応用歩行条件下における歩行戦略の年齢による違いについて

Lowry KA et al. : Age-Related Differences in Locomotor Strategies During Adaptive Walking. J Mot Behav. 2017 Jul-Aug;
49(4):435-440.

PubMed PMID:27870605

  • No.1708-2
  • 執筆担当:
    札幌医科大学大学院保健医療学研究科
    志水 宏太郎
  • 掲載:2017年8月1日

【論文の概要】

背景、緒言

 下肢と体幹との同時コントロールは応用歩行が求められる環境では重要視されている。特に歩行中における左右方向のコントロールは転倒リスクにも直結すると考えられている。そのため応用歩行中の左右方向のコントロール能力が高齢者の転倒評価に有用だと考えられ、多くの研究が実施されてきた。しかしながら、前後方向の運動コントロールと併せて検討された研究は少なく、その関係性は明らかではない。

目的

 本研究では応用歩行条件下における歩行戦略の年齢による違いについて明らかにすることを目的とし、様々な歩隔のコントロールが要求される条件下における歩行動作の前後および左右方向の調整能力について検討した。

方法

 健常若年者19名、健常高齢者18名を対象とした。歩行機能の測定には加速度計を用い、参加者の体幹に装着した。得られた加速度波形からHarmonic ratioを前後方向、左右方向それぞれ算出し歩行の安定性の指標とした。またシート式歩行測定計GAITRiteを用いてステップ時間、歩隔、ステップ長をそれぞれ歩行変数として測定した。なお歩行条件は、①通常歩行、②狭い通路、③広い通路とした。

結果

 高齢者では、前後方向より左右方向のHarmonic ratio を保持し、より短い歩幅をとる戦略をとった。また高齢者では歩行変数のバラツキの増大が認められた。

考察

 本研究では、左右方向のHarmonic ratio の差が認められなかった一方で、前後方向のHarmonic ratioに関しては、高齢者において歩行条件変化によって低下が認められた。したがって、高齢者は左右方向の歩行コントロールを優先する戦略がとられたことが推察される。本研究の結果は歩行パラメータやCOMの軌跡を扱った先行研究の結果を支持しており、既存の先行研究の結果をさらに発展させた内容であるといえる。

まとめ・結論

 高齢者は、特に応用歩行条件下では、前後方向より左右方向のコントロールを優先し、歩幅やステップ長を減少させることで適応していることが明らかとなった。本研究結果は高齢者の日常生活場面の歩行の特徴を示す結果となったといえる。

【解説】

 障害物や隙間などを通過する際の応用歩行場面における運動学的特徴については近年様々な研究が行われており、特に加齢に伴う運動学的特徴の変化が注目されている。Hackneyらの研究1)では、加齢に伴う隙間通過の戦略性の違いについて検討しており、高齢者では歩行中の左右方向の動揺が大きいため、広い隙間でも迂回して通過する戦略が選択されることが明らかにされている。また本研究では、Harmonic ratioを歩行のスムーズさの指標として用いており、新規性の高い知見であるといえる。

【引用・参考文献】

  1. Hackney AL, Cinelli ME .: Young and older adults use body-scaled information during a non-confined aperture crossing task. Exp Brain Res. 225:419-29,2013

2017年08月01日掲載

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