成人脳性麻痺の機能的能力 ―下肢筋力の重要性―

Gillett JG, Lichtwark GA, Boyd RN, Barber LA: Functional Capacity in Adults With Cerebral Palsy: Lower Limb Muscle Strength Matters. Arch Phys Med Rehabil. 2018 May; 99(5): 900-906.

PubMed PMID:29438658

  • No.1811-1
  • 執筆担当:
    東京工科大学 医療保健学部 理学療法学科
    楠本 泰士
  • 掲載:2018年11月1日

【論文の概要】

 本研究では、Gross motor function classification system (GMFCS) レベルⅠ20名、Ⅱ13名の成人痙直型脳性麻痺者33名(15~51歳)を対象に等尺性足関節底屈筋力・背屈筋力と足関節周囲の硬さおよびGMFCSが、機能的能力を表す6分間歩行距離やlateral step-test (LST)、Timed up-stairs (TUS)に関連する要因かを検討している。各測定は装具を履かない状態で行われた。
 重回帰分析の結果、底屈筋力が6分間歩行距離、LST、TUSのいずれにも関連する要因として抽出され、底屈筋力単独の寄与率はそれぞれ61%、57%、50%だった。底屈筋力の他にGMFCSが6分間歩行距離、LST、TUSのいずれにも関連する2つ目の要因として抽出された(寄与率はそれぞれ77%、68%、64%)。LSTとTUSでは3つ目の要因として年齢が抽出された(寄与率はそれぞれ76%、72%)。足関節や腓腹筋の硬さ、足関節可動域は6分間歩行距離、LST、TUSの値と相関関係にはそれぞれあったが、機能的能力に関連する要因として重回帰分析を行うと、関連要因として抽出されなかった。

【解説】

 近年の脳性麻痺に関する報告では、筋力低下と筋の状態変化が、痙性の増悪よりも歩行機能の障害や粗大運動の手段に関係していることが示唆されている1-3)。また、等尺性の下肢筋力と移動能力は定型発達児では関連はないが、脳性麻痺児では関連があることが分かっているため、等尺性の下肢筋力は重要な評価項目の一つと考えられている4)。可動域や痙性、筋力などの機能障害を個々に評価する必要性はあるが、対象一人一人の状態を把握するためには、筋力や持久力、バランス能力などを複合して判断する機能的能力を示す評価の重要性が増している。
 本研究では機能的能力を示す6分間歩行距離やLST、TUSに関連する要因を検討し、足関節底屈筋力が関係していたことが明らかになった。成人の脳性麻痺の方々の移動能力の維持・改善のために底屈筋力に着目してリハビリテーションを行う必要性を本研究は示唆している。しかし、移動手段の様な複雑な運動は、単関節運動のみで改善することは少なく、課題特異的な要素をトレーニングに加味する必要があることも知られている。
 実際に理学療法を展開するうえで底屈筋力の重要性は頭に入れながらも、複合的な機能的能力を評価することで、複合的な能力のどの部分に特に問題があるのかという視点で、症例を検討していくことが必要である。また、今回の検討では足関節や腓腹筋の硬さ、足関節可動域は抽出されなかったが、ケアをしなくてよいわけではないことにも注意しておく必要がある。

【引用・参考文献】

  1. Ross SA, et al.: Relation between spasticity and strength in individuals with spastic diplegic cerebral palsy. Dev Med Child Neurol 2002; 44: 148-157.
  2. Eek MN, et al.: Walking ability is related to muscle strength in children with cerebral palsy. Gait Posture 2008; 28: 366-371.
  3. Ferland C, et al.: Relationships between lower limb muscle strength and locomotor capacity in children and adolescents with cerebral palsy who walk independently. Phys Occup Ther Pediatr 2012; 32: 320-332.
  4. Dallmeijer AJ, et al.: Isometric muscle strength and mobility capacity in children with cerebral palsy. Disabil Rehabil 2017; 39: 135-142.

2018年11月01日掲載

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