亜急性期脳卒中者における機能的電気刺激により増強されたトレーニング後の下肢サイクリング運動中の筋シナジー変化:パイロット研究

Ambrosini, E, Parati, M, et al.: Changes in leg cycling muscle synergies after training augmented by functional electrical stimulation in subacute stroke survivors: a pilot study. J NeuroEngineering Rehabil 17, 35 (2020)

PubMed PMID:32106874

  • No.2104_02
  • 執筆担当:
    順天堂大学 保健医療学部 理学療法学科
    山口 智史
  • 掲載:2021年4月15日

【論文の概要】

 本研究は、脳卒中後に再獲得する下肢運動機能や歩行の運動制御戦略の理解を深めることを目的に、4つの筋シナジーで構成される下肢サイクリング運動中の筋シナジーに着目し、機能的電気刺激が付加されたサイクリング(FESサイクリング)を3週間実施した前後の筋シナジーと運動機能や歩行能力の縦断的変化を検討した。対象は、脳卒中発症後2週間(中央値)の9名とし、通常のリハビリテーションに加え、FESサイクリング(25分、週5回で計15回)を実施した。3週間の介入により運動機能や歩行能力に有意な改善を認めた。筋シナジーは、サイクリング中の麻痺側下肢屈曲相における筋シナジーのみに有意な変化を認めた。また、介入前の各筋シナジー内のバリエーションと運動機能障害の程度には正の相関を認めたが、この関係性はトレーニング前後で変化しなかった。サイクリング運動中の筋シナジー評価は、発症早期で歩行評価が困難な患者の下肢運動機能や歩行の治療戦略を考えるうえで有用な情報を提供する可能性がある。

【解説】

 歩行やサイクリング運動などダイナミックな下肢運動では、複数筋が協調的に活動することで運動を遂行している。この運動制御において、複数の筋群を協調的に活性化する組み合わせのパターンがあり、これを筋シナジーという1)。筋シナジーは、上位中枢神経からの運動指令が脊髄にある数個の神経モジュールを介することで神経伝導を簡略化し、多数の筋による複雑な筋活動を制御していると考えられている。近年、筋シナジーは、運動障害を特定するだけなく、テーラーメイドリハビリテーションを構築するための評価方法として提案されている2)
 これまでの脳卒中片麻痺患者における下肢筋シナジーを縦断的に評価した研究では、歩行や立ち座り動作などの運動課題の前後で検討されてきた。しかし、発症後の回復過程にともなう動作能力の改善により、評価対象となる運動課題の質・量ともに異なっていた可能性がある。今回の研究では、運動負荷を設定したサイクリング運動中に筋シナジーを評価することで、評価対象となる運動課題を統一した。サイクリング運動は、急性期や回復期の脳卒中患者においても安全に実施でき3) 4)、発症早期で歩行評価が困難な患者においても適用できる利点がある。そのため、今回の評価手法は、早期から患者個々の下肢運動機能や歩行の治療戦略を考えるうえで有用な情報を提供する可能性があり、個別性の高いテーラーメイドリハビリテーションを提供する上で重要な知見となると考える。
 研究の限界として、症例数が9名で非常に少ないことが挙げられる。また、FESサイクリングを介入課題としている一方で、コントロール群がないことから、得られた筋シナジーの変化が介入課題による効果であるのかについては十分に検討されていない。また筋シナジー評価を基にしたリハビリテーション治療戦略の検討はされていないため、下肢サイクリング中の筋シナジー評価の有用性を示すためには、今後さらなる研究が必要である。

【引用・参考文献】

1) Alessandro C, Delis I, et al.: Muscle synergies in neuroscience and robotics: from
    input-space to task-space perspectives. Front Comput Neurosci. 2013; 7: 43.
2) Ting LH, Chiel HJ, et al.: Neuromechanical principles underlying movement modularty
   and their implications for rehabilitation. Neuron. 2015; 86: 38–54.
3) Katz-Leurer M, Sender I, et al.: The influence of early cycling training on balance
    in stroke patients at the subacute stage. Results of a preliminary trial. Clin Rehabil.
   2006; 20: 398‒405.
4) Tang A, Sibley KM, et al.: Effects of an aerobic exercise program on aerobic capacity,
   spatiotemporal gait parameters, and functional capacity in subacute stroke.
   Neurorehabil Neural Repair. 2009; 23: 398‒406.

2021年04月15日掲載

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