変形性股関節症患者と健常者における歩行時の中殿筋と小殿筋の筋活動の比較

Zacharias A, Pizzari T, Semciw AI, English DJ, Kapakoulakis T, Green RA: Comparison of gluteus medius and minimus activity during gait in people with hip osteoarthritis and matched controls. Scand J Med Sci Sports. 2019; 29: 696-705.

PubMed PMID:30615237

  • No.2005-01
  • 執筆担当:
    群馬大学大学院保健学研究科
    佐藤 江奈
  • 掲載:2020年5月1日

【論文の概要】

 この研究は、片側変形性股関節症(股OA)患者20人と年齢、性別が一致する健常者20人の快適速度での歩行時の筋活動を比較するため、中殿筋の前部、中間部、後部の3か所と小殿筋の前部、後部の2か所に微小ワイヤ電極を留置し、10 m歩行時の筋電図を記録した。踵接地(0%)からつま先離地(TO)までの立脚期全体、0%-30%の立脚期初期、30%-TOの立脚期後期の振幅のピーク値と平均値、ピーク値までの時間について2群間で比較した。立脚期初期において、股OA患者は小殿筋後部線維の活動が健常者と比較して有意に高値であり、小殿筋前部線維のピーク値は高くなる傾向を認めた。両対象における立脚期初期の小殿筋前部線維の高いピーク値は以前報告された若年成人の結果とは対照的であり、OAの重症度が増すにつれてより顕著であった。今回、小殿筋の活動の変化は加齢に関連しており、この変化は股OA患者でより顕著であった。ピーク値までの時間と中殿筋の筋活動は差がなかった。股OAに関連する障害を軽減するため、小殿筋にターゲットを絞った歩行戦略と運動を考慮する必要がある。

【解説】

 殿筋は、股関節の安定化に役立ち、股関節機能の維持に重要である。小殿筋の筋線維は大腿骨頸部と平行に走行しており、骨頭を求心位に保持させ、股関節の安定性に寄与していると考えられる1)。さらに小殿筋は、歩行時に殿筋群の中で最も働いている2)。股OAの疾患プロセスにおいて大殿筋および小殿筋が初期に衰弱し、その後に中殿筋の萎縮が続く、萎縮の明確な階層が特定されている3)。また、終末期股OA患者4)、人工股関節全置換術後5)、および通常の加齢で小殿筋後部線維より先に小殿筋前部線維が萎縮する6)ことが報告されている。今回、針電極であり侵襲的な方法であるものの深部筋記録や筋の動きへの追従性の良さがメリットとなる微小ワイヤ電極を用いた筋活動を筋の部位ごとに計測し、股OA患者は健常者と比較して、立脚期全体で振幅のピーク値が高く、小殿筋後部線維は立脚期初期に振幅のピーク値と平均値が高かった。これは小殿筋の萎縮や股関節外転筋の弱さにより、立脚期初期の荷重から大きな筋張力が発生することが考えられる。また、小殿筋前部線維は立脚期初期に振幅のピーク値が高くなる傾向を認めた。これは股関節周囲の圧縮力の減少に寄与する可能性があり、関節の痛みとストレス軽減のメカニズムとしてみることができる。また、OAの重症度が増すにつれてより顕著になった。これは立脚期後期にピーク値を示す健康な若い成人とは対照的であり、正常な加齢の影響に伴う歩幅の短縮や股関節伸展可動域の減少に関連していると考えられる。以上より、股OA患者に対する理学療法において、小殿筋を意識したトレーニングや歩行練習を行う必要があると考えられる。

【引用・参考文献】

1) Gottschalk F, Kourosh S, Leveau B:The functional anatomy of tensor fasciae latae and
   gluteus medius and minimus. J Anat, 1989; 166: 179-189.
2) Oi N, Iwaya T, Itoh M, et al.:FDG-PET imaging of lower extremity muscular activity
   during level walking. J Orthop Sci, 2003; 8: 55-61.
3) Zacharias A, Pizzari T, English DE, Kapakoulakis T, Green RA:Hip abductor muscle
   volume in hip osteoarthritis and matched controls. Osteoarth Cartilage. 2016; 24:
   1727‐1735.
4) Kivle K, Lindland E, Mjaaland KE, Pripp AH, Svenningsen S, Nordsletten L:The gluteal
   muscles in end‐stage osteoarthritis of the hip: intra‐ and interobserver reliability and
   agreement of MRI assessments of muscle atrophy and fatty degeneration. Clin Radiol.
   2018;73: 675.
5) Pfirrmann C, Notzli HP, Dora C, Hodler J, Zanetti M:Abductor tendons and muscles
   assessed at MR imaging after total hip arthroplasty in asymptomatic and symptomatic
   patients. Radiology. 2005; 235: 969–976.
6) Chi AS, Long SS, Zoga AC, et al.:Prevalence and pattern of gluteus medius and
   minimus tendon pathology and muscle atrophy in older individuals using MRI.
   Skeletal Radiol. 2015;44: 1727–1733.

2020年05月01日掲載

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