大腿骨頸部骨折により下肢機能障害を有する高齢者に対する抵抗運動の効果

Erja Portegijs, MSc, Mauri Kallinen, Taina Rantanen, Ari Heinonen,Sanna Sihvonen, Markku Alen, Ilkka Kiviranta, Sarianna Sipila": Effects of Resistance Training on Lower-Extremity Impairments in Older People with Hip Fracture. Arch Phys Med Rehabil 89;2008:1667-1674.

PubMed PMID:18760151

  • No.1004-2
  • 執筆担当:
    山形県立保健医療大学
    保健医療学部
    理学療法学科
  • 掲載:2010年4月24日

【論文の概要】

背景

高齢者にとって、大腿骨骨折は死因や能力障害の高い危険因子である。骨折後、半年で以前の生活レベルに戻れる割合は半分程度であり、その特徴として、健常側下肢に比較して骨折側下肢筋力の低下が挙げられる。この下肢間の機能的差異は、骨折歴のない者でさえ活動性やバランス能力を低下させるかもしれない。漸増抵抗運動の効果は、健常高齢者を対象とした報告では筋力強化に関する効果が認められており、虚弱高齢者に対する同運動も活動制限の軽減が図られた事を報告している。
しかし、大腿骨頸部骨折患者を対象とした集中的な漸増抵抗運動の効果については研究されていない。

目的

本研究の目的は漸増抵抗運動が大腿骨頸部骨折者の筋力、活動性、バランス能力の改善につながるかを検証することである。

方法

研究参加者は、大腿骨頸部骨折後に半年から7年経過した者で、年齢は60~85歳の地域在住の男女46名である(訓練群:24名、対照群:22名)。

介入方法は、12週間(1週間2回)の集中的な筋力トレーニングである。

評価方法は、下記の項目である。
  1. 膝関節伸展トルク(KET)、下肢伸展パワー(LEP)、下肢筋力の非対称性([筋力低下側下肢/両下肢筋力合計]×100(%))
  2. 10m歩行速度
  3. 動的バランス・テスト(Good Balance system)
  4. 屋外活動性調査(Yale Physical Activity Questionnaire)

結果

KETについて、訓練群では対照群と比較して筋力低下側および健常側ともに増加を認めた。また、LEPについては筋力低下側の増加が認められ、さらに非対称性は対照群と比較して有意に改善が見られた。活動性およびバランスに関しては、2km歩行の自覚的評価と屋外活動性の改善について改善が見られた。
しかし、 訓練群のKETの非対称性の改善、歩行速度、バランス能力については変化が見られなかった。

考察

集中的な漸増抵抗運動は、大腿骨頸部骨折による筋力低下側の改善で顕著な効果が見られたが、非対称性の改善、バランス能力の改善については効果が明確にならなかった。これは、筋力低下側への負荷量が十分でなかった可能性がある。屋外の活動性に関する自己報告では、訓練群で改善される傾向が見られた。今後は、訓練時期及び期間についてさらに検討する必要がある。

【解説】

本論文は、大腿骨頸部骨折に対する抵抗運動の効果に関する無作為化比較対照実験である。漸増抵抗運動により大腿骨頸部骨折後のADLが向上する事を報告した論文は散見されるが[1.]、本論文で著者らが特に強調したのが、筋力低下側と健常側の筋力の非対称性であり、その改善が活動性の上で重要であると序論で述べている。
本研究の結果からは、トレーニングによってトルクおよびパワーについては改善が図られたが、KETの非対称性については改善が見られなかった事を報告している。このような結果は、先行研究 [2.]でも述べられており、筋力増強訓練により筋力低下側下肢の筋力は向上したが、左右差は残存した事を報告している。この要因について本論文の著者らは、筋力低下側への負荷量が十分でなかった可能性を挙げている。本研究の筋力トレーニングのプロトコールは先行研究[3.4.]と同様の内容であり、筋力の向上を目的とする場合のプロトコールとしては一般的と思われるが、負荷量の変更による効果についての報告が待たれる。
運動内容については、本研究ではレッグプレス、膝関節屈曲、股関節外転、足関節底・背屈運動を取り入れているが、その他の部位も含めた総合的なトレーニングによる効果や、先行研究[5.]では、トライアルのインターバル時間が運動効果に影響する事を報告している事から、負荷量の設定と併せて検討されても良い。

【引用文献】

  1. Ellen F. Binder,Marybeth Brown,David R. Sinacore,Steger-May,Kevin E. Yarasheski,Kenneth B. Schechtman,Effects of Extended Outpatient Rehabilitation After Hip Fracture JAMA. 2004;292,837-846.
  2. Helen H Host, David R Sinacore, Kathryn L Bohnert, Karen Steger-May, Marybeth Brown and Ellen F Binder. Training-Induced Strength and Functional Adaptations After Hip Fracture. 2007:87(3):292-303.
  3. Sipilä S, Multanen J, Kallinen M, Era P, Suominen H. Effects of strength and endurance training on isometric muscle strength and walking speed in elderly women. Acta Physiol Scand 1996;156:457-64.
  4. Ferri A, Scaglioni G, Pousson M, Capodaglio P, van Hoecke J,Narici MV. Strength and power changes of the human plantar flexors and the knee extensors in response to resistance training in old age. Acta Physiol Scand 2003;177:69-78.
  5. Willardson JM. A brief review: factors affecting the length of the rest interval between resistance exercise sets.J Strength Cond Res. 2006 Nov;20(4):978-84.

2010年04月24日掲載

PAGETOP