ヒールの高さが、歩行中の特に下肢前額面関節モーメントに及ぼす影響

Danielle D. Barkema,Timothy R. Derrick, Philip E. Martin,Heel height affects lower extremity frontal plane joint moments during walking,Gait & Posture 35 (2012) 483–488

PubMed PMID:22169388

  • No.1907-01
  • 執筆担当:
    東京工科大学 医療保健学部 理学療法学科
    石黒 圭応
  • 掲載:2019年7月1日

【論文の概要】

 ヒール靴を履くことは、運動学的及び運動力学的に歩行を変化させ、身体に悪影響を与える可能性がある。私たちの目的は、ヒール高が前額面の股関節、膝関節や足関節モーメントにどのように影響するかを調べることである。特に膝関節は可動性や変形性関節症の観点から重要視している。 15人の女性を屋外で使用する3つの異なるヒール高(1.0,5.0,9.0㎝)および一定の速度(1.3m/sec)や至適歩行速度で計測される一方、運動力学的および床反力計のデータを同時に収集した。その結果、一定の速度や至適歩行速度の両方において、ピーク膝関節外反モーメントはヒール高が増加するにつれて継続的に増加した(1.3m/sec:0.46,0.48,0.55Nm /kg ;至適歩行速度:0.47,0.49,0.53Nm/ kg)。前額面における股関節と足関節モーメントに対するヒール高の影響は、膝関節に対する関節モーメントに類似していた。ヒール高が増加するにつれてピーク膝関節外反関節モーメントが増加したことは、膝関節内側への負荷がより大きくなったと推測できる。ヒール高の増加に伴う足関節の運動力学的な変化は、膝関節に対する内側方向への負荷を増加したとも考えられる。全体として、ヒールを履くこと特に高いヒールを履くことは、変形性膝関節症や膝関節の内方コンパートメントシンドロームの症状や変形を助長させる可能性がある。

【解説】

 フットウエアー(履物)のデザインやクッション性、硬さ、ヒールの幅や高さが歩行の運動学に与える影響はよく知られている。この研究はヒール高の変化(1.0,5.0,9.0㎝)で以前の研究で報告されている矢状面の下肢関節モーメントのみならず、前額面において、特に膝関節外反モーメントがヒールの高さとともに大きくなっていたことを示し1、変形性膝関節症ならびに膝関節の内方コンパートメントシンドロームの症状や変形に対する警告を呼び掛けている2)3
 この実験において、膝関節外反モーメントが増加する理由を考えると、ヒール高の増加に伴い、足関節の底屈角度が大きくなることによって、母趾球にて荷重する割合が大きくなり踵骨の内反が起きる。その際、足部の外反モーメントによって外力は中和される4)。歩行中ヒールの高さによって変化した足部の変化は、膝関節に対する内側への負荷を増加させたものと考えられ、その代償として大腿二頭筋長頭や腓腹筋の外側頭といった筋群の活動が活発化し、膝関節外反モーメントが増加したと考えられた。また、同様の実験5)では、ヒール高0.0,3.0,6.0,9.0㎝の4種類のヒール靴を使用し、VICON motion System(Nexus1.1)を使用した計測結果から股関節外旋モーメントが大きくなったと報告されている。いずれの実験からもヒール高を上げるという矢状面の変化が、人体の構造上、矢状面だけではなく前額・水平面へも影響を及ぼしていることが考えられる。私見ではあるが、異なるヒール高を用いた実験では、ヒールが高くなるにつれて膝関節の代償動作として2つのパターンが考えられ、ひとつは一般的に考えられる膝折れ傾向になること、もうひとつは転倒の恐怖から膝をロックする歩行形態である。今回の実験ではその記述はなく、可能ならばこのような観点から実験を行う必要性が考えられる。

【引用・参考文献】

  1. Esenyel M, Katlen W, Walden JG, Gitter A. Kinetics of high-heeled gait. J Am Podiatr Med Assoc 2003;30:914–8.
  2. Kerrigan DC, Todd MK, Riley PO. Knee osteoarthritis and high-heeled shoes.Lancet 1998;351:1399–401.
  3. Kerrigan DC, Johansson JL, Bryant MG, Boxer JA, Croce UD, Riley PO. Moderateheeled shoes and knee joint torques relevant to the development and progression of knee osteoarthritis. Arch Phys Med Rehabil 2005;86:871–5.
  4. Erhart JC, Mundermann A, Mundermann L, Andriacchi TP. Predicting changes in knee adduction moment due to load-altering interventions from pressure distribution at the foot in healthy subjects. J Biomech 2008;41:2989–94.
  5. Winter D. Biomechanics and motor control of human movement. New York:John Wiley and Sons; 1990.
  6. Bisseling RW, Hof L. Handling of impact forces in inverse dynamics. J Biomech2006;39:2439–44.
  7. 石黒圭応,中山孝,阿部薫:異なるヒール高の靴使用による歩行時の下肢の運動学的分析,日本整形靴技術協会雑誌,2016,1,3-6.

2019年07月01日掲載

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