、座りがちな生活をしており(運動が20分未満/週、中等度の身体活動が125分未満/週)、簡易身体能力バッテリー(SPPB)が9点以下で運動機能低下は認めるものの、介助や補助具なしで15分以内に400mを歩行することが可能であった者とした。施設、性別での層別無作為割付により以下の2群に分けられた。
 介入内容は体系化身体活動プログラム群(818人)として、150分/週を目標に、歩行・筋力・柔軟性・バランストレーニングを施設で週2回、および自宅で週3~4回の頻度で24~42ヶ月間継続させた。運動の負荷は軽度から徐々に上げていった。健康教育群(817人)では講義(運動を増やす内容ではなく高齢者に関連した内容)と上肢のストレッチ等を週1回の頻度で26週間実施し、その後は月1回継続させた。
 メインアウトカムは重篤な転倒(椎骨骨折を含まない骨折で入院を要した症例)とし、6ヶ月毎に42ヶ月まで評価した。転倒による活動制限についても聴取した。その他の項目として、身体機能はSPPB、身体活動量は自己式の質問紙(CHAMPS)および加速度計のアクチグラフを用いて7日間測定した。統計解析について、統計ソフトSASを用い、介入効果の比較は性別ごとにCox比例ハザードモデル分析を行った。また、重篤な転倒のタイプごとに二項分布モデル、転倒による生活制限においてポアソン回帰分析を行った。

結果

 ベースラインとして平均年齢が79歳、女性率 67%、1年以内の転倒歴50%で両群の患者背景はほぼ同等であった。約2.6年の追跡の結果、身体機能は男性のみで改善、身体活動量は質問紙も加速度計ともに男性が有意に増加していた。期間中の転倒者は両群とも約60%で、重篤な転倒外傷は身体活動プログラム群の75人(9.2%)、健康教育プログラム群の84人(10.3%)と両群間に有意差はみられなかった(ハザード比0.90、95% CI 0.66 - 1.23; P=0.52)。サブグループ解析では、重篤な転倒外傷について、リスク比0.54、持続的な活動制限につがる転倒についてもリスク比0.66と男性で低い結果となった。

考察

 低活動高齢者に対する中等度の身体活動プログラムが、重篤な転倒外傷予防への有意な効果を示すことはできなかったが、男性では低い結果も認められた。男性で身体機能、身体活動量ともに増加したことが関連していると考えられる。しかし、身体活動量が増加しても健康教育群と同等の安全性を確保できたとも言える。

【解説】

 本研究は歩行や筋トレを含めた体系的身体活動プログラムによる重篤な転倒外傷予防効果について多施設共同単盲検無作為化試験を大規模でかつ長期に渡って検討した論文である。本論文は一見、ネガティブな結果を示しているように見える。しかし、重篤な転倒外傷におけるシステマティックレビューやメタアナリシスでは運動の効果がすでに示されている1,2)一方、身体活動量を向上させることは転倒のリスクを上げる3)と指摘されている中で身体活動量を増加させるプログラムの安全性を示したものである。「動きすぎると転倒してしまうかもしれないので、どこまで身体活動を促せばいいのかわからない」という現場の不安に対する一つの回答になる可能性がある。身体活動は転倒だけでなく、さまざまな健康関連のアウトカムを改善することが明らかであるので、参考にすべきところが多い。また、対象者の平均BMI 30と本邦の対象者像とは大きく異なることも理解しておく必要がある。

【引用・参考文献】

  1. Pahor M, Guralnik JM, Ambrosius WT, et al. LIFE study investigators. Effect of structured physical activity on prevention of major mobility disability in older adults: the LIFE study randomized clinical trial. JAMA 2014;311:2387-96. doi:10.1001/jama.2014.5616. 24866862.
     
  2. El-Khoury F, Cassou B, Charles MA, Dargent-Molina P. The effect of fall prevention exercise programmes on fall induced injuries in community dwelling older adults: systematic review and meta-analysis of randomised controlled trials. BMJ 2013;347:f6234.24169944.
     
  3. Sherrington C, Whitney JC, Lord SR, Herbert RD, Cumming RG, Close JC. Effective exercise for the prevention of falls: a systematic review and meta-analysis. J Am Geriatr Soc 2008;56:2234-43. doi:10.1111/j.1532-5415.2008.02014.x. 19093923.
     

2016年10月01日掲載

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