膝蓋腱障害に対するステロイド注射、遠心性スクワット運動、高負荷低速度運動

Kongsgaard, Mads, et al.: Corticosteroid injections, eccentric decline squat training and heavy slow resistance training in patellar tendinopathy.Scandinavian journal of medicine & science in sports. 2009, 19(6): 790-802.

PubMed PMID:19793213

  • No.1901-1
  • 執筆担当:
    東京工科大学 医療保健学部 理学療法学科
    三根 幸彌
  • 掲載:2019年1月7日

【論文の概要】

 本研究の目的は、膝蓋腱障害に対するステロイド注射、遠心性運動、高負荷低速度運動の3種類の介入プログラムの効果を比較検討することであった。本研究はランダム化比較試験であった。対象は運動習慣のある膝蓋腱障害を有する患者37人で、3か月の介入を完遂した。内訳はステロイド注射群(n=12)、遠心性運動群(n=13)、高負荷低速度運動群(n=12)であった。評価尺度はVisual Analog Scale(VAS)、Victorian Institute of Sport Assessment-Patella(VISA-P)、超音波所見、満足度などを含んでおり、3・6か月後にそれぞれ評価された。いずれの群においても、介入による明らかな悪化例はみられなかった。全ての群において、3か月後でVASとVISA-Pに有意な改善がみられた(p<0.05)。3ヶ月後から6ヶ月後にかけて、ステロイド群ではVASとVISA-Pが有意に悪化したが(p<0.05)、遠心性運動群と高負荷低速度運動群では変化しなかった。ベースラインから6ヶ月後のVASとVISA-Pの改善率については、ステロイド群と比較して高負荷低速度運動群において有意に高値を示した(p<0.05)。超音波所見による腱厚については、3か月後にステロイド群と高負荷低速度群において有意に低値を示した(p<0.05)。満足度については、6か月後において高負荷低速度群において最も満足度が高かった(p<0.05)。遠心性運動、高負荷低速度運動が膝蓋腱障害における痛み・機能障害を改善するうえで有効であることが示唆された。

【解説】

 腱障害の病態生理学については様々な理論が提唱されており,明らかにはなっていない。以前は腱炎(tendinitis)と呼ばれていたが,慢性期において炎症性サイトカインが存在しないことから,非炎症性・変性疾患として捉える考え方が英語圏では一般的となった1)。本邦においては「膝蓋腱炎」、「アキレス腱炎」、「上腕骨外側上顆炎」、「腱板炎」といった名称が依然として一般的に用いられており、本疾患に対する理解が浸透していないことを暗示している2-5)。腱障害は筋の収縮や関節運動に伴う過度な伸張力に加え,周囲の骨による過度な圧迫力に対する負荷応答として腱細胞がコラーゲン代謝などに影響を及ぼし、段階的な組織学的変化を引き起こすと考えられている(腱障害の連続体モデル)6)。運動療法は膝蓋腱障害に対する代表的な治療法の1つであり、適切な負荷により腱のリモデリングを図る治療法として腱の生理学にかなうとされている6)
 本研究によると、高負荷低速度運動が遠心性運動よりも有効であるという可能性が示唆された。遠心性運動は多くの論文で用いられ,臨床においても標準的な介入であるが,他の運動療法に比べて優れているという明らかなエビデンスは存在しない7)。したがって,膝蓋腱障害を有する患者に対して遠心性運動を優先的に処方することは再考を要する。高負荷低速度運動の利点として,遠心性運動に比べて遅発性筋痛を招きにくい可能性があることが挙げられる。また,トレーニング効果は筋の収縮様式に対して特異的であるため,遠心性運動に比べより機能的な運動である。さらに,高負荷低速運動(3回/週)は遠心性運動(2回/日,毎日)よりも頻度が少ないため,患者のコンプライアンスも高いのではないかと予想される。これらの理由から,臨床家は患者の状態・状況に応じて,従来の遠心性運動に加え高負荷低速運動も考慮するべきである。

【引用・参考文献】

  1. Khan, Karim M., et al. "Histopathology of common tendinopathies."Sports Medicine 27.6 (1999): 393-408.
  2. 宗田大.膝蓋腱炎 (ジャンパー膝) の治療 update (特集 腱・靱帯付着部症の最近の展開).整形・災害外科, 2013, 56.11: 1371-1376.
  3. 入谷誠.アキレス腱炎の予防とインソール. 理学療法ジャーナル, 2016, 50.5: 467-480.
  4. 和田卓郎, 織田崇. (2017). 整形外科手術 名人の know-how 上腕骨外側上顆炎に対する鏡視下手術.整形・災害外科,60(11), 1350-1353.
  5. 高橋憲正, 菅谷啓之, 萩原嘉廣, 河合伸昭, 柴原基, 戸野塚久紘, 森石丈二. (2010). 肩石灰性腱板炎手術症例の臨床的特徴. 肩関節, 34(2), 499-502.
  6. Cook, J. L.,Craig R. Purdam. "Is tendon pathology a continuum? A pathology model to explain the clinical presentation of load-induced tendinopathy." British journal of sports medicine 43.6 (2009): 409-416.
  7. 三根幸彌,中山孝,S Milanese,K Grimmer. 膝蓋腱障害に対する運動療法の効果 - システマティックレビュー -.徒手理学療法. 2016. 16(2). 73-82.

2019年01月07日掲載

PAGETOP