電気刺激療法は地域在住脊髄損傷者の褥瘡治癒率を増加させる

Houghton PE, Campbell KE, Fraser CH, Harris C, Keast DH, Potter PJ, Hayes KC, Woodbury MG: Electrical stimulation therapy increases rate of healing of pressure ulcers in community-dwelling people with spinal cord injury. Arch Phys Med Rehabil, 2010; 91:669-78.

PubMed PMID:20434602

  • No.1007-1
  • 執筆担当:
    山形県立保健医療大学
    保健医療学部
    理学療法学科
  • 掲載:2010年7月10日

【論文の概要】

背景

脊髄損傷者にとって褥瘡治癒の遅延は生命を脅かす深刻な医学的状況に進展する可能性がある。一方、創傷に対する電気刺激electrical stimulation therapy:ESTは線維芽細胞活動の増加、コラーゲン蓄積や血管新生増加などにより治癒を早めることが知られている。さらに緑膿菌や黄色ブドウ球菌を減少させるという報告もある。ESTには様々な方法が用いられており、高電圧電気刺激もその一つである。また、ESTの治療時間も1時間から8時間まで様々である。カナダや米国の脊髄損傷者の褥瘡治療ガイドラインではESTが推奨されているが、これらはリハビリテーション医療施設における治療であり、地域在宅環境下での研究は少ない。

目的

この研究の目的は地域基盤型褥瘡ケアプログラムに組み入れられたESTが脊髄損傷者の褥瘡治癒を改善するか検証することである。

方法


研究デザイン:
単マスク無作為化比較試験

対象:
National Pressure Ulcer Advisory Panel(NPUAP)の分類でステージⅡ~Ⅳ(判定不能のⅩ含む)の褥瘡が坐骨結節部にある地域在住脊髄損傷者34名で女性14名、男性20名、平均年齢51±14歳であった。無作為に標準ケア群(standard wound care:SWC群)18名と標準ケア+電気刺激群(SWC+EST群)16名に割付けられた。

介入:
SWC群
看護師、理学療法士、作業療法士および栄養士で構成されるチームが包括的・学際的な評価と治療に当たった。これには例えば車椅子シートの圧マッピング計測、血液検査を含む栄養状態の評価などが行われ、個別的な創傷管理指導やシートクッションの変更などが行われた。
SWC+EST群
SWCに加えて電気刺激療法が行われた。ESTは携帯型電気刺激装置が用いられ、刺激波形はパルス幅50µsのツインピークパルス波(高電圧電気刺激)であり、50から150vの電圧で適応された。電極は多くの場合単極法で、褥瘡を覆うように治療電極を配置した。20分間100Hz、20分間10Hz 、その後20分間休止の1時間を1サイクルとして1日8時間実施された。介入期間は3カ月であった。

評価:
主要帰結評価はVisitrak Systemによる褥瘡表面積測定(wound surface area:WSA)を行い、褥瘡表面積減少率%↓WAS=初期WAS-最終WAS/初期WAS×100を算出した。 副次帰結評価として、画像創傷評価ツール(photographic wound assessment tool:PWAT)と褥瘡状態ツール(pressure sore status tool)、EST実施時間、副作用調査などが行われた。

結果

対象者の特性:
両群間で、年齢、損傷レベル、受傷後期間、褥瘡罹患期間などに差はなかった。褥瘡の平均罹患期間は両群とも1年以上(註:各群の数値が本文と表で逆なっていると思われる)の慢性例である。

%↓WAS:
SWC群36±61%に対しSWC+EST群は70±25%であり有意に改善した。悪化した例はSWC群で4名、SWC+EST群ではゼロであった。 NPUAP分類ステージⅡは両群ともに全例(SWC群4名、SWC+EST群1名)が治癒した。NPUAP分類ステージⅢ、ⅣおよびⅩで50%以上改善者はSWC+EST群では80%、SWC群では36%で有意差があった。

PWAT:
SWC+EST群では初期スコア13.4±3.0から介入後9.0±5.1へ有意に改善した。

副作用:
ESTの副作用として1名に24時間以上持続する発赤(火傷)があったが48時間以内に改善した。

EST実施時間:
平均3.0±1.5時間/日であり、推奨時間を下回った。褥瘡が治癒した対象者の平均は3.54時間/日であり、治癒しなかった対象者は2.24時間/日であった(結果では明記されていないが考察では有意差は無しとなっている)。

考察

地域基盤型褥瘡ケアプログラムに組み入られたESTは、脊髄損傷者の慢性再発褥瘡の治癒を促進することが示された。ESTはNPUAP分類ステージⅢ以上の重度褥瘡の治癒を促進した。

一方、ステージⅡは両群とも治癒しており、標準ケアで十分であることが示唆された。また、対象者数が少ないことや合併症がある場合に除外していること、銀含有製材を含むドレッシングの影響も含まれていることなどの研究限界がある。

【解説】

この研究は地域在住脊髄損傷者の慢性再発性の褥瘡に対してESTが有効であることを明らかにしており、本邦でもこの領域に理学療法士が積極的に取り組んでいくべきであることを示している。また、この研究の標準ケアSWCは、チームによる包括的アプローチがなされており、ESTを除いても十分なケアが行われている。本邦では、先ず、地域での標準ケアを質・量とも高めていくことが必要と思われる。ESTに関しても、本邦では在宅で使用できるツインピークパルス波(高電圧電気刺激)刺激装置を入手することが難しい。創傷治療にはマイクロカレントなど他の刺激波形も応用されており、これらを含めて本邦での取り組みの推進と臨床試験が望まれる。
以下、参考資料の入手先を示す。

【参考文献】

  1. Majeske C. Reliability of wound surface area measurements. Phys Ther 1992;72:138-41.
  2. Haghpanah S, Bogie K, Wang X, Banks PG, Ho CH. Reliability of electronic versus manual wound measurement techniques. Arch Phys Med Rehabil 2006;87:1396-402.
  3. Houghton PE, Kincaid CB, Lovell M, et al. Effect of electrical stimulation on chronic leg ulcer size and appearance. Phys Ther 2003;83:17-28.
  4. [PWAT]: GHoughton PE, Kincaid CB, Campbell KE, Woodbury MG. Photographic assessment of the appearance of chronic pressure and leg ulcers. Ostomy Wound Manage 2000;46:20-30.
  5. [PSST]: Bates Jensen BM, Vredevoe PL, Brecht ML. Pressure ulcer status tool. Decubitus 1992;5:20-8.

2010年07月10日掲載

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