変形性膝関節症患者に対する股関節外転筋強化のホームエクササイズにおける膝関節への負荷、筋力、機能、疼痛への効果:臨床化試験

Sled EA, Khoja L, Deluzio KJ, Olney SJ, Culham EG: Effect of a home program of hip abductor exercises on knee joint loading, strength, function, and pain in people with knee osteoarthritis: A clinical trial. Phys Ther 2010;90:895-904

PubMed PMID:20378679

  • No.1008-2
  • 執筆担当:
    山形県立保健医療大学
    保健医療学部
    理学療法学科
  • 掲載:2010年8月10日

【論文の概要】

背景

膝内反変形を呈する内側型変形性膝関節症(膝OA)患者は、歩行中膝内転モーメントが増加すること、膝内転モーメントとOA重症度、膝内反アライメント、疼痛との間に関連性があることが報告されている。膝OA患者は、歩行中膝内転モーメントを減少させるために足角(toe-out angle)を増加させたり、体幹を立脚下肢側に傾けたりする戦略をとっている。

股関節外転筋力には、歩行中の骨盤傾斜を制御して、膝関節にかかる負荷を調整する役割のあることが考えられる。しかし、膝OA患者を対象に、股外転筋力強化による歩行中の膝にかかる負荷(膝内転モーメント)を調べた報告は見あたらない。

目的

股外転筋力強化を目的としたホームエクササイズを膝OA患者に対して8週間行い、筋力の増加による歩行中の膝内転モーメントの減少、二次的作用の膝関節機能、疼痛の改善が見られるかについて調べた。

対象

内側型膝OA(OA群):
40名(女性23名、男性17名、平均年齢 62.98歳:46-90歳、平均体重 82.31kg、平均BMI 27.38kg/m²、平均FTA 184.1°、平均膝OA重症度 2.5 中等度:Kellgren-Lawrence radiographic grading scale (0-4)を使用)。

健常者(対象群):
40名(女性23名、男性17名、平均年齢 64.13歳:47-84歳、平均体重 69.71kg、平均BMI 24.04kg/m²)。

方法

介入:
1名の理学療法士が、股外転筋力強化のホームエクササイズをOA群全員に指導した。エクササイズの内容は、(1)側臥位での股外転運動(エクササイズゴムバンドを輪にして大腿遠位部に引っ掛ける)、(2)立位での股外転運動(バンドを下腿遠位部に掛ける)、(3)片脚立位(高さ10cm台に乗せた対側の足部を浮かせて、股外転筋に強調して収縮させるよう片脚立位となる)である。これらすべて左右、20回反復して行った。週3~4回の実施頻度で8週間継続した。8週の間に理学療法士によるフォローアップが2回行われた。

測定:
以下の項目の測定を介入前後に実施した。
(1)膝内転モーメント:
三次元動作解析装置を用いて歩行立脚期50%でのピーク値を5回測定した。
(2)股外転筋力:
等速性筋力測定機器を用いて、立位での股外転等速性求心性筋力(角速度60°/s、外転範囲0-30°)を測定。
(3)膝関節評価、活動レベル:
Western Ontario and McMaster Universities Osteoarthritis Index (WOMAC:疼痛5項目、可動域制限2項目、身体的機能17項目)、5回立ち上がりテスト(所要時間)、ADL評価(PASEスコア)を使用。

解析:
膝内転モーメント:全立脚期を100%に再計算後、5個のデータを加算平均し、立脚期50%のピーク値を求めた。ピーク値は体重と身長の積に対する割合に換算された。

結果

  1. 股外転筋力
  2. 介入前、OA群は0.75Nm/kg(平均)であり、対象群(0.96Nm/kg)に比べて有意に低値を示したが、介入後、OA群は1.00Nm/kg(平均)に増加し、対象群と差がなくなった。
  3. 膝内転モーメント
  4. 介入前、OA群が2.97%BW×Ht(平均)、対象群が2.47%BW×Htであり、介入後、OA群が2.96%BW×Ht、対象群が2.52%BW×Htとなり、介入による変化はなかった。
  5. 5回立ち上がりテスト
  6. OA群は介入前15.2秒、介入後12.5秒となり、対象群に比べて所要時間が有意に短縮した。
  7. PASEスコア
  8. 介入前、OA群は対象群に比べて高値(身体活動が活発)を示し、介入後も同様な傾向であり、介入による変化はみられなかった。
  9. WOMACスコア
  10. OA群では疼痛得点が介入により有意な減少を示したが、可動域制限と身体的機能の得点は変化なかった。

考察

OA群の歩行中の膝内転モーメントが対象群より増加する理由として、BMIの増加、膝内反アライメントの増加が報告されている。今回、8週間の股外転筋力強化のホームエクササイズにおいて筋力増強が認められたが、膝内転モーメントの減少までの効果は得られなかった。今回の股外転筋力強化による膝内転モーメントへの影響を調べた研究は初めてである。膝内転モーメントに関するこれまでの研究は、膝伸展筋力の増加による影響を調べたものがあるが、膝内転モーメントには影響を及ぼさないことが報告されている。

【解説】

膝OA患者に対する筋力増強は主に膝関節伸筋と屈筋群に行われており、その効果として膝痛減少、ADL能力やバランス能力の改善が臨床で多く確認されている。また、歩行中の膝内転モーメントを減少させる方法として足底板が用いられている。
今回、筆者らは股関節外転筋群に目をつけ、力学的観点より膝内転モーメントを減少させようと試みた研究である。結果として、8週間のホームエクササイズにより股関節外転筋力は増加したが、膝内転モーメントに好影響を及ぼす結果は得られなかった。しかし、疼痛の減少、椅子からの立ち上がり時間の短縮などの効果が得られた。
Lim et al. [1.] は、RCT研究で107名の内側型膝OA患者を対象に、12週間の大腿四頭筋強化目的のホームエクササイズを行った結果、大腿四頭筋筋力が増加しても膝内転モーメントには影響を及ぼさないことを報告している。したがって、本論文は Lim et al. 論文の結果と同様の効果が得られたといえる。今後、膝OAに対する股外転筋強化の効果を確かなものにするために、RCT研究にする必要があることは筆者らも述べている。

【参考文献】

  1. Lim BW, Hinman RS, Wrigley TV, et al. Does knee malalignment mediate the effects of quadriceps strengthening on knee adduction moment, pain, and function in medial knee osteoarthritis? A randomized controlled trial. Arthritis Rheum. 2008;59:943--951.

2010年08月10日掲載

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