包括的ケアアプローチは肺移植未実施の特発性肺線維症患者において生存率を改善する

Kulkarni T, Willoughby J, Acosta Lara M P, Kim Y, Ramachandran R, Alexander C B, Luckhardt T, Thannickal V J, Andrade J A.: A bundled care approach to patients with idiopathic pulmonary fibrosis improves transplant-free survival. Respiratory Medicine, 2016, 115:33-38

PubMed PMID:27215501

  • No.1610-2
  • 執筆担当:
    畿央大学健康科学部理学療法学科
  • 掲載:2016年10月1日

【論文の概要】

背景

 特発性肺線維症(IPF)は、生命予後が不良であり、治療法も限定された慢性肺疾患である。薬物療法では生存率の改善は得られず、現在承認されている薬物療法でも疾患の進行を遅らせる程度である。2011年のATS/ERS/JRS/ALATによるステートメントでは、IPF患者において「4~6ヶ月毎の臨床的なfollow-up」、「低酸素血症に対する酸素療法(LTOT)の検討」、「肺高血圧症の治療」など、いくつかの治療管理が推奨されている。
 包括的ケア(BOC:Bundled of care)は確実に実施されたとき、患者にとって効果的となる。慢性心不全患者や慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者における感染症や急性増悪では、BOCにより入院中の死亡率は減少する。また、急性増悪を来たしたCOPD患者では、BOCにより症状が改善し、再入院率も減少している。しかし、肺移植未実施のIPF患者において、BOCの実施が死亡率に及ぼす影響を検討した報告はない。

目的

 IPF患者において、2011年のガイドラインでの治療管理の推奨項目をベースとしたBOCが実施された場合、IPF患者の治療管理のoutcomeおよび死亡率に影響を及ぼすか検討することである。

方法

 本研究は、後方視的コホート研究である。対象は、IPFと診断され、2000年1月1日~2013年12月31日の期間にバーミンガム・アラバマ大学(UAB)の肺移植研究/臨床データベースに登録された患者458名とした。このうち、2011年のガイドラインの診断基準を満たさない者(98名)、follow-upできなかった者(74名)、気腫合併特発性肺線維症(2名)を除いた284名で解析した。
 BOCの構成要素は、①間質性肺疾患(ILD)専門センターで、少なくとも6ヶ月に1回の肺機能検査を受けていること、②少なくとも1年に1回、呼吸リハビリテーションの実施を促されていること、③少なくとも1年に1回、低酸素血症の評価のために歩行テストを実施されていること、④少なくとも1年に1回、心エコー検査を実施されていること、⑤胃食道逆流症に対して薬物療法が継続されていることの5項目とした。BOCスコアは、調査期間中に1項目がfollow-upされたら「1」、5項目全てfollow-upされたら「5」とした。対象者の平均BOCスコアを「BOCS」、follow-up 1年目のスコアを「BOCY1」とした。Outcomeは、対象者が肺移植術を施行するまで、あるいは死亡するまでの期間とした。

結果

 IPF患者284名の平均年齢は65±9.5歳で、男性は196名(69%)であった。肺機能検査では、%FVC 63±17%、%DLCO 45±15%で、164名(58%)は肺生検によりUIPパターンと診断された。肺移植未実施での生存期間は、平均20.5ヶ月であった。
 BOCSのスコアレベル間、およびBOCY1のスコアレベル間では、年齢、性別、喫煙歴、BMI、%FVC、%DLCOに差はなかった。BOCSが低値(スコア1以下)の患者では、BOCSが高値(スコア4以上)の患者に比べて、肺移植未実施での生存率は低下を示した(HR 2.274, CI 1.12-4.64, p=0.024).BOCY1が低値(スコア1以下)の患者では、BOCY1が高値(スコア1以上)の患者に比べて、肺移植術施行および死亡のリスクは高かった(≦1 vs. >4, HR 2.23, p=0.014; >1 to 2 vs. >4, HR 1.87, p=0.011; >2 to 3 vs. >4, HR 1.72, p=0.019)。また、ILD専門センターの受診が少なかった患者は、肺移植術施行および死亡のリスクが高かった(HR 1.563, CI 1.14-2.15, p=0.006)。 

考察

 BOCSおよびBOCY1が低値であるIPF患者では、BOCSおよびBOCY1が高値である患者と比較して、肺移植未実施での生存率は低下を示した。また、呼吸リハビリテーション実施の促しや低酸素血症の評価のための歩行テストの実施が少ないことより、ILD専門センターへの受診が少ないことが、肺移植術の施行や死亡のリスクを高めることが示唆された。IPFの診断後、初期の積極的で集中的な介入が、最終的に肺移植未実施の生存率に強く影響を及ぼす可能性が考えられた。
 今後は、IPF患者の最良な治療管理のため、前方視的に検討する必要がある。

まとめ

 IPF患者において、2011年のガイドラインでの治療管理の推奨項目をベースとしたBOCの実施は、肺移植未実施の生存率に影響を及ぼすことが示された。

【解説】

 IPFは生命予後が不良である慢性肺疾患で、2011年のATS/ERS/JRS/ALATによるガイドラインにおいても、有効な薬物療法は示されていない。また、IPF患者における呼吸リハビリテーションの効果に関しても報告されてきているが、呼吸リハビリテーションや理学療法の効果が得られる前に、病状が不安定となり急激に悪化することも多いため、疾患の安定化を目的とした治療管理が重要となる。
 本研究は、2011年のガイドラインでの治療管理の推奨項目を基に、肺移植未実施のIPF患者に対してBOCを実施した場合の生存率を初めて検討した研究である。BOCのスコアが高い(診断後、受診や検査などのfollow-upを受けている)患者では、BOCスコアが低値の患者に比べて、肺移植術や死亡のリスクが低く、肺移植未実施での生存率にも関連を示した。研究の限界として、後方視的コホート研究であり、BOCのアドヒアランスにバイアスがかかっている可能性や、対象者の文化的思考や保険制度(生活水準)に関して考慮されていない点はあるが、IPF患者においてBOCによる介入が生存率を改善させることを示唆する有用な論文であると考える。

【引用・参考文献】

  1. Raghu G, Collard HR, Egan JJ, et.al.: An official ATS/ERS/JRS/ALAT statement: idiopathic pulmonary fibrosis: evidence-based guidelines for diagnosis and management. Am. J. Respir. Crit. Care Med. 2011, 183:788-824
  2. Kozu R, Jenkins S, Senjyu H: Effect of disability level on response to pulmonary rehabilitation in patients with idiopathic pulmonary fibrosis. Respirology. 2011 16(8):1196-1202

2016年10月01日掲載

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