オーバーヘッドアスリートにおける,プレシーズン時の肩関節可動域スクリーニングとシーズン中の肩肘障害のリスクについて;システマティックレビュー&メタアナリシス

Pozzi F, Plummer HA, Shanley E, Thigpen CA, Bauer C, Wilson ML, Michener LA, Preseason shoulder range of motion screening and in-season risk of shoulder and elbow injuries in overhead athletes: systematic review and meta-analysis. Br J Sports Med 2020;

PubMed PMID:31937577

  • No.2011-01
  • 執筆担当:
    順天堂大学 保健医療学部 理学療法学科
    中村 絵美
  • 掲載:2020年11月5日

【論文の概要】

 本レビューの目的は,オーバーヘッドアスリートにおけるシーズン前の肩関節可動域が肩・肘の障害リスクに関連しているかを調査することである.取り込み基準は,1)オリンピックまたは大学の競技種目で活動しているオーバーヘッドアスリート,2)シーズン前に肩関節可動域を測定していること,3)シーズン中の肩・肘の障害発生を追跡調査していること,4)前向きコホート研究であることである.最終的に15論文が抽出され,3314名(野球74.6%,ソフトボール3.1%,ハンドボール16.1%,テニス2.0%,バレーボール2.0%,水泳2.2%)の選手が含まれていた.結果,シーズン前の肩外旋可動域の評価により,障害リスクのあるプロ野球投手および水泳選手を特定できる可能性が示された.プロ野球投手では,投球側の肩外旋可動域が非投球側よりも大きいが、その差が5度未満である場合,有意に障害に関連する結果であった(オッズ比1.90).その他の競技については肩関節可動域による肩肘障害のリスクを特定する統一した見解が示されなかった.現状,研究数が限られており,異質性も高いことから解釈には注意が必要である.

【解説】

 オーバーヘッドアスリートにとって,肩や肘の故障はパフォーマンス低下に加え,長期の競技離脱を余儀なくされる場合も少なくない.近年は,プロ選手だけでなく,より若いカテゴリーの選手においても障害が増え,手術に至るケースも増加している1-3).投球障害に起因する肩や肘障害のリスクは,環境などの外的要因と身体機能などの内的要因に分けられ,特に可動域や筋力などは修正可能な要素であり,障害予防プログラムにも組み込みやすい.Kellerら4)のレビューでは,障害を有するオーバーヘッドアスリートにおいて肩内旋,外旋可動域に加え,トータル肩回旋可動域の減少が見られたと報告している.しかし,これらは後ろ向き研究であり,可動域制限の存在が障害発生前から存在していたかは不明であった.
 今回のシステマティックレビューでは,シーズン前の選手に対する肩関節可動域の評価から,シーズン中に肩肘障害を発生するリスクのある選手を判別できるかというテーマで書かれている.スクリーニング項目として,左右の肩屈曲,内旋,外旋および水平内転の可動域を挙げており,投球側・非投球側およびそれぞれの左右差についてを検討している.レビュー結果から,プロ野球の投手では,投球側の肩外旋可動域が非投球側よりも大きいが、その差が5度未満である場合には肩肘障害を生じるリスクが高くなることが示されたが,その他の競技では同様の傾向が示されていない.同種目であっても,成長期野球選手においては,水平内転や内旋可動域の左右差が関連すると報告が示された5,6)が測定方法などの違いから分析からは除外されている.野球以外の競技では前向きコホート研究によるデータが少なかったことも原因となるが,今後は,各カテゴリーやポジション,症状の定義を明確にした研究が求められる.
 また,アスリートのスクリーニングを実施する上での最終目標は,障害発生のリスクを減らし,障害を予防することである.そのために,修正可能なリスクファクターを競技毎,カテゴリー毎に明らかにすることが不可欠であり,今後の研究報告が期待される.

【引用・参考文献】

1. Conte S, Camp C, Dines JS. Injury trends in Major League Baseball over 18 seasons:
   1998-2015. Am J Orthop (Belle Mead NJ). 2016; 45(3):116-123.
2. Dick R, Sauers EL, Marshall SW, McCarty K, McFarland E. Descriptive epidemiology
   of collegiate men’s baseball injuries: National Collegiate Athletic Association Injury
   Surveillance System, 1988-1989 through 2003-2004. J Athl Train. 2007;42(2):183-193
3. Oberalander MA, Chisar MA, Campbell B. Epidemiology of shoulder injuries in throwing
   and overhead athletes. Sports Med Arthrosc Rev. 2000;8:115-123.
4. Keller RA, De Giacomo AF, Neumann JA, et al. Glenohumeral internal rotation
   deficit and risk of upper extremity injury in overhead athletes: a meta-analysis
   and systematic review. Sports Health 2018;10:125–32.
5. Shanley E, Rauh MJ, Michener LA, et al. Shoulder range of motion measures as
   risk factors for shoulder and elbow injuries in high school softball and baseball players.
   Am J Sports Med 2011;39:1997–2006.
6. Tyler TF, Mullaney MJ, Mirabella MR, et al. Risk factors for shoulder and elbow injuries
   in high school baseball Pitchers: the role of Preseason strength and range of motion.
   Am J Sports Med 2014;42:1993–9.

2020年11月05日掲載

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