10代における成長及び成熟度、筋骨格系の傷害との関係:システマティックレビュー

Swain M, Kamper SJ, Maher CG, Broderick C, McKay D, Henschke N:Relationship between growth, maturation and musculoskeletal conditions in adolescents: a systematic review. Br J Sports Med. 2018; 52: 1246-1252.

PubMed PMID:29559438

  • No.2008-02
  • 執筆担当:
    群馬大学大学院保健学研究科
    中澤 理恵
  • 掲載:2020年8月1日

【論文の概要】

 本システマティックレビューの目的は、10代(adolescents)における身体的成長及び発達段階(身体の成熟度)と筋骨格系の傷害との関係を明らかにすることである。論文選択の適格基準は、10歳〜19歳を対象に身体的(生物学的)成熟度や成長と筋骨格系の傷害との関連性を検討している研究とした。結果、20,361件の論文が検索され、適格基準により56件の論文が選出された。筋骨格系の疼痛との関連を検討している論文が25件、傷害(スポーツ傷害・疲労骨折等)との関連を検討している論文が22件、骨折との関連を検討している論文が9件であり、全ての論文においてバイアスが高リスクであった。身体的成熟度(Pubertal Development Scaleや骨年齢等)と筋骨格系の疼痛(特に腰痛)、骨折との間に関連性を報告する研究が認められたが、身体の成長(成長速度)との関連性を検討した研究では一貫した報告が認められず、本レビューにより身体の成長/成熟度と筋骨格系の傷害との明確な関連性を示すことはできなかった。

【解説】

 10代(adolescents)は身体面や認知面、心理面において急激な成長を経験する時期である1。暦年齢と骨年齢について男子小中高生を対象に検討した結果、11歳から14歳は成長度に個人差が大きく、身長の増加量は暦年齢ではばらつきが大きいが、骨年齢を軸とすると11歳から急激な増加を開始しており、骨年齢の方がより能力や身体的特徴の変化を捉えやすいとの報告2がある。成長・発達に個体差の大きい成長期の患者や選手に対して理学療法を行う際には、個人の暦年齢のみではなく発達年齢(身体の成長・発達段階)を考慮することが重要である。しかし、本調査では身体的な成熟度(発達段階)や成長速度と筋骨格系の傷害との間に明確な関連性を示すことができなかった。成長期の傷害は、成長・発達に起因する身体の成長速度が増大するタイミングでの過度な負荷や神経筋機能の変化など複数の要因が重なって発生する3,4。本調査では身体の成熟度や成長速度のみとの検討であったため、傷害との関連性を示すことができなかったものと考える。傷害発生の可能性に影響を与える要因は数多く存在し、MeeuwisseやBahr & Krosshaugの外傷要因モデル5に示されるように内的要因、外的要因が相互作用し、誘因が加わることにより発生しやすくなる。身体の成熟度や身長成長速度のみで傷害の発生要因と判断せず、発達年齢と個々の筋力や体力、柔軟性、神経筋機能等とあわせて総合的に判断することが重要である。
 成長期は骨の長軸成長に伴い筋の柔軟性が低下する一方、筋力は成人と比較して低く、姿勢コントロールが確立されていない3)。奥脇のスポーツに必要な能力の発達6)に示されるように、10代では呼吸・循環系、骨格系、筋の順に発達のピークを迎える。筋柔軟性を維持・改善するとともに、筋や神経筋機能へ総合的な介入を行い、個々の発達段階にあわせた適切な運動負荷(量)を調整することが重要である。

【引用・参考文献】

1) World Health Organization: Adolescent health.
   https://www.who.int/health-topics/adolescent-health/#tab=tab_1
   (2020年7月11日閲覧)
2) 平野 篤,広瀬統一:スポーツ選手の骨年齢と暦年齢-成長期男子サッカー選手の調査-.
   体育の科学.1999;49(8):634–638.
3) 黒柳 元,植木美乃,他:子どものスポーツ外傷に対するリハビリテーション.
   MEDICAL REHABILITATION.2018;228:19–25.
4) Andrea Stracciolini, Dai Sugimoto, et al.: Injury Prevention in Youth Sports.
   Pediatric Annals. 2017; 46(3): 99–105.
5) 陶山哲夫,赤坂清和:スポーツ外傷・障害ハンドブック-発生要因と予防戦略.医学書院,東京,
   2015,pp.7-16.
6) 国立スポーツ科学センター:成長期女性アスリート指導者のためのハンドブック 第6章 
   スポーツ外傷・障害について.
   https://www.jpnsport.go.jp/jiss/Portals/0/column/woman/
   seichoki_handobook_6.pdf(2020年7月20日閲覧)

2020年08月01日掲載

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