脳性まひ児に対する介入のシステマティックレビュー:最新のエビデンス

Novak I, et al. : A systematic review of interventions for children with cerebral palsy: state of the evidence. Dev Med Child Neurol. 2013 Oct;55(10):885-910.

PubMed PMID:23962350

  • No.1702-1
  • 執筆担当:
    札幌医科大学大学院
    保健医療学研究科
    安部 千秋
  • 掲載:2017年2月1日

【論文の概要】

背景、緒言

 医療的な介入の30-40%は根拠に基づいた報告ではなく、さらに驚くべき事に提供されている介入の20%は効果がない、不必要あるいは有害であると報告されている。この10年間で脳性まひに関するエビデンスの基盤は急速に拡大を続け、新しく安全でより効果のある介入が臨床医や家族へ提供されている。整形外科的手術などはかつて主要な介入であったが、痙縮治療や運動学習は近年ますます支持を得ている。多くの文献が出ている中で最新の知見を手に入れ続けることが臨床家にとって困難になってきている。

目的

 本研究の目的は脳性まひ(以下CP)児に対する介入のエビデンスを体系的に示すことである。

方法

 本研究はシステマティックレビューを体系的にまとめたものである。データベースはCINAHL、Cochrane Library、DARE、EMBASE、Google Scholar、MEDLINE、OTSeeker、PEDro、PsycBITE、PsycINFO、speechBITEから検索を行った。包含基準は以下の通りである。(1)システマティックレビュー、あるいは次善の策が入手可能であること(2)医療的な介入であること(3)対象者の25%以上がCP児であることである。介入はOxford levels of evidence、GRADE system、Evidence Alert Traffic Light System(信号の色によるエビデンス表示)、ICFによってコード化された。信号の色は治療効果に対する信頼度および治療の推奨度を加味して“緑信号”“黄信号”“赤信号”のいずれかに決定される。

結果

 全体を通して166の論文が取り込み基準を満たした(74%がシステマティックレビュー)。介入は64通りあり、それに伴うアウトカムは131通りとなった。それらのアウトカムの16%(21/131)は“その治療はやるべき”(緑信号)、58%(76/131)は“その治療はやっても良い” (黄信号)、20%(26/131)は“その治療はやらない方がいい”(黄信号)、6%(8/131)は“その治療はやってはいけない”(赤信号)とランク付けされた。“緑”の介入は、抗けいれん薬・両手トレーニング・ボツリヌス療法・ビスフォスフォネート・キャスティング・CI運動療法・環境に焦点を当てた治療・ジアゼパム・フィットネストレーニング・目標指向治療・股関節 の定期的な評価・ホームプログラム・ボツリヌス療法後の作業療法・除圧ケア・選択的後根切除術の15通りの介入となった。中でも痙縮管理において推奨される(do it)治療はボツリヌス療法・ジアゼパム・選択的後根切除術である。拘縮管理において推奨される治療は下肢のキャスティングである。運動活動において推奨される治療はCI運動療法・環境に焦点を当てた治療・目標指向治療・ホームプログラム・ボツリヌス療法後の作業療法・両手トレーニングである。機能およびセルフケアにおいて推奨される治療は目標指向治療・ホームプログラムである。骨密度の改善に対して推奨される治療はビスフォスフォネートのみである。また、筋力改善において推奨される治療はなく、全て(上下肢の筋力トレーニング・電気刺激・全身への振動刺激・ボイタ法)が黄信号である。
 全介入においてエビデンスの多く(70%)は低いエビデンスレベルである“黄信号”であるのに対し、6%は効果のない“赤信号”であった。

考察

 システマティックレビューから有力なエビデンスが提案された。エビデンスは15の緑信号の介入を支持している。全ての黄信号の介入は鋭敏な評価によるモニタリングを加えていくべきであり、赤信号の介入は治療の選択肢から取り除くべきである。標準的なケアを使用する際に有効性の根拠が不足していることは脳性まひ者や医療の提供者にとって大きな問題である。脳性まひは幼少期から生涯にわたって多くの身体的な障害を持っているため、厳格なデザインを使用したさらなる研究が現在でも求められている状態にある。

まとめ・結論

 本研究におけるシステマティックレビューによりCP児に対する15の介入は推奨されるものであることが体系的に示された。

【解説】

 脳性まひは永続的な疾患であり、生涯にわたってケアが必要である。実際に歩行機能に関する報告では幼少期に歩行可能であった脳性まひ者の25%以上は成人期になると歩行機能低下あるいは歩行不可能になる1)とされている。このような結果を回避するためにもさらなる効果的な治療が求められる。ここ10年間で脳性まひの治療は大きく変化している。家族中心で子どもの成長に合わせて問題点を抽出し、より高いエビデンスの治療を提供していかなくてはならない2)。また、研究に関してはまだエビデンスの確立がされていない分野がある。そのため、積極的にエビデンスレベルの高い研究を継続していく必要がある。脳性まひに対する本邦の研究規模は小さく他施設との共同も非常に少ないため、脳性まひの分野においても研究規模を広げていく必要がある。

【引用・参考文献】

  1. Morgan P.,McGinley J.: Gait function and decline in adults with cerebral palsy: a systematic review.Disabil Rehabil. 36:1-9,2014
  2. Palisano R.: A collaborative model of service delivery for children with movement disorders: a framework for evidence-based decision making.Phys Ther. 86:1295-1305,2006 

2017年02月01日掲載

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