アキレス腱症患者の神経内分泌反応に対する胸椎マニピュレーションの効果:無作為化クロスオーバー試験

Kovanur Sampath K, Mani R, Katare R, Neale J, Cotter J, Tumilty S. Share.Thoracic Spinal Manipulation Effect on Neuroendocrine Response in People With Achilles Tendinopathy: A Randomized Crossover Trial.J Manipulative Physiol Ther. 2021 Jun;44(5):420-431.

PubMed PMID:34376321

  • No.2109_02
  • 執筆担当:
    順天堂大学保健医療学部理学療法学科
    宮森 隆行
  • 掲載:2021年10月22日

【論文の概要】

本研究は、アキレス腱症(以下、AT)を呈した対象者において胸椎マニピュレーション(以下、TM)を実施した後の神経内分泌反応を検証することであった。
対象者は、ATと診断され3か月以上が経過しているもの24名として、TM介入群と偽介入群の2群に12名ずつ無作為に割り付けた。また、1週間の休息期間後に割り付け群をクロスオーバーして同様の介入を行った。一次評価項目は、唾液サンプルによるテストステロン/コルチゾール(以下、T/C)比を介入後5分後、30分後、6時間後で比較した。二次評価項目は、心電図を解析した心拍変動、下腿三頭筋とアキレス腱の全酸素化指数(nmol/L)を同様の時間軸で比較した。
TC比は、介入条件と時間軸において統計的に有意な交互作用が認められた(p< .05)。また、全酸素化指数は、下腿三頭筋のみ有意な交互作用が認められた(p< .05)。しかし、心拍変動について有意差は認められなかった(p=.5)。

【解説】

 脊椎マニピュレーションの効果はさまざま挙げられるが、中でも自律神経系、中枢神経系、内分泌系へ及ぼす影響が報告されている1)
 そして、アキレス腱症は、アキレス腱に疼痛、腫脹、硬結などを引き起こす疾患であり、正常な組織治癒(リモデリング)反応の破綻と共に、近年では末梢侵害受容性の疼痛とは別に、神経内分泌系の関与が障害要因として重要視されている2)
 本研究では、胸椎マニュプレーション(以下、TM)後のテストステロン/コルチゾール(以下、T/C)比について、介入条件と時間軸の間に有意な交互作用が認められた。T/C比は、オーバートレーニングや身体回復の指標として、スポーツおよび運動科学の研究分野で広く用いられている指標であり、テストステロンは主に同化作用を反映し、コルチゾールは異化作用を反映する指標とされている。本研究の対象はアスリートだけではないが、興味深いことに、TM介入後6時間でT/C比が上昇した。これは、コラーゲンの合成と組織治癒に適した環境(つまり同化)であることを示唆している。また、アキレス腱症では腱の変化に寄与する血管収縮を引き起こす交感神経系の関与が報告3)されている。本研究においてTM後にT/C比の上昇と、下腿三頭筋の酸素化指数が増加していることは、TMが交換神経活動および末梢血流量に影響を与えることが考えられる。しかし、本研究では、心拍変動において変化が認められていないため、TMが自律神経活動に直接影響を与えると結論づけることはできないため、今後さらなる検証が必要である。

【引用・参考文献】

1)  Wirth B, Gassner A, de Bruin ED, Axén I, Swanenburg J, Humphreys BK, et al.
   Neurophysiological Effects of High Velocity and Low Amplitude Spinal Manipulation
   in Symptomatic and Asymptomatic Humans: A Systematic Literature Review.
   Spine. 2019;44(15):E914-e26.
2)    Jewson JL, Lambert EA, Docking S, Storr M, Lambert GW, Gaida JE. Pain duration
   is associated with increased muscle sympathetic nerve activity in patients with
   Achilles tendinopathy. Scandinavian journal of medicine & science in sports.
   2017;27(12):1942-9.
3)  Andersson G, Danielson P, Alfredson H, Forsgren S. Nerve-related characteristics
   of ventral paratendinous tissue in chronic Achilles tendinosis. Knee surgery,
   sports traumatology, arthroscopy : official journal of the ESSKA.
   2007;15(10):1272-9.

2021年10月22日掲載

PAGETOP