脳性麻痺歩行中における筋シナジーと神経筋制御の複雑性

Steele KM, Rozumalski A, Schwartz MH.Muscle synergies and complexity of neuromuscular control during gait in cerebral palsy.Dev Med Child Neurol. 2015 Dec;57(12):1176-82.

PubMed PMID:26084733

  • No.1612-2
  • 執筆担当:
    札幌医科大学大学院
    保健医療学研究科
    井上 孝仁
  • 掲載:2016年12月1日

【論文の概要】

背景

 脳性麻痺者は出生前後の脳損傷によって運動が障害される。神経筋の制御がどのように行われているか理解することで、脳性麻痺の病的な運動を識別できるようになる。

目的

 本研究の目的は、(1)健常者が示したシナジーと脳性麻痺者のシナジーにどのような違いがあるか評価すること、(2)シナジーと機能的活動、臨床検査尺度、診断のサブタイプがどのような関係があるか明らかにすることである。

方法

 歩行中の筋シナジーは過去に記録された633名のデータを用いて分析された。(3.9-70歳):脳性麻痺者549名(片麻痺 122名、両麻痺 266名、三肢麻痺 73名、四肢麻痺 88名)、健常者 84名。シナジーは、過去に臨床で歩行分析を行い集められた表面筋電図のデータから非負値行列因子分解を用いて算出された。さらにそのデータをもとに歩行中の動的運動制御を表すDynamic motor control index during walking(Walk-DMC)が算出された。表面筋電図の記録は両下肢の大腿直筋、内側ハムストリングス、外側ハムストリングス、腓腹筋内側頭、前脛骨筋にて行われた。歩行中のシナジーの複雑性は診断のサブタイプ、機能的活動、臨床検査尺度と比較された。機能的活動は(1) the Gross Motor Functional Classification System (GMFCS)と(2) the Gillette Functional Assessment Questionaire (FAQ)を用いて測定された。筋力はthe Kendal scaleを用いて股関節、膝関節、足関節で測定された。痙縮はThe Ashworth Scaleを用いて股関節屈筋群、ハムストリングス、大腿直筋、足関節底屈筋群で測定された。選択的運動制御は股関節、膝関節、足関節に対して行い、パターン化した運動を0点、一部独立した運動を1点、完全に独立した運動を2点として測定された。

結果

 健常者と比較すると脳性麻痺者で、わずかなシナジーが歩行中の筋活動を記録するために必要とされた。脳性麻痺者のWalk-DMCは健常者と比較すると有意に低い値を示し、サブタイプの重症度が増すほど低い値を示した。GMFCSやFAQのレベルが低くなるほどシナジーが減少して、Walk-DMCの値も低くなった。3つ以上のシナジーを用いることが可能な少数の脳性麻痺者のシナジーの構造は健常者のシナジーの構造と類似しているが、ほとんどの脳性麻痺者がハムストリングスと腓腹筋、大腿直筋と前脛骨筋の2つのシナジーだけで活動している。Walk-DMCは選択的運動制御、筋力、痙縮を含んだ臨床検査尺度や機能障害と有意な相関を認めた。

考察

 脳性麻痺者は健常者と比較すると歩行中に簡易化した制御戦略を用いていた。これらの結果は成人脳卒中患者の歩行中のシナジーと類似しており、脳性麻痺者と脳卒中患者のどちらも類似した神経筋の制御戦略を用いていることが示唆された。

【解説】

 本論文は、脳性麻痺者の歩行中の筋シナジーの健常者との違いを評価し、機能的活動、臨床検査尺度、診断のサブタイプとの関係を検討した研究である。脳性麻痺に対して非負値行列因子分解を行った最初の研究であるため参考となる論文である。
 筋電図による評価は客観的かつ定量的な脳性麻痺者の評価に繋がり、異常な運動制御についての理解を深めることができるという点でリハビリテーションに貢献する。
 近年、脳性麻痺者の運動制御に対する評価バッテリーが確立され、運動制御やシナジーについての関心が高まっているが、それらの病因について明らかになっていないことも多くみられる。そのため本論文のように詳細な評価を進めていくことがより効果的な治療に繋がると考えられる。

【引用・参考文献】

  1. Fowler EG, Staudt LA, et al.: Selective Control Assessment of the Lower Extremity (SCALE): development, validation, and interrater reliability of a clinical tool for patients with cerebral palsy. Dev Med Child Neurol. 2009; 51(8):607-14.
  2. Cahill-Rowley K, Rose J: Etiology of impaired selective motor control: emerging evidence and its implications for research and treatment in cerebral palsy. Dev Med Child Neurol. 2014; 56(6):522-8.

2016年12月01日掲載

PAGETOP