腎臓病と転倒:公表されたエビデンスのレビュー

López-Soto PJ et al. : Renal disease and accidental falls: a review of published evidence. BMC Nephrol. 2015 Oct 29;16:176.

PubMed PMID:26510510

  • No.1708-1
  • 執筆担当:
    札幌医科大学大学院保健医療学研究科
    田井 啓太
  • 掲載:2017年8月1日

【論文の概要】

背景、緒言

  転倒の発生原因は複雑で、転倒の危険因子を同定することは転倒予防のために不可欠である。心血管疾患や神経疾患は転倒の重大な危険因子であるが、慢性腎不全(CKD)もまた、転倒の本質的な危険因子である。しかしながら、腎臓病と転倒の関係は明らかにされていない。

目的

 本研究の目的は、有用なエビデンスを集め、転倒と腎機能障害の関係を調査すること。

方法

 文献検索はMEDLINE、Scopus、Ovid SP、Web of Scienceを使用して、2014年10月におこなわれた。キーワードは“accidental falls”、“chronic”、“renal insufficiency”、“kidney diseases”を使用して検索をおこなった。論文の包含基準はⅰ) 観察研究であること、ⅱ) 成人および高齢CKD(末期慢性腎不全(ESRD)前とESRDの両方)患者を含む研究であること、ⅲ) CKD患者の転倒を増加させる因子の研究であることとした。最終的に14論文が採用された。 

結果

 14論文のうち8つが前向きコホート研究、5つが横断研究、1つがケースコントロールで、ランダム化比較試験はなかった。
 
<前向きコホート研究>
 8つの論文すべてが血液透析(HD)患者を対象に調査された。CKD患者の転倒発生率は1.18~1.60/人年であったと報告されている。転倒の危険因子について3つの論文で65歳以上の年齢、2つの論文で女性、過去の転倒歴、抑うつとその治療、1つの論文で男性、薬の数、フレイル、歩行障害、低栄養、合併症、糖尿病、高い教育歴が転倒危険因子に挙げられた。転倒関連の障害発生として、転倒に関連する骨折の発生率は3.9~4.0%と報告されている。また、転倒者の死亡のリスクは2.13倍、施設入所のリスクは3.5倍、入院のリスクと数・期間は2倍であった。

<横断研究>
 5つの論文すべてが外来HD患者を対象に調査された。1つの論文で転倒発生率が調査され、転倒発生率は0.88/人年と報告されている。転倒の危険因子として1つの論文で年齢、性別、姿勢低血圧、25-OH-D(25水酸化ビタミンD:ビタミンD充足度の評価指標)が転倒の予測因子として考えられた。転倒関連の障害発生として、転倒者の11.2%に骨折が起こったと報告されている。

<症例対照研究>
 1つの症例対照研究は入院中のCKD患者の転倒のリスクの評価をおこなった。転倒は1905名のうち635名で記録された。転倒の危険因子としては貧血、肺炎、不整脈、胃腸疾患、糖尿病が抗うつ薬と抗けいれん薬と同様に転倒のリスク因子であった。

考察

 本研究は転倒とCKDの関連を調査したが、重要なトピックにもかかわらず、14論文しか包含基準を満たさなかった。コホート研究からCKD患者の転倒発生率は1.18~1.60/人年であった。転倒の危険因子には健常高齢者の主な転倒危険因子である加齢や過去の転倒歴がCKD患者でも転倒危険因子として挙げられた。その他にはフレイルが転倒の重要な危険因子として報告された。HD患者はHDに伴う電解質の不均衡や起立性低血圧が転倒に関連すると想定されるが、HD前後での血圧変動と転倒の関連はないことが報告されている。重篤な転倒の発生率は0.20~0.37/人年で、骨折の発生は4~11.2%の範囲で起こった。また、16%が転倒で入院が必要となり、4%は転倒が原因で亡くなった。身体への影響だけでなく転倒後は転倒恐怖感を含む転倒後症候群により、身体活動量が減り、筋力低下やさらなる身体活動量低下といった悪循環にもつながる。

まとめ・結論

 CKD患者の転倒の影響を分析したデータは少なかった。レビューからHD患者の転倒が多いことが示されたが、腎移植や腹膜透析、末期腎不全前の尿毒症患者の転倒については明らかにされていない。フレイルは転倒の重大な危険因子で、フレイルに関連するものとして低栄養や尿毒症などが含まれると考えられる。さらに低栄養は転倒の危険を増加させるサルコペニアや能力低下の原因となる。転倒の危険因子を明らかにするために、今後はより多くの研究で特にランダム化比較試験の研究が必要になるだろう。また、転倒の危険因子として視覚障害や薬物の使用、末期腎不全前の患者に多い夜間頻尿について評価することも価値のあるものとなるだろう。

【解説】

 レビューからCKD患者は転倒発生率が高く、転倒に伴う障害発生や死亡の危険が高いことが示されている。障害発生率が高い要因として、CKD患者では腎不全による二次性副甲状腺機能亢進症と活性型ビタミンD産生障害が腎性骨異栄養症を招き、外傷時の骨折リスクを増加させることが一つの要因と考えられる。実際に、CKD患者のうちHD患者に限局した論文で大腿骨頸部骨折の発生率が同年健常者の5倍1)と報告され、このような点からもCKD患者の転倒危険因子を把握し転倒を予防していくことは重要なことと考えられる。
​ CKD患者は同年健常者と比較して筋力2)やバランス機能3)が低下していることが報告されている。これらの身体機能の低下は健常高齢者の転倒危険因子で、CKD患者においても身体機能の低下が転倒に関連する可能性は大いに考えられる。しかしながら、レビューにも示されているようにCKD患者の転倒危険因子を調査した研究は少なく、特に身体機能と転倒の関連を調査した研究はわずかしかない。理学療法士の視点から、HD患者の身体機能の低下を予防し転倒予防につなげていくことは重要な課題となる。今後はCKD患者の転倒危険因子についてさらなる研究をおこない、転倒危険因子を明らかにし、転倒予防の介入をおこなうことで、障害発生やADL・QOLの低下を防ぐことが重要になると考えられる。

【引用・参考文献】

  1. Minako Wakasugi, Junichiro James Kazama, Masatomo Taniguchi, et al: Increased risk of hip fracture among Japanese hemodialysis patients. J Bone Miner Metab 31: 315-321, 2013
  2. Evangelia Kouidi, Maria Albani, Konstantinos Natsis, et al: The effects of exercise training on muscle atrophy in haemosialysis patients. Nephrol Dial Transplant 13: 685-699, 1998
  3. Sunghoon Shin, Hae Ryong Chung, Peter J. Fitschen, et al: Postural control in hemodialysis patients. Gait Posture 39(2):723-727, 2013

2017年08月01日掲載

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