成長期サッカー選手における体幹伸展時の腰椎骨盤リズムの変化

Tojima M. et al. : Changes in lumbopelvic rhythm during trunk extension in adolescent soccer players. Gait Posture. 2017 Feb;52:72-75.

PubMed PMID:27883987

  • No.1709-2
  • 執筆担当:
    札幌医科大学大学院保健医療学研究科
    山根 裕司
  • 掲載:2017年9月5日

【論文の概要】

背景、緒言

 成長期のアスリートにおいては、腰椎分離症や椎間板障害が原因の腰痛を経験するものが多い。腰痛の因子として下肢筋タイトネスや骨盤と腰椎の協調性不良が報告されている。骨盤と腰椎の協調性は、腰椎骨盤リズム(以下LPリズム)として知られている。成長期における体幹伸展時におけるLPリズムについて調査した研究は無い。

目的

 LPリズムによる評価を用いて、成長期サッカー選手における腰痛の発生因子を明らかにすること。   

方法

 対象は63名の男子サッカー選手(12.7±0.6才)。初回の測定と6ヶ月後の2回評価を行った。評価項目は、腰痛の有無(医師による診断)と、体幹伸展時のLPリズムとした。LPリズムは三次元動作解析装置(VICON)を用い、腰椎の伸展角度および骨盤の後傾角度を測定し算出した。腰痛の有無で以下の4グループに分けた。①2回とも腰痛無し(以下NBP)②初回時に腰痛が有り6ヶ月後に腰痛無し(以下PN)③初回時に腰痛無し6ヶ月後に腰痛有り(以下NP)④2回とも腰痛有り(以下LBP)。初回と6ヶ月後の腰椎伸展角度、骨盤後傾角度およびLPリズムを、各グループ内で比較した。また、LPリズムを示すために線形予測を使用した。

結果

 NPグループにおいて、腰椎の伸展角度が初回39.6°から6ヶ月後35.4°と有意に減少した。LBPグループにおいては骨盤後傾角度が初回10.7°から6ヶ月後12.9°と有意に増大した。LPリズムは、NPグループでは初回3.4、6ヶ月後2.8、LBPグループにおいては初回2.8、6ヶ月後2.3と有意に減少した。線形予測の結果、骨盤が1°伸展したときの腰椎伸展は、NBPグループでは3.1°(初回)、2.8°(6ヶ月後)、PNグループでは3.5°(初回)、3.2°(6ヶ月後)、NPグループでは3.4°(初回)、2.8°(6ヶ月後)、LBPグループでは2.8°(初回)、2.3°(6ヶ月後)であった。

考察

 NPグループ(初回から6ヶ月後の間で腰痛が発生)において、腰椎の伸展角度は減少した。このグループにおいては、初回の時点で骨盤に対する腰椎の伸展運動が大きかったため腰椎に負荷が加わり腰痛を発症し、6ヶ月の時点では腰椎の運動が減少した可能性が考えられた。LBPグループ(初回も6ヶ月後も腰痛あり)では6ヶ月後に骨盤後傾が増大していたが、腰痛が骨盤に対する腰椎伸展を制限させ、骨盤を代償的に後傾させていたためLPリズムが減少したと考える。本実験結果で測定した成長期におけるLPリズムは2.3から3.5であり、健常人におけるLPリズムは1.9であると報告した先行研究よりも大きかった。このことは、高いLPリズムを持つ成長期サッカー選手は、腰椎への負荷が大きく腰痛のリスクが高いということを示唆する。

まとめ・結論

 腰痛のある成長期サッカー選手は腰痛のないものと比較し、股関節に対する腰椎の伸展角度が大きかった。成長期サッカー選手において、腰痛を予防するためには股関節に対する腰椎の伸展を制限させるべきである。  

【解説】

 体幹の運動時における腰椎の角度変化量と骨盤の角度変化量の割合を腰椎骨盤リズムという。この値が1より大きいことは、腰椎の運動の割合が大きい事を示し、1より小さいことは骨盤の運動の割合が大きいことを示す。体幹屈曲動作では、初期は腰椎の運動が優位で、中期では同じ割合となり、後期では骨盤の運動が優位になると報告されている1)。腰痛患者での腰椎骨盤リズムは、健常人とは異なることが報告されており2)3)、体幹屈曲運動における腰椎と骨盤の運動の協調性不良が腰痛発生と関連する可能性があると考えられている。一方、体幹伸展動作における腰椎骨盤リズムについての報告は非常に少なく、成長期における報告は見られない。
 本文中で述べられている腰椎分離症は、成長期のスポーツ選手によく見られる疾患である4)。病態は関節突起間部の疲労骨折で、第5腰椎に多発する4)。体幹伸展動作と回旋動作において、第5腰椎の関節突起間部への応力が特に大きくなることが報告されており、繰り返しの伸展動作・回旋動作が発生原因と考えられている5)。腰椎分離症の発生要因についてはまだ不明な点が多く、発症要因となるような体幹運動の特徴について着目した研究は全く無い。腰部疾患発生と、体幹伸展時の腰椎と骨盤の協調性の関係について調査したこの論文は、腰椎分離症を含めた成長期における腰部疾患の発生メカニズムを解明するために意義があるものであると考える。

【引用・参考文献】

  1. Esola MA, McClure PW, et al.: Analysis of lumbar spine and hip motion during forward bending in subjects with and without a history of low back pain. Spine. 1996; 21: 71-78
  2. McClure PW, Esola MA, et al: Kinematic analysis of lumbar and hip motion while rising from a forward, flexed position in patients with and without a history of low back pain. Spine. 1997; 22: 552-558
  3. Kim MH, Yi CH, et al: Comparison of lumbopelvic rhythm and flexion-relaxation response between 2 different low back pain subtypes.Spine. 2013; 38: 1260-1267
  4. Leone A, Cianfoni A, et al: Lumbar spondylolysis: a review. Skeletal Radiol.2011; 40: 683-700
  5. Sairyo K, Katoh S, et al: Spondylolysis Fracture Angle in Children and Adolescents on CT Indicates the Fracture Producing Force Vector: A Biomechanical Rationale. The Internet Journal of Spine Surgery. 2005; 1: 2

2017年09月05日掲載

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