急性ハムストリング損傷に対するリハビリテーションは痛みを伴わないべきか-無作為化比較試験-

Hickey JT, Timmins RG, Maniar N, Rio E, Hickey PF, Pitcher CA, Williams MD, Opar DA : Pain-free versus pain-threshold rehabilitation following acute hamstring strain injury: a randomized controlled trial. J Orthop Sports Phys Ther. 2019 Jun; 28:1-35.

PubMed PMID:31253060

  • No.1910-01
  • 執筆担当:
    群馬大学大学院保健学研究科保健学専攻
    坂本 雅昭
  • 掲載:2019年10月1日

【論文の概要】

 この研究の目的は、急性ハムストリング損傷患者において、痛みを伴わない範囲で行うリハビリテーション(pain-free rehabilitation: PFリハ)と軽度の痛みを許容するリハビリテーション(pain-threshold rehabilitation: PTリハ)のどちらが早期スポーツ復帰、ハムストリングの筋力回復、筋束長回復、動作時の恐怖感、再発予防に有効かを検討することである。対象は18~40歳の男性43名(PFリハ群22名、PTリハ群21名)。両群ともにハムストリング筋力トレーニングと漸進的ランニングトレーニングを週2回実施した。PF群は痛みを伴わない範囲でのトレーニングとし、PTリハ群はNumeric rating scale(NRS)4以下の範囲とした。
 結果は、両群においてスポーツ復帰時期に有意な差は認められなかったが、PTリハ群はハムストリング筋力回復と筋束長回復がPFリハ群よりも有意に優れていた。動作時の恐怖感の減少率及び再受傷率は2群間で有意な差は認められなかった。PTリハにおけるハムストリング損傷の増悪は確認されなかった。これらのことから、急性ハムストリング損傷のリハビリテーションは痛みのない範囲にとどめておく必要はないことが示唆された。

【解説】

 近年、急性ハムストリング損傷のリハビリテーションとして、いくつかのプロトコールが提唱されている。Asklingら1)のL-protocolはハムストリング伸張位での遠心性筋力に重点を置き、復帰期間の短縮と再発予防への有効性を示している。Mendiguchiaら2)の漸進的アルゴリズムは、L-protocolと比較して、復帰時期は少し遅れるがスプリント能力の回復及び再発予防においてより優れていると報告されている。また、Jimenez-Rubioら3)が作成したサッカー特異的フィールドプログラムは、試合参加に適した状態での復帰と再発予防への効果が期待されている。Asklingら1)とMendiguchiaら2)のプロトコールにおいては、運動療法やランニングトレーニングは痛みの無い範囲で実施することが定められている。しかしながら、臨床においてその方針に従うと受傷直後などはほとんどの運動療法やトレーニングが進められないことがある。本研究結果はそのような傾向に対して、軽度の痛みを許容してリハビリテーションを行っても害はなく、むしろ有益である可能性を示しており、急性ハムストリング損傷の治療を進める上での判断材料の一つとなる。
 一方で、本研究結果を臨床に適用する際には十分な注意が必要である。現在までに、性別・人種間では疼痛閾値が異なること4)、年齢を重ねるにつれ疼痛閾値が上昇すること5)が報告されている。本研究はオーストラリアで実施され、対象者は18歳以上の男性であるため、日本人・女性・18歳未満の患者に対してPTリハが同様の安全な結果をもたらすとは限らない。さらに、本研究の対象者はコンタクトスポーツであるオーストラリアンフットボールに従事している者が多いため、陸上選手のような非コンタクトスポーツに従事する選手への効果も疑問である。本邦で安全に使用するためには、さらなる研究が必要と思われる。

【引用・参考文献】

  1. Askling CM, Tengvar M, et al: Acute hamstring injuries in Swedish elite football: a prospective randomised controlled clinical trial comparing two rehabilitation protocols. Br J Sports Med. 2013; 47: 953-959.
  2. Mendiguchia J, Martinez-Ruiz E, et al: A multifactorial, criteria-based progressive algorithm for hamstring injury treatment. Med Sci Sports Exerc. 2017; 49: 1482-1492.
  3. Jimenez-Rubio S, Navandar A, et al: Validity of an on-field readaptation program following a hamstring injury in professional soccer. J Srport Rehabil. 2019; 3: 1-7.
  4. Woodrow KM, Friedman GD, et al: Pain tolerance: differences according to age, sex and race. Psychosom Med. 1972; 34: 548-556.
  5. Chapman WP, Jones CM: Variations in cutaneous and visceral pain sensitivity in normal subjects. J Clin Invest. 1944; 23: 81-91.

2019年10月01日掲載

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