道路横断時の歩行の時空間的パラメータについて:若年者と高齢者における比較

Vieira ER et al. : Temporo-spatial gait parameter during street crossing conditions:A comparison between younger and older adults. 
Gait Posture. 2015 Feb;41(2):510-5.

PubMed PMID:25530113

  • No.1707-2
  • 執筆担当:
    札幌医科大学大学院 
    保健医療学研究科
    志水宏太郎

  • 掲載:2017年7月1日

【論文の概要】

背景、緒言

 歩行者が巻き込まれる交通事故は道路の横断中に発生する場合が多い。特に高齢者において安全に道路を横断する場合には運動機能のみならず、複雑な動作の組み立てなどのための高度な認知機能が求められる。したがって加齢に伴う道路横断の歩行パラメータの変化を明らかにすることはエビデンスに基づく治療方針や患者教育トレーニングを考える上で重要となる。

目的

 本研究では、道路横断という二重課題シチュエーション下における歩行の時空間パラメータ変化について、若年者と高齢者間で比較することで転倒リスクに関する評価方法について発展的な知見を得ることを目的とした。

方法

​ 健常若年者22名および高齢者22名を対象とし、取り込み基準は過去6か月以内に骨折などの整形外科学的疾患のない者とした。
 歩行機能の測定にはGAITRite-systemを用いて、歩行速度、ケイデンス、歩幅、支持基底面、ステップ時間、遊脚期時間、立脚期時間、両脚支持期時間をそれぞれ求めた。なお歩幅に関しては、対象者の下肢長で補正した。 
 測定条件は以下の3条件で実施した:通常歩行、道路横断を想定した条件(スクリーンに横断歩道を映した条件)で7秒以内に歩行する条件、横断歩道を想定した条件で3秒以内に通行する条件。

結果

 年齢群および条件間で歩行パラメータの有意差が認められた。特に高齢者においては、道路横断条件になると歩行速度が増加する一方で、若年者と比較して道路横断速度は遅いという結果が得られた。高齢者は道路を横断する際には、通常歩行より13%歩幅を長くとり、立脚期と遊脚期時間を60ms、両脚支持期時間を100ms短くすることで歩行速度を増加させる戦略を道路横断時にとることが示された。

考察

 加齢に伴う道路横断時の歩行パラメータの変化が認められた。これらは、サルコペニアに由来する筋肉量の低下やバランス機能の低下、認知機能の低下、神経伝達速度の低下、加齢に伴う関節可動域制限により引き起こされる可能性がある。特に早い移動が求められる道路横断時にはケイデンスを増加させることで適応するため、転倒リスクが高まることが予測される。

まとめ・結論

 本研究から得られた基礎的な知見は、道路横断時における転倒や事故のリスクを検討することや、加齢に伴うリスク、および高齢者が安全に道路横断するために適切な時間を確立することなど多岐にわたって用いられることが期待される。

【解説】

​ 本研究は屋外の道路横断時における運動学的特徴の加齢に伴う変化を検討している。近年の研究では歩行者回避1)、横断歩道2)などの環境を実験室で再現して検討した研究が多く、その戦略性や加齢に伴う戦略の変化、衝突のリスクなどについて明らかにされている。本研究の結果は本文でも述べられる通り、道路横断時の運動学的パラメータの基礎的なデータであり、今後あらゆる屋外歩行研究で応用されることが期待される。

【引用・参考文献】

  1. Huber M, Su YH, Krüger M et al.: Adjustments of speed and path when avoiding collisions with another pedestrian. PLoS One. 2014 Feb 26;9(2):e89589
  2. Butler AA, Lord SR, Fitzpatrick RC.: Perceptions of Speed and Risk: Experimental Studies of Road Crossing by Older People. PLoS One. 2016 Apr 7;11(4):e0152617

2017年07月01日掲載

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