人工股関節全置換術術後患者に対し、自宅と施設にて実施した運動プログラム:無作為化比較試験

Galea MP, Levinger P, Lythgo N, Cimoli C, Weller R, Tully E, McMeeken J, Westh R: A targeted home- and center-based exercise program for people after total hip replacement: a randomized clinical trial. Arch Phys Med Rehabil 2008;89:1442-7.

PubMed PMID:18586222

  • No.0912-3
  • 執筆担当:
    山形県立保健医療大学
    保健医療学部
    理学療法学科
  • 掲載:2009年12月24日

【論文の概要】

背景

人工股関節全置換術(THA)術後のリハビリテーションは、疼痛や運動機能を改善し、転倒の発生率を低下させることが知られている。退院後に病院などで理学療法士の監視下でリハビリテーションを実施する場合、患者は通院手段を確保する必要がある。通院手段の確保が困難な患者は、監視下でのリハビリテーションを実施することが不可能である。一方、理学療法士の監視がない自宅において、リハビリテーションを実施した場合、運動機能やQOLの改善を認めたとする報告がある。

この研究の目的は、THA術後に施設で実施する理学療法士監視下の運動プログラム(施設群)と、自宅で実施する非監視下の運動プログラム(自宅群)を比較し、効果を明らかにすることである。

方法

研究デザインは、無作為化比較試験として行われた。対象は、THA術後8週経過した23名である。取り込み基準は、立ち上がりと45m以上の歩行が自立した者である。除外基準は、歩行に影響する疾患がある者、術前に4週間以上の理学療法を受けた者、著しい疼痛や感染症がある者である。すべての対象者は、術後に5-6日間のTHA術後プログラムを行った。退院後、19名は自宅で理学療法士による3週間の介入を受け、4名はリハビリテーションセンターで理学療法士による15日間の介入を受けた。その後、施設群(11名)と自宅群(12名)にランダムに割り付けされた。両群の基本的特性に差は無かった。施設群は、理学療法士の監視下で2回/週の介入を受け、運動機能に応じた修正プログラムの提供が行われた。自宅群は、図解入りの運動プログラムの指導のみで、運動機能に応じた修正プログラムの提供は行われなかった。両群に提供された運動プログラムは、フィギュアエイト、立ち上がり、段差昇降、股関節外転筋筋力増強運動などである。介入期間は8週間である。評価項目はWOMAC[1.]、QOL[2.]、TUG、Stair Climbing test[3.]、6分間歩行テスト、簡易歩行分析である。

結果

運動頻度は、施設群で4.7回/週、自宅群で5.8回/週であった。両群とも介入前後で、WOMACのfunction、QOL、TUG 、Stair Climbing test、6分間歩行テストにおいて改善を認めた。簡易歩行分析の結果では、両群とも介入前後で、歩行速度、歩行率、歩幅において改善を認めた。Step time、%立脚時間、両脚支持時間は、施設群で減少した。片脚支持時間は、両群の術側、非術側で減少した。歩幅の非対称性は、両群で改善を認めた。

考察

施設群、自宅群で介入効果が認められた。本研究では、コントロール群の設定がなく、サンプルサイズの小さいRCTではあったが、今回の介入はTHA術後の運動機能、QOLを改善する結果となった。退院後に、自宅と施設で理学療法士の監視下で行った運動プログラムの効果は、自宅で行った方が運動機能とQOLの向上に効果があったことが報告されている。本研究では、自宅で実施する非監視下運動プログラムの効果が明らかとなった。

【解説】

THA術後リハビリテーションは運動機能の改善に有効であるとの報告がある[4.-6.]。本研究では、合併症のないTHA術後8週の患者を対象に、施設で実施する監視下運動プログラムと自宅で実施する非監視下運動プログラムの検証を行った。著者らは、介入の効果と費用の面から、自宅で実施する非監視下運動プログラムの有用性を述べている。一方、歩行のパラメータにおいて、Step time、%立脚時間、両脚支持時間は、施設で実施する監視下運動プログラムにおいて改善が認められている。このことは、理学療法士による介入が結果に影響を与えたのではないかと考える。また、自宅で行った非監視下運動プログラムの、コンプライアンスが保たれていたかどうかを確認する必要があったと考える。
本研究は、合併症のない、THA術後8週経過した患者を対象とした、画一的なプログラムの実施であったことから、監視下と非監視下での効果の差が明確でなかった。Bhaveらは、THA術後3ヶ月で筋力低下、筋短縮、脚長差や下肢のアライメント異常等の問題がある患者を対象に個別的なプログラム(理学療法、電気刺激療法、補高など)の介入を行った[7.]。平均61ヶ月間の介入の結果、機能の改善が認められたことを報告している。THA術後に運動機能の問題が残存した場合は、症状に会わせた個別のプログラムが必要であると考える。

【参考文献】

  1. Bellamy N:Pain assessment in osteoarthritis: experience with the WOMAC osteoarthritis index. Semin Arthritis Rheum 1989; 18(4 Suppl 2):14-7.
  2. Hawthorne G, Richardson J, Osborne R: The Assessment of Quality of Life (AQoL) instrument: a psychometric measure of health-related quality of life. Qual Life Res 1999;8:209-24.
  3. Margaria R, Aghemo P, Rovelli E: Measurement of muscular power (anaerobic) in man. J Appl Physiol 1966;21:1662-4.
  4. Gilbey HJ, Ackland TR, Wang AW, Morton AR, Trouchet T, Tapper J: Exercise improves early functional recovery after total hip arthroplasty. Clin Orthop Relat Res. 2003;(408):193-200.
  5. Wang AW, Gilbey HJ, Ackland TR: Perioperative exercise programs improve early return of ambulatory function after total hip arthroplasty: a randomized, controlled trial. Am J Phys Med Rehabil. 2002;81(11):801-6.
  6. Sashika H, Matsuba Y, Watanabe Y: Home program of physical therapy: effect on disabilities of patients with total hip arthroplasty. Arch Phys Med Rehabil. 1996;77(3):273-7.
  7. Bhave A, Marker DR, Seyler TM, Ulrich SD, Plate JF, Mont MA: Functional problems and treatment solutions after total hip arthroplasty. J Arthroplasty. 2007 Sep;22(6 Suppl 2):116-24.

2009年12月24日掲載

PAGETOP