代表運営幹事挨拶

 このホームページを訪問された皆様は、おそらく「動物に対する理学療法?」と大きな疑問符を付けて、このページをご覧になっていることと思います。この疑問符は、われわれ理学療法士が、ヒト以外の動物を対象として理学療法ができるのか? という疑問ではないでしょうか。
 
 わが国において獣医療に従事する職種として国家資格を有するのは獣医師のみであり、その管轄官庁は私たち理学療法士とは異なる農林水産省です。また動物看護師は、2011年(平成23年)に関連5団体と日本獣医師会が設立した動物看護師認定機構が認定する資格となっています。 
 しかし欧米では、すでに1980年代から動物に対する理学療法が始まっており、英国やオーストラリアでは「動物理学療法士」という国家資格が存在し、米国にはCCRP (Certified Canine Rehabilitation Practitioner) やCCRT (Certified Canine Rehabilitation Therapist)という動物理学療法に関する認定資格があります。またWCPT(世界理学療法連盟)に置かれた12のサブグループにも ”Animal Practice” が含まれており、10か国が加盟しているのです。
 
 現在の理学療法士の国家資格だけでは獣医学領域の専門知識もなく、先に述べたように獣医師でないものは動物への診療を行ってはならないのが現状です。しかし獣医療の高度化が進み、術後の健康管理や機能回復、さらには高齢動物のケアや運動能力維持など、動物に対する理学療法のニーズは獣医療の臨床現場から高まりつつあり、獣医療における理学療法の専門的知識技術が重要になってきています。我々の持つ理学療法士の国家資格に獣医療の知識と技術を積み重ねることによって、獣医療とリハビリテーション医療の双方にとって有益な結果が期待できます。
 
 わが国における動物に対する理学療法の歴史を紐解くと、日本初の競走馬のプールが1975年(昭和50年)に中央競馬総合研究所常磐支所に設置され、1995年(平成7年)頃から犬猫を中心とした伴侶動物(ペット)に対する理学療法も徐々に始まっていました。
 2007年(平成19年)には、獣医師と動物看護教育の有志らが発起人となって、動物リハビリテーション集会が東京大学農学部講堂で開催され、そこで参加者の総意によって「日本動物リハビリテーション研究会(2010年、日本動物リハビリテーション学会へ名称変更)」が発足しました。
 1999年に横浜で開催された第13回世界理学療法連盟学会(WCPT学会)では、“Physical Therapy for Animals”と題したDavid Levine教授の教育講演が行われました。
 また2010年(平成22年)には、奈良勲元協会長が顧問を務められている「日本動物理学療法研究会」も設立されました。
 2015年(平成27年)に開催された第50回日本理学療法学術大会では、信岡尚子氏が座長となって「動物に対する理学療法」と題するシンポジウムが行われ大いに注目を集めました。そしてこの年に、日本理学療法士学会に「動物に対する理学療法部門」が新設されました。
 2016年4月1日現在の本部門登録者数は781人。1,000人に満たない数ではありますが、これからさまざまな啓発活動を進める中で、より多くの理学療法士が動物に対する理学療法に関心を持って頂き、われわれ理学療法士の新たな職域拡大に向けて活動を行っていこうではありませんか。
 
 現在、国内の獣医療の現場には、海外の動物理学療法に関する資格を取得した少数の理学療法士や、国内で理学療法士の免許を持つ獣医師、また獣医師からの要請で動物理学療法に関与するようになった理学療法士などが少数ではあるが存在しています。
 獣医療にかかわるリハビリテーション専門職として、獣医師、動物看護師と連携を取り、動物理学療法にかかわる理学療法士の育成をどう進めるのか、必要な資格認定制度をどのように整備していくのか、直近の課題は山積していますが、獣医師や動物看護師などの関係諸団体との連携を深め、学際的領域である動物理学療法の発展に寄与できれば幸いです。
 

2016年8月
動物に対する理学療法部門
代表運営幹事 秋田 裕

代表運営幹事 秋田 裕

代表運営幹事 秋田 裕