漸進的5週間の運動療法プログラムは前十字靱帯損傷後早期の膝機能を有意に回復する

Eitzen I, Moksnes H, Snyder-Mackler L, Risberg MA.: A Progressive 5-Week Exercise Therapy Program Leads to Significant Improvement in Knee Function Early After Anterior Cruciate Ligament Injury. J Orthop Sports Phys Ther. 2010 ;40(11):705-721.

PubMed PMID:20710097

  • No.1101-2
  • 執筆担当:
    甲南女子大学
    看護リハビリテーション学部
    理学療法学科
  • 掲載:2010年12月11日

【論文の概要】

研究デザイン

比較対照なしの前向きコホート研究

背景

ACL損傷後、手術をする場合でも、保存的治療をする場合でも、運動療法プログラムは膝機能を早期回復するためには必要なことである。
ACL損傷後の早期リハビリテーションプロトコールに関する研究は少ないので、受傷後早期における短期運動療法プログラムの許容限度や効果についてはあまり知られていない。

目的

ACL損傷後早期から5週間の漸進的運動療法プログラムを提案する。
本プログラムを完遂した時点での膝機能の変化を全般的に評価し、また、良好な状態の人(coper)と良好な状態でない人(noncopers)に分けても評価する。
さらに、潜在している不利な出来事も評価する。

方法

MRIおよびKT-1000で左右差3mm以上が確認されたACL損傷者211名のうち、13歳から60歳の複合靱帯損傷のない片側のACL単独損傷(軽度の半月板損傷の合併は含める)者で、週2回以上5週間の来院が可能な者100名が、受傷後3カ月以内で5週間の漸進的運動療法プログラムに参加した。

ACL損傷後の早期リハビリテーションプロトコールは3段階に分かれており、第1段階は局所の腫脹と膝ROMの改善を目的とし、3カ月以内に改善しなければ対象から除外した。第2段階は本研究の課題である筋力と神経筋反応の改善を目的としている。この段階では、アメリカスポーツ医学会ACSMが提唱するガイドラインに沿って段階的漸増的に実施する筋力トレーニングとプライオメトリックトレーニング、神経筋反応トレーニングとして種々のバランストレーニングとデラウエア大学のガイドラインに沿った動揺トレーニングを実施した。

第2段階のプログラムの参加前と終了後に膝機能を評価した。評価項目は、大腿四頭筋力とハムストリングスの等速性筋力テスト(Biodex6000を使用)、4種類の片脚跳躍テスト(片脚幅跳び、片脚クロスオーバ3段跳び、片脚三段跳び、6m片脚跳び)、2種類の自己評価質問紙(膝成績調査の日常生活動作スケールKOS-ADLSと国際膝表記委員会の自覚的膝評価IKDC2000)、包括的膝機能段階質問紙(VAS)である。

混合モデルの2元配置分散分析を用いて、筋力テストと片脚跳躍テストにおける患側と健側との対称性指標の変化や質問紙点数の変化についてプログラム参加前と完遂後との間で比較した。また、筋力テストと片脚跳躍テストの標準化された変化量の平均値が患側・健側それぞれのプログラム参加前後において算出し、比較した。

5週間のプログラム中に起きた不利な出来事(腫脹や疼痛などの出現)を記録した。

結果

98名がプログラムを完遂した。5名が片脚跳躍テストを実施できなかった。
漸進的5週間の運動療法プログラムは、copersにおいてもnoncopersにおいても膝機能(筋力と片脚跳躍)を有意に回復させた(p<0.05)
患側の標準化された変化量の平均値は、中等度から強度であった(0.49-0.84)
KOS-ADLSは、noncopersはcopers以上に回復したが、IKDC2000とVASはnoncopersとcopersとに差異はなかった。
不利な出来事の出現は、対象者の3.9%であった。

考察

ACL損傷後の5週間の短期的な漸進的運動療法プログラムは、良好な状態の人(coper)も良好な状態でない人(noncopers)も筋力や片脚跳躍能力などの膝機能を回復させることができる。
短期的な漸進的運動療法プログラムは、ACL再建術の術前の膝機能回復のためにも、また、非手術的管理の段階としても、早期ACLリハビリテーションとして許容できる内容であり、組み入れられるべきプログラムである。

【解説】

ACL損傷による大腿四頭筋の筋力低下は7%~21%と報告されている[1.-5.]。大腿四頭筋の筋力低下はACL再建術の術後成績を左右する因子としても重要であり、ACL再建術後も長期的に残存する機能障害とされている[3.6.7.]。
一般的に筋力を含めた膝関節機能が術前から良好である方が術後機能回復も良好であるとされ、ACL受傷後、もっと積極的な筋力トレーニングをするべきという指摘もされてきている[8.9.10.]。
しかし、受傷後から手術までの早期リハビリテーションでどの程度の運動療法をどれくらい実施すればいいのかについては一致した見解もなく、この視点での研究報告も少ない。
また、積極的なプログラムであっても症状の悪化はないとする予測ではあったが、わずかながら3.9%の症例で症状の悪化が生じた。この点については議論の余地を残している。
本研究では、ある程度限定された対象者であるので、プログラムの効果を普遍性のあるものとは言えないが、受傷後早期でかつ短期間のプログラムで筋力を含めた膝関節機能の回復が得られたことは、ACL再建術を受ける対象者にとっても、保存的治療を受ける対象者にとっても良好な膝関節機能を獲得する点で価値ある成果と思われる。

【参考文献】

  1. de Jong SN, van Caspel DR, van Haeff MJ, Saris DB. Functional assessment and muscle strength before and after reconstruction of chronic anterior cruciate ligament lesions. Arthroscopy. 2007;23:21-28
  2. Keays SL, Bullock-Saxton J, Keays AC. Strength and function before and after anterior cruciate ligament reconstruction. Clin Orthop Relat Res.2000;174-183.
  3. Keays SL, Bullock-Saxton JE, Keays AC, Newcombe PA, Bullock MI. A 6-year followup of the effect of graft site on strength, stability, range of motion, function, and joint degeneration after anterior cruciate ligament reconstruction: patellar tendon versus semitendinosus and gracilis tendon graft. Am J Sports Med. 2007;35:729-739.
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  6. Eitzen I, Holm I, Risberg MA. Preoperative quadriceps strength is a significant predictor of knee function two years after anterior cruciate ligament reconstruction. Br J Sports Med. 2009;43:371-376.
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  10. Kvist J. Rehabilitation following anterior cruciate ligament injury: current recommendations for sports participation. Sports Med.2004;34:269-280.

2010年12月11日掲載

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