認知機能障害がある高齢者と無い高齢者に対する持久性と筋力トレーニングの効果:メタアナリシス

P.C. HEYN, K.E. JOHNSON, A. F. KRAMER : Endurance and strength training outcomes on cognitively impaired and cognitively intact older adults : a meta-analysis. J Nutr Health Aging. 2008 ; 12(6): 401--409.

PubMed PMID:18548179

  • No.1006-2
  • 執筆担当:
    山形県立保健医療大学
    保健医療学部
    理学療法学科
  • 掲載:2010年6月12日

【論文の概要】

背景と目的

認知症は高齢者に共通して起こる症候群であり、認知症によって起こる認知機能の障害は、運動能力、ADL、IADLに影響を与える。認知機能低下のある人(Cognitively Impaired:CI)に対して身体的なリハビリテーションプログラムを実施した結果について、認知機能低下の無い人(Cognitively Intact:IN)と同じように身体機能が向上するという研究と、実施しても意味が無いという研究がある。しかし、このような結果が混在することは、研究の対象条件(例えば診断、健康状態、認知機能障害の程度、怪我、リハビリテーションプログラムの内容、小さなサンプルサイズ、限られた施設数)に違いがあれば、当然である。

この研究の目的は、メタアナリシス(メタ分析)によって、同じ無作為化比較試験に参加した認知機能障害のある人(MMSE≦24)と無い人(MMSE≧25)の持久性と筋力の結果を示した複数の研究結果を比較対照することである。それにより認知障害のある人と無い人のエクササイズ実施のエビデンスを集積して示せる。

方法

データ源:
文献検索用キーワードはexercise, training, strength, endurance, rehabilitation, cognitive impairment, cognition, Mini Mental State Exam (MMSE), older adult, aged, and geriatricsで行った。(検索語の和訳:エクササイズ、トレーニング、筋力、持久力、リハビリテーション、認知機能障害、認知力、MMSE、高齢者、老人、老年医学)

論文選択:

選択基準―次の8項目を満たすもの
  1. 無作為化試験
  2. 65歳以上を対象としたもの
  3. MMSE得点で、24点以下を認知機能障害あり、25点以上を認知機能障害無しとするもの
  4. エクササイズプログラム、リハビリテーション的なエクササイズ、身体活動、フィットネス、レクリエーション療法を行っているもの
  5. 平均、標準偏差、t検定またはF検定の結果、n値が示されているもの
  6. 最低5名の対象者が各群にあること
  7. 身体運動の測定値の従属変数が少なくとも1つあること
  8. 英語で書かれた1970年1月~2006年12月の査読論文

除外基準―次のいずれかに該当するもの
  • 英語で書かれていないもの
  • 効果量が十分な統計的処理を行っていないもの
  • 身体運動の測定値に筋力と持久性が含まれていないもの
  • 質的研究
  • ナラティブな事例報告
  • 5例以下の対象者の研究

結果

基準を満たす41の論文があり、全体でCIは1141名、21のエクササイズ、INは1510名、20のエクササイズが対象になった。その結果、大きな Effect sizes(効果量)(ES=dwi, Hedges gi)が、CI群とIN群の筋力と持久性に認められた。CI群は(dwi=.51, 95%信頼区間=.41-.60)とIN群(dwi=.49, 95%信頼区間=.40-.58)だった。CI群とIN群の間でESの統計的有意差はなく、筋力は(t=1.675, DF=8, P=.132)、持久性は(t=1.904, DF=14, P=.078)、筋力と持久性を統合した効果は(t=1.434, DF=56, P=.263)だった。

考察

メタアナリシスにより、認知機能低下のある高齢者と無い高齢者が、筋力と持久性に対する同じリハビリテーションプログラムに参加した場合、同じ効果があることが示唆された。そのため、認知機能低下のある人をリハビリテーションプログラムから除外すべきでない。

【解説】

これまでの研究で、認知機能の低下がある人は同時に身体機能の低下も存在するという知見、および認知機能低下と身体活動の関係についての知見があり、認知機能障害または認知症の人へのエクササイズが、認知機能、身体機能、活動の向上の効果をもたらすとのメタアナリシスもある。さらに、このような認知機能および身体機能の低下にサルコペニア(加齢に伴う筋委縮症)は関与していないという疫学調査もある。
本研究はメタアナリシスによって、認知機能に低下がある人と無い人への運動プログラム効果について、1997年から2006年までに発表された英語表記論文の研究結果を集積し、個々の研究で示されたエビデンスを総合的に比較検討した結果、両者間での効果結果に差がないことを示した。注意すべき点は、本研究で認知機能の低下の有無のcut off pointを、MMSE得点の24点としている点である。通常MMSEで「認知症」を疑うのは21点で、22点~26点は軽度認知障害のレベルとみなす。また、本研究で分析の対象にした論文にはMMSE得点の平均が10点台の対象者群が含まれている。
超高齢社会の日本において、理学療法の対象は、これからさらに認知機能に低下のある人や認知症の人が増えていく。本研究結果が示したように、認知機能障害のある人にも無い人にも身体機能のトレーニング効果が同じようにあるならば、高齢者が「健やかに老いる」ために、理学療法士は今以上にさまざまな場面や機会においてサービスを提供できるのではないだろうか。

【参考文献】

  1. Agüero-Torres H, Fratiglioni L, et al. : Dementia is the major cause of functional dependence in the elderly : 3-year follow-up data from a population-based study. Am J Public Health. 1998;88(10):1452-6.
  2. Auyeung TW, Kwok T, et al. : Functional decline in cognitive impairment―the relationship between physical and cognitive function. Neuroepidemiology 2008;31:167-173.
  3. Black SA, Rush R: Cognitive and functional decline in adults aged 75 and older. J Am Geriatr Soc 2002;50:1978-1986.
  4. Colcombe S, Kramer AF : Fitness effects on the cognitive function of older adults ; A meta-analytic study. Psychol Sei 2003;14:125-130.
  5. Patricia Heyn, Beatriz C. Abreu, et al. : The effects of exercise training on elderly persons with cognitive impairment and dementia: A Meta-Analysis. Arch Phys Med Rehabil 2004 ; 85:1694-1704.
  6. Wang L, Larson EB, et al. : Performance-based physical finction and future dementia in older people. Arch Intern Med.2006;166:1115-1120.
  7. Williamson JD, Espeland M, et al : Changes in cognitive function in a randomaized trial of physical activity : results pf the lifestyle interventions and independence for elders pilot study. J Gerontol A Biol Sci Med Sci 2009;64A:688-694.

2010年06月12日掲載

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