慢性期脳卒中患者の下垂足に対する埋め込み型腓骨神経刺激装置の治療的効果

Kottink AI, et al: Therapeutic Effect of an implantable peroneal nerve stimulator in subjects with chronic stroke and footdrop: A randomized controlled trial. Physical Therapy 2008;88:437-448.

PubMed PMID:18218825

  • No.0910-1
  • 執筆担当:
    山形県立保健医療大学
    保健医療学部
    理学療法学科
  • 掲載:2009年10月9日

【論文の概要】

はじめに

脳卒中片麻痺の下垂足に対して機能的電気刺激FESが用いられているが、装具としての効果だけでなく、継続使用による治療的効果も報告されている。これらは表面電極を用いたFES装置であり、電極の装着位置を一定にすることが難しいなどの問題があり、筆者らは埋め込み電極による装置を用いている。

この研究の目的は、2チャンネル埋め込み型腓骨神経刺激装置の6ヶ月間の治療的効果をAFOと比較して明らかにすることである。

方法

研究デザイン:
無作為化比較試験として行われ、評価は介入4週間前(基準データ)、埋め込み術後4、8、12、26週後の5回実施した。

対象者:
地域の新聞記事や医療関係者の紹介などにより応募した脳卒中患者。取込基準は発症後6カ月以上を経過し症状の安定している屋外歩行可能な患者であり、除外基準は膝伸展位での足関節他動背屈5度以下、浅・深腓骨神経損傷、歩行に影響するその他の疾患などである。76名が応募したが47名が除外され、29名を対象者としてFES群と対照群に無作為割り付けした。両群の基本的特性に差は無かった。FES群1名(装置故障)、対照群3名が脱落した。

刺激装置システム:
外部装置、埋め込み装置およびフットスィッチで構成。
外部装置は重量0.1kgで直径40mmの電送コイルを内蔵。膝下外側で埋め込み装置上に位置するように装着する。埋め込み装置は受信機部分の径が33mm、厚さ6mm。2つのらせんコイル状の電極と2つの独立した回路を内蔵。1および2MHzの搬送周波数で電送された信号(訳者註:電力も電送する)を変調して出力する。埋め込み手術で電極を浅腓骨神経と深腓骨神経の神経上膜に固定する。刺激波形は非対称性2相性(チャージバランス)で30Hz。

評価:
最大収縮時EMG計測(MVC):前脛骨筋TA、腓骨筋PL、腓腹筋GSおよびヒラメ筋SLの最大収縮を、膝屈曲および伸展位にて、表面筋電図で計測し実効値RMSmaxを算出。

歩行遊脚期のTA筋活動計測:
補装具無し(杖は必要であれば使用)で快適速度を計測。この計測は介入前と26週後の2回のみ計測した。

歩行速度:
補装具有り無しの両条件(杖は必要であれば使用)で快適速度を計測(VICONを使用)。

結果

MVC:
膝屈曲位:TAはFES群が大きい傾向であったがわずかに有意差を示すに至らなかった。GSはFES群が有意に高く、PLとSLは有意差が無かった。
膝伸展位:TAとGSはFES群が有意に高く、PLとSLは有意差が無かった。

歩行遊脚期のTA筋活動:
FES群は介入前後での差を認めず、対照群では低下した。

歩行速度:
群内、群間とも有意差は無かった。

TAのMVC(RMSmax)と歩行速度の相関:
低い相関しか示さなかった。

考察

6ヶ月間の埋め込み型FES装置の使用では、歩行速度や歩行遊脚期のTA活動などの(動的)運動機能への治療的効果は認められなかった。これはFESの長期使用での治療効果示した先行研究よりも対象者の発症後期間が長く、より慢性期の患者であったことなどが考えられる。また、研究の限界として対象者数の問題や歩行補助具使用状況に差があったことが考えられる。一方、静的な最大収縮時筋活動は増加しており、対象者の神経系の可塑性に何らかの影響を与えたことが示唆された。

【解説】

機能的電気刺激FESは1961年のLibersonらによる脳卒中片麻痺患者の総腓骨神経を電気刺激して歩行を補助した研究に始まるが、この時すでに電気刺激後も足関節背屈が改善する症例について言及されている。その後1970年代にこのFESの長期使用による治療的効果についての論文が出されており、最近ではRobins (2006) らによるメタアナリシスも報告されている。これらは表面電極を用いたものである。
FESは表面電極を用いる装置と、埋め込み電極を用いる装置があり、それぞれ長短がある。特に手術の必要性が大きな問題であるが、筆者らは、脳卒中による片麻痺はその後の一生の問題であり、一旦電極を埋め込めば電極位置を決定する必要のない埋め込み電極型を推奨しており、STIMuSTEP®(www.finetech-medical.co.uk)を用いている。一方、表面電極による装置も、電極位置の決定に工夫をしたものもあり、一般的には表面電極による装置が普及していると言ってよい。
我が国では、現在、脳卒中片麻痺患者の背屈補助用のFES装置で市販されているものはないが、欧米などでは、例えばNESS® L300(フットスィッチと刺激装置をワイヤレスで接続:www.bioness.com)やWalkAide®(傾斜センサーを用いてフットスィッチが不要:www.walkaide.com)などがあり、07年のVancouver WCPTでも機器展示されている。理学療法士が容易に試みることができる表面電極による使いやすいFES装置が我が国にも導入されることが期待される。
本研究は貴重な無作為化比較試験であるが、表面電極によるFES装置による先行研究で示されている治療効果を明確に示すことができなかった。その原因について考察で述べられているところであるが、これらに加え、歩行速度計測が快適歩行であり最大歩行速度でないこと、対象者が若く(FES群55.2歳、対照群52.9歳)歩行能力が高いことなども影響していると考えられた。また、VICONで計測しているようなので、歩行パターンの改善があったのか興味があるところである。さらに、FES群が実際にどれくらい装置を使用して歩行したのかを示すデータがあれば、異なる解析ができたのではないかと考えられた。
なお、本論文は筆者らがこのFES装置の装具としての効果を報告した論文(対象者は同じと思われる)「A randomized controlled trial of an implantable 2-channel stimulator on walking speed and activity in poststroke hemiplegia. Arch Phys Med Rehabil 2007;88:971-8」の続編であり、興味のある方は一読することを勧める。

2009年10月09日掲載

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