慢性脳梗塞者のトレッドミル歩行訓練による認知および上肢機能の改善に関する無作為化クロスオーバー試験

Ploughman M, McCarthy J, Bosse' M, Sullivan HJ, Corbett D : Does treadmill exercise improve performance of cognitive or upper-extremity tasks in people with chronic stroke? A randomized cross-over trial. Arch Phys Med Rehabil. 2008 Nov;89(11):2041-7.

PubMed PMID:18996231

  • No.1009-2
  • 執筆担当:
    山形県立保健医療大学
    保健医療学部
    理学療法学科
  • 掲載:2010年9月11日

【論文の概要】

背景

脳血管障害者では、認知・運動機能に永続的な障害を抱えている。体重免荷トレッドミル歩行(Body weight support Treadmill Training:BWSTT)装置は運動障害を持った患者や心臓血管系の疾患に対する安全かつ有効的な歩行訓練が可能であり、臨床場面で漸増的に使用されている。

目的

本研究の目的は、脳梗塞者に対する体重免荷トレッドミル歩行練習が認知機能および上肢能力の改善に寄与するかについて検証する事である。

方法

被験者は、脳血管障害発症後に半年~5年経過した慢性期の21名である。杖あるいは杖無しで歩行が可能で、MMSEで24点以上の者を対象とした。 
認知課題の評価については、(1)Trail Making Tests のParts A,B(2)Symbol digit substitution test(DSST)(3)Paced Auditory Serial Addition Test(PASAT)を使用して、上肢機能の評価はAction Research Arm Test(ARAT)を用いた。トレッドミル歩行条件は、両上肢は手すりを把持して、20分間の歩行(5分間の歩行速度増加、10分間の定常歩行、5分間の速度減少)を行なった。歩調ペースは、心拍数(220-年齢×0.7)を基準、もしくはBorgスケールで13を目安に実施した。訓練効果は、分散分析およびt検定を用いて明らかにして、単純回帰分析を用いて運動強度と計測結果との関連を明らかにした。

結果

トレッドミル歩行は、筋力を除いた上肢機能の改善が得られた(P=0.04)。認知機能については変化が無かった。

考察

上肢機能が改善した要因について、本研究の実験条件として両上肢は手すりを把持する事としたが、それによって歩行中に体幹は固定されて上肢と体幹のリズム運動が生じた結果、筋トーヌスを弛緩させた事が考えられる。被験者の主観としても上肢運動が容易だったとの感想が聞かれた。今後、持続時間についてさらなる検討が必要である。

【解説】

体重部分免荷条件でのトレッドミル歩行訓練は、近年積極的に理学療法の治療方法として取り入れられている。その対象疾患としては、脊髄損傷者[1.]、外傷性脳損傷[2.]、パーキンソン病者[3.]などであるが、特に、脊髄損傷者に対するアプローチとしては、多くの文献があり歩行能力の改善などが図られた事を報告している。その機序は、体重免荷機構付きのトレッドミル歩行の利点を利用した荷重量の調整や、歩行速度を増加させるなどして筋協調性が改善したとしている。脳血管障害者についても積極的に導入されているようであるが[4.]、脳血管障害者を対象とした先行研究では、トレッドミル歩行訓練による効果は、他の治療介入と比較しても歩行速度の改善につながらなかった事が報告されており[5.]、他の報告も明確な歩行能力への効果は明確ではないようである。
本研究では、トレッドミルを利用した歩行訓練が認知や上肢機能の改善への影響が不明であることから、その効果を明らかにする目的で研究を行なったとしている。 結論としては、上肢機能の向上にはつながっており、その要因は体幹と上肢の間に生じたrhysmicな運動が作用したとのことである。確かに、トレッドミル歩行では、歩行速度の増減や荷重量も調整する事が可能な事から治療者が目的とする効果を狙いやすい利点は有ると思われが、本研究では神経生理学的観点からは検討されておらず、Renato Grassoら[6.]が脊髄損傷者に対するトレッドミル歩行訓練で明らかにしたようなMN等の観点からなどの詳細な検討が必要であろう。

【参考文献】

  1. Dobkin B, Apple D, Barbeau H, Basso M, Behrman A, Deforge D, Ditunno J, Dudley G, Elashoff R, Fugate L, Harkema S, Saulino M, Scott M; Spinal Cord Injury Locomotor Trial Group.:Weight-supported treadmill vs over-ground training for walking after acute incomplete SCI. Neurology. 2006 Feb 28;66(4):484-93.
  2. Mossberg KA, Orlander EE, Norcross JL. : Cardio respiratory capacity after BWSTT in patients with traumatic brain injury. Phys Ther. 2008; 88:77-87.
  3. Miyai I et al : Treadmill training with body weight support: its effect on Parkinson’s disease. Arch Phys Med Rehabil 81 : 849-852, 2000.
  4. Hugues B et al : Optimal Outcomes Obtained With Body-Weight Support Combined With Treadmill Training in Stroke Subjects. Arch Phys Med Rehabil 84 : 1458-65,2003.
  5. AM Moseley, A Stark, ID Cameron, A Pollock:Treadmill training and body weight support for walking after stroke. Cochrane Database Syst Rev. 2005 Oct 19;(4):CD002840.
  6. Renato Grasso, Yuri P. Ivanenko, Myrka Zago, Marco Molinari, Giorgio Scivoletto, Vincenzo Castellano, Velio Macellari and Francesco Lacquaniti:Distributed plasticity of locomotor pattern generators in spinal cord injured patients.Brain.2004, 127, 1019-1034.

2010年09月11日掲載

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