幻肢痛に対する幻像運動の有効性:予備的研究

Özlem Ülger, Semra Topuz, Kezban Bayramlar, Gül Şener, Fatih Erbahçeci,:Effectiveness of phantom exercises for phantom limb pain:A pilot study.J Rehabil Med,2009;41:582--584.

PubMed PMID:19543671

  • No.1011-1
  • 執筆担当:
    甲南女子大学
    看護リハビリテーション学部
    理学療法学科
  • 掲載:2010年10月16日

【論文の概要】

背景

正常な刺激の欠如と傷害を受けた神経単位からの過放電、切断後に再び認められる体性感覚の疼痛が幻肢痛発生の原因と考えられている。幻肢痛の治療は非常に困難であるが、治療方法として手術療法、心理療法、鏡や鏡箱による仮想現実を用いた方法がある。

目的

この研究は幻肢痛に対する鏡を用いた幻影運動の疼痛軽減効果の検証を目的としている。

方法

研究デザイン:
無作為比較試験

対象:
30歳から45歳の交通事故による外傷性の上肢または下肢切断者20例で、VASで7点の幻肢痛を認める者。
健常肢への治療介入による促通効果を高める目的で、幻肢のみを認め幻肢痛のない切断者および両側性切断者は研究対象から除外されている。

介入方法:
20例の対象者は無作為に10例ずつの2群に分類され、グループⅠは幻像運動と義足練習を4週間実施した。グループⅡは従来通りの義足練習と切断レベルに応じた筋力増強運動、伸張運動、等張・等尺性の全身調整運動を各10回1日2回の頻度で4週間実施した。薬の影響を防ぐため被験者は4週間全の服薬が中止され治療が行われた。
グループⅠで実施された幻像療法は、(1)切断者はどの位置で幻肢を感じるか明確にし、(2)切断者が幻肢を感じる同じポジションに健常肢を置かせ、(3)両肢を反対側へ動かし、(4)開始肢位に戻す運動が15回あるいは幻肢痛が消えるまで繰り返された。再び幻肢痛を認めた被験者は運動の再開が指示された。

統計解析:
治療前後の幻肢および幻肢痛のVAS値はWilcoxon検定、Mann-Whitney U testにより危険率5%で検討された。

結果

研究に参加した被験者は女性が4名、男性が16名であった。グループⅠは上肢切断下肢切断共に5例、グループⅡ群は下肢切断6例、上肢切断4例であった。治療介入前の幻肢のVASはグループⅠ8.40±1.08、グループⅡ8.50±1.08、4週後の幻肢のVASはグループⅠ6.30±0.95、グループⅡ7.90±0.88であった。幻肢痛の介入前VASはグループⅠ9.20±0.79、グループⅡ9.30±0.82、4週後のVASはグループⅠ6.10±0.74、グループⅡ7.60±0.52であった。幻肢・幻肢痛共に治療の前後および治療後のグループⅠとⅡの間でVASの有意な低下が認められた(p<0.05)。

考察

幻肢痛を認める切断者に対する4週間の幻像運動と全身調整運動は幻肢および幻肢痛を有意に低下させ、特に幻像運動は全身調整運動に比べ幻肢痛の軽減に関し高い効果が認められた。本結果より幻像運動は幻肢痛に対する効果的な運動となるが効果を検証するためのさらなる研究が必要といえる。

【解説】

ハーバード大学チャールズバネット教授が、鏡の前で手を動かす実験により、鏡を介した体の動きの観察が、四肢の運動覚と位置覚の妨げとなることを報告したのは1世紀以上も前のことである。それ以降、多くの哲学者と心理学者は、鏡を用いた研究により視覚の優位性を報告してきたが、1990年代の半ばまで鏡による疼痛の治療は報告されていない[1.]。1996年にラマチャンドラン博士[2.]が、鏡に映した幻影で、幻肢痛の消失を報告して以来、鏡療法は脳卒中の機能回復や幻肢痛の軽減に臨床応用されている。最近ではChan[3.]による幻肢痛の軽減や、Hanling[4.]らによる切断者に対する術前からの鏡療法の有効性が報告されており、今後は効果に関する基礎的な研究と共に臨床応用が期待されている。

【参考文献】

  1. G. Lorimer Moseley GL:Reflections, imagery,and illusions: the past,present and future of training the brain in CRPS, RSDSA Review, 2009, 22 : 9 -10.
  2. RRamachandran VS:Synaesthesia in Phantom Limbs Induced with Mirrors.Proc Biol Sci.,1996 , 22:377 -- 86.
  3. Chan BL,Witt R,Charrow AP et al:Mirror Therapy for Phantom Lim Pain.N ENGL J MED,2007,22:2206-2207.
  4. Hanling SH, Wallace SC, Hollenbeck KJ,et al:Preamputation Mirror Therapy May Prevent Development of Phantom Limb Pain: A Case Series.Anesth Analg. 2010,110(2):611 - 4.

2010年10月16日掲載

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