脳性麻痺児における機械的な咳介助と従来の呼吸理学療法の比較

Siriwat R, Deerojanawong J, Sritippayawan S, Hantragool S, Cheanprapai P:Mechanical Insufflation-Exsufflation Versus Conventional Chest Physiotherapy in Children With Cerebral Palsy.
Respir Care. 2018 Feb;63(2):187-193

PubMed PMID:29066586

  • No.1905-01
  • 執筆担当:
    東京工科大学 医療保健学部 理学療法学科
    栗田 英明
  • 掲載:2019年5月9日

【論文の概要】

 これまでの研究において機械的な咳介助(mechanical insufflation/exsufflation以下MI-E)は神経筋疾患の小児患者において有効性が確認されている。しかし、脳性麻痺四肢麻痺児においてのMI-Eの有効性は確認されていない。本研究の目的は、下気道炎を伴った脳性麻痺四肢麻痺児における入院期間と無気肺の改善に関してMI-Eと従来の呼吸理学療法(Conventional chest physiotherapy 以下CPT)で比較することである。
 対象は下気道炎を伴う脳性麻痺四肢麻痺児(6ヶ月~18才)の22名(MI-E群11名、CPT群11名)とした。介入は、MI-E群は(3療法/日)、CPT群は(1療法/日)実施された。結果、入院期間に関してはMI-E群が平均入院期間9日(4-24日)、CPT群が平均12日(6-42日)であり、ややCPT群で長い傾向を示したものの両群に有意差は認めなかった。また対象者のうち無気肺を呈した症例(MI-E群9名、CPT群8名)では、無気肺の改善に要した時間はMI-E群が2.9±0.8日であったのに対してCPT群は3.9±0.6日となり、MI-E群で有意に治療時間の短縮が認められた。結論として、下気道炎および無気肺を伴った脳性麻痺四肢麻痺児に対するMI-Eの使用は、気道クリアランスの時間短縮に有用であり、安全かつ効果的な介入方法である。

【解説】

 MI-Eは神経筋疾患患者の気道クリアランス方法としてしばしば用いられており、その有用性は多く報告されている。Chatwin等1)は肺炎を有する神経筋疾患患者に対するMI-Eの使用は排痰に要する時間を有意に減少させると報告しており、さらにVianello等2)はMI-Eを用いた治療がCPTと比較して治療の失敗が少なく安全性も高いと報告し神経筋疾患患者ではMI-Eを治療に含めるべきとしている。また、米国呼吸療法医学会(AARC)の臨床実践ガイドライン3)においてもMI-Eが気道クリアランスの機器として検討されている。
 このように神経筋疾患患者に対するMI-Eの報告は見られる一方で、脳性麻痺児に対するMI-Eの効果については十分な報告がないのが現状である。
 本研究では、MI-EとCPTの治療効果を入院期間、無気肺改善までの治療期間の2点で比較検討したものである。結果は入院期間には統計学的な有意差はなかったものの、入院期間が短縮する傾向にあるように見え、さらに無気肺解除への期間は有意に短縮しており良好と考えられる。しかし、介入回数がMI-Eが3回/日に対してCPTは1回/日となっている点は今回の結果に影響していると考えられ、単純にMI-Eの効果がCPTより良いというものではないと思われる。一方、MI-Eは、1回の介入時間が短くなるため、一日の介入頻度を高められる結果につながり、よりよい効果を得ることが出来ている可能性も考えられる。特に脳性麻痺四肢麻痺児については胸郭変形や低換気量などが背景にあることでCPTをより難しくする可能性がある。このような中でMI-Eを併用することはより効果を上げることが期待できると思われるので、臨床においても有意義な論文であると思われる。

【引用・参考文献】

  1. Chatwin M, et al : The addition of mechanical insufflation/exsufflation shortens airway-clearance sessions in neuromuscular patients with chest infection. Respir Care. 2009 Nov;54(11):1473-9.
  2. Vianello A, et al : Mechanical insufflation-exsufflation improves outcomes for neuromuscular disease patients with respiratory tract infections. Am J Phys Med Rehabil. 2005 Feb;84(2):83-8
  3. Strickland SL, et al : AARC clinical practice guideline: effectiveness of nonpharmacologic airway clearance therapies in hospitalized patients. Respir Care. 2013 Dec;58(12):2187-93

2019年05月09日掲載

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