非特異的腰痛と股関節の可動域制限には関連があるか -システマティックレビュー ー

Avman MA, Osmotherly PG, Snodgrass S, Rivett DA : Is there an association between hip range of motion and nonspecific low back pain? A systematic review. Musculoskelet Sci Pract. 2019 Jul; 42: 38-51.

PubMed PMID:31030110

  • No.1910-02
  • 執筆担当:
    群馬大学大学院保健学研究科保健学専攻博士後期課程
    青柳 壮志
  • 掲載:2019年10月1日

【論文の概要】

 この論文では非特異的腰痛の有無と股関節の可動域制限との関連を明らかにすることを目的としてシステマティックレビューを実施している。対象論文は股関節の屈伸、内外転、内外旋の可動域を測定しているものとし、straight leg raise testなどの純粋な股関節可動域と判断できない評価は対象外としている。また、非特異的腰痛群と健常群を比較した研究のみを対象としている。最終的に24編の論文が採択され、股関節内旋可動域の制限は非特異的腰痛の有無と関連が認められ、その他の可動域は両群において有意な差は認められなかったとしている。しかしながら、股関節の可動域計測方法が論文間で一致していないこと、バイアスを多く含む質の低い研究が多いことが問題点として挙げられている。それゆえ、エビデンスの質はとても低いと結論づけられており、今回の研究目的を明らかにするためには、今後質の高い研究が必要であるとされている。

【解説】

 股関節と腰椎の運動学的関連性は広く周知されており、腰痛の原因として股関節の可動域制限を挙げることは決して珍しくはない。Shumら1)は、腰痛患者は物を拾う動作において、健常人と比較して股関節・腰椎の屈曲方向の運動範囲が小さく、腰椎回旋・股関節内外転方向の運動範囲が大きいと報告している。これらの運動戦略の違いは腰痛を有することの結果と考えられ、日常生活動作における腰椎と股関節の関連性を示している。これらの関連性を基に、Bernetら2)は股関節に対する理学療法が腰痛へ与える影響を検討するため、システマティックレビュー・メタアナリシスを行っている。その結果として、腰部に加えて股関節機能への介入を追加しても、痛み・機能障害の変化は腰部治療のみと比較して有意な差はないと報告している。本研究においても、股関節内旋可動域制限以外は腰痛の有無と関連が認められなかった。これらの研究結果を考慮すると、股関節可動域制限を有する腰痛患者に対して、一概にその可動域制限が原因であると捉えず、多角的に評価し原因を適切に推察すべきである。
 本研究結果は、決して股関節の評価・治療が非特異的腰痛の改善に無意味であるということではない。非特異的腰痛の原因は多様であり、それぞれに適した介入方法があると考えられる。現在までに、非特異的腰痛の分類方法としていくつかのアルゴリズムやclinical prediction rule(CPR)が提案されている3-5)。股関節内旋角度はFlynnら4)、Stolzeら5)によるCPRにおける分類条件の一つとなっている。今後研究が進むにつれて、股関節への治療が腰痛の改善に有効であるサブグループが見つかる可能性もあり、臨床においてもそのような視点は重要と思われる。

【引用・参考文献】

  1. Shum GL, Crosbie J, et al: Movement coordination of the lumbar spine and hip during a picking up activity in low back pain subject. Eur Spine J. 2007; 16: 749–758.
  2. Bernet BA, Peskura ET, et al: The effects of hip-targeted physical therapy interventions on low back pain: a systematic review and meta-analysis. Musculoskelet Sci Pract. 2019; 39: 91-100.
  3. Alrwaily M, Timko M, et al: Treatment-based classification system for low back pain: revision and update. Phys Ther. 2016; 96: 1057-1066.
  4. Flynn T, Fritz J, et al: A clinical prediction rule for classifying patients with low back pain who demonstrate short-term improvement with spinal manipulation. Spine(Phila Pa 1976). 2002; 27: 2835-2843.
  5. Stolze LR, Allison SC, et al: Derivation of a preliminary clinical prediction rule for identifying a subgroup of patients with low back pain likely to benefit from Pilatis-based exercise. J Orthop Sports Phys Ther. 2012; 42: 425-436.

2019年10月01日掲載

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