前足部障害のある関節リウマチ患者における歩行パターンの運動学的順応

Davy Laroche, Paul Ornetti, Elizabeth Thomas, Yves Ballay, Jean Francis Mallefert, Thierry Pozzo: Kinematic adaptation of locomotor pattern in rheumatoid arthritis patients with forefoot impairment. Exp Brain Res (2007) 176: 85-97.

PubMed PMID:16915399

  • No.1010-1
  • 執筆担当:
    甲南女子大学
    看護リハビリテーション学部
    理学療法学科
  • 掲載:2010年9月25日

【論文の概要】

背景

RA患者における前足部の機能不全に関する研究、特にMTP関節のROM制限の影響について明らかにされていない。MTP関節のROM減少は、歩行において下肢の運動とストライドの産出との協働を修正するような重要な変化を引き起こす[1.]と考えられる。

目的

第1に、遠位(MTP)関節障害後の歩行順応するための歩行パラメーターの修正を調査すること。第2に、歩行の悪化に伴って生じる補償メカニズムを推論すること。

方法

研究デザイン:
横断研究

対象:
1987年に改訂されたアメリカリウマチ学会の診断基準を満たしたRA患者9名およびコントロール群として健常者9名。

調査方法:
身体運動は、4×4×2mの捕捉野をもつ赤外線ストロボスコープを備えた8台のビデオカメラを用いた、3次元運動分析ELITEシステムを使用して、床面の4mの直線に沿った裸足歩行を記録した。反射マーカー(直径15mm)は第5MTP関節外側、外果、脛骨外側上顆、大転子、前後の腸骨棘、肩峰上腕関節の皮膚に取り付けた。RA患者は自己選択速度(NS)および速歩(HS)の2つの異なる速度での歩行を、コントロール群はNSで10回、そしてゆっくりした速度からHSまでの範囲で異なるスピードの歩行を21回行った。

評価:
MTP関節のROM評価はELITEシステムを用いて関節を最大に底屈した後、最大に背屈させて、各マーカーの空間的座標からROMを算出した。歩行は2群の歩行速度を対応させて、コントロール群の値に対する患者のNSおよびHSを比較した。歩行分析は、a principal component analysisを用いて下肢の各部位間(大腿、下腿、足部)の協働の時間的-空間的構成を評価した。さらに、MTP関節のendpointでの動きや床反力計を用いて収集した動力学的データを運動学的データと同調させて検討した。

統計解析:
平均値および標準偏差はすべての歩行サイクルから算定した。歩行パラメーターはMann Whitneyテストを用いてコントロール群から得られたデータと比較した。関節可動域制限と通常歩容あるいは空間的角度との相関はSpearmanの相関を用いて評価した。統計学的有意差は5%未満と定義した。

結果

MTP関節ROMの平均値はコントロール群(右足 69.5±15°、左足70.1±18°)、患者群(右足44±15°、左足40±11°)と、患者群に約40%の有意な減少がみられた。2群の歩行速度はテストされた2種類の歩行スピードにおいて有意な相違がなく、さらに、ストライド長、歩行率、立脚期、両脚支持期におけるパラメーターにも有意差がみられなかった。しかし、歩行速度、ストライド長とMTP関節ROMとの間に相関がみられた(歩行速度に対しr2=0.51、ストライド長に対し r2=0.54、P<0.03)。NSでのToe-off時の足関節角度はコントロール群(14.18±7.68)よりも患者群(18.32±6.77)が有意に大きかった。Push-off forceは、NSでのコントロール群よりも44%低く(各々、コントロール群0.64±0.13N、患者群0.36±0.07N)、HS で23%低かった(各々、コントロール群0.63±0.12、患者群0.48±0.07)。

考察

RAによるMTP関節のROM減少は、toe-off時での足部挙上角の低下を生ずる。歩行時のROM制限された関節の使用は、関節や必然的に関連痛に応用される圧力を減弱させる順応手順に起因する[2.]。底屈制限の1つの力学的な影響は、立脚相のほとんどの周期における圧力の中心が足底のより後方に位置することから、わずかな足関節屈筋トルクしか産出されない。これが患者の歩行速度、ストライド長とMTP関節のROMとの間にみられる線形関係を説明している。
補償メカニズムは機能障害の影響を相殺する有効な順応の結果である。今回の結果による足部の軌道の運動学的数値は空間的な不変性[3.]を維持しようとする順応過程に一致することから、局所的な関節障害への有効な順応が行われていると考える。

結語

MTP関節ROMの著明な減少が歩行パターンに重要な影響を及ぼすことを示し、歩行時のMTP関節の機能的役割を示唆している。結果的に、どんな治療でも疼痛の軽減を供給することに加えて、可動性とMTP関節のROMの減少を防止することに焦点を当てるべきである。

【解説】

本研究は、RA患者のMTP関節障害が歩行に及ぼす影響を検証したものである。まず、MTP関節のROM制限による歩行パラメーターへの影響を調査し、次に、歩行への順応のための補償メカニズムを推論している。標準的な方法である3次元動作分析装置を使用した歩行分析であるが、より的確な検証を行うために健常者との比較において歩行速度をマッチングすることを強調している。そのために、健常者に異なる速度での歩行を行っている。また、下肢の分節(足部、下腿、大腿)間の協働の時間的-空間的構成を評価するためにa principal component analysisを用い検討している。その結果、他の研究同様、分節間でのcovariationにおける修正がみられ、歩行パターンを順応させていることを示した。
本研究結果より、とかく股関節や膝関節に注目されやすいRA患者の歩行ではあるが、MTP関節のROM制限の影響の特徴とその重大性を再確認し、可動性とMTP関節ROMの減少を防止することに留意する必要性を気付かせる。

【参考文献】

  1. Laroche D, Pozzo T, Ornetti P, Tavernier C, MaillefertJF. Effects of loss of metatarsophalangeal joint mobility on gait in rheumatoid arthritis patients. Rheumatology 2006; 45: 435-440.
  2. Sakauchi M, Narushima K, Sone H, Kamimaki Y, Yamazaki Y, Kato S, Takita T, Suzuki N, Moro K. Kinematic approach to gait analysis in patients with rheumatoid arthritis involving the knee joint. Arthritis Rheum 2001 45: 35-41.
  3. Ivanenko YP, Grasso R, Macellari V, Lacquaniti F. Control of foot trajectory in human locomotion. J Neurophysiol 2002 87: 3070-3089.

2010年09月25日掲載

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