前十字靱帯再建術後患者における下肢神経筋コントロールエクササイズが膝の固有受容および筋力、機能レベルに及ぼす効果

Kaya D, Guney-Deniz H, Sayaca C, Calik M, Doral MN. Effects of Lower Extremity Neuromuscular Control Exercises on
Knee Proprioception, Muscle Strength, and Functional Level in Patients with ACL Reconstruction. Biomed Research International. 2019.

PubMed PMID:31828089

  • No.2010-01
  • 執筆担当:
    順天堂大学 保健医療学部 理学療法学科
    相澤 純也
  • 掲載:2020年10月6日

【論文の概要】

 本研究目的は前十字靱帯再建術後患者における下肢神経筋コントロールエクササイズが膝固有受容、膝筋力、機能レベルに及ぼす効果を明らかにすることである。対象は前脛骨筋腱を用いた再建術後患者32名であった。グループⅠ:標準的リハビリテーションプログラムに下肢神経筋コントロールエクササイズを付加。グループⅡ:標準的リハビリテーションプログラムのみ。下肢神経筋コントロールエクササイズが膝関節位置覚、膝伸展/屈曲筋力、片脚ホップ距離に及ぼす効果を分析した。グループⅠでは術側と非術側における膝伸展/屈曲の最大筋力および筋持久力に有意差がなかったが、グループⅡでは術側の膝伸展/屈曲の最大筋力は非術側のものよりも有意に低かった。両グループで、術側における膝伸展/屈曲の筋持久力や、膝関節位置覚は非術側のものより有意に低値であった。

【解説】

 これはトルコのHacettepe Universityで行われた研究であり、2年間のフォローアップによる無作為化比較試験である。この論文が掲載されたジャーナルの2019年インパクトファクター(Journal Citation Reports)は2.276であり、2020年7月7日時点の被引用回数(Web of Science)は1回であった。
 対象の選択基準は①14歳以上55歳未満、②男性、③再建術後2年未満、④膝に他の手術歴がない、であった。57名の再建術後患者から32名が選択され、2つのグループに振り分けられた。対象の平均年齢は29歳であった。
 再建術後2週目から両グループで標準的リハビリテーションプログラム1)が開始された。グループⅠでは再建術3週後から神経筋コントロールエクササイズ2,3)が追加された。すべてのエクササイズは自宅で実施された。神経筋コントロールエクササイズは片脚立位保持、下肢リーチ、上肢リーチ、ランジ、非術側下肢ステップアップ・ダウン、両脚・片脚スクワット、片脚ブリッジ、ボールエクササイズ、片脚膝伸展位デッドリフト、相撲スクワットで構成され、段階的に指導開始された。
 フォローアップは再建術後3週、6週、3か月、6か月、1年、2年であり、すべての測定は再建術2年後に実施された。計測項目は靱帯安定性(ピボットシフトテスト、前方引き出しテスト、外反ストレステスト)、膝関節の位置覚、膝伸展・屈曲の筋力および筋持久力、片脚前方ホップ距離であった。最も重要とされた結果は膝関節位置覚が神経筋コントロールエクササイズを付加したグループでより改善を認めた点であった。
 本研究は前脛骨筋による再建術後患者を対象として、神経筋コントロールエクササイズの効果を無作為化比較試験で明らかにした最初のものであるという点で新規性が高い。研究限界としては、スポーツに参加していないものが対象に含まれていたこと、生体力学データや単純X線画像所見が比較されていないこと、理学療法士が監視していないホームエクササイズが主体であったことが挙げられる。本邦では半腱様筋腱、薄筋腱、骨付き膝蓋腱を用いた再建術が主流であるため、前脛骨筋腱を用いた再建術後患者を対象としたこの研究結果の適用性を慎重に判断する必要がある。これはエビデンスレベルの高い研究であるにもかかわらず被引用回数が少ない理由であるかもしれない。

【引用・参考文献】

1) M. D’Amato and B. R. Bach, “Knee Injuries” in Clinical Orthopaedic Rehabilitation, pp.
     251–370, Mosby, Maryland Heights, MI, USA, 2003
2) M.A.Risberg,M.Mørk,H.K.Jenssen,andI.Holm, “Design and implementation of
     a neuromuscular training program following anterior cruciate ligament reconstruction,”
     Journal of Orthopaedic & Sports Physical Therapy, vol. 31, no. 11, pp. 620–631, 2001.
3) G. D. Myer, M. V. Paterno, K. R. Ford, and T. E. Hewett, “Neuromuscular training
     techniques to target deficits before return to sport after anterior cruciate ligament
     reconstruction,”  JournalofStrengthandConditioningResearch, vol. 22, no. 3, pp.
     987–1014, 2008.

2020年10月06日掲載

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