仰臥位と側臥位における他動的肩関節内旋可動域測定の信頼性

Lunden JB, Muffenbier M, Giveans MR, Cieminski CJ.:Reliability of shoulder internal rotation passive range of motion measurements in the supine versus sidelying position. J Orthop Sports Phys Ther. 2010;40:589-594.

PubMed PMID:20805626

  • No.1103-2
  • 執筆担当:
    甲南女子大学
    看護リハビリテーション学部
    理学療法学科
  • 掲載:2011年3月14日

【論文の概要】

背景

臼蓋上腕関節での内旋可動域制限は、しばしば肩関節疾患で注目されている。この内旋可動域測定では、評価者内信頼性が非常に優れていることが報告されている。しかし、評価者間信頼性は、公平性には不十分であると報告されている。臨床では、現在、肩関節疾患患者の内旋方向へのストレッチングに側臥位を利用している。しかしながら、信頼性または標準値によって、側臥位での他動的内旋可動域測定を客観的に示したデータは見当たらない。

目的

標準測定肢位の仰臥位と側臥位における肩関節内旋可動域の他動的ROM測定の信頼性を評価者間および測定肢位間で比較した。

方法

対象は70名(平均年齢36.8歳)で、肩関節疾患群19名、健常群51名である。利き手または対象となる肩関節の他動的内旋可動域を検者2名(理学療法士)により2肢位で測定した。評価者1は臨床経験5年、評価者2は臨床経験9年で教員経験者である。2肢位とは、(1)標準測定肢位の仰臥位で肩関節 90度外転位、(2)側臥位で肩関節90度屈曲位である。統計処理は、95%信頼区間での級内相関、二元配置分散分析、最小可検変化量(MDC)である。

結果

評価者内信頼性は、仰臥位での測定(ICC3,1=0.70-0.93)と側臥位の測定(ICC3,1=0.94-0.98)でexcellent(高い一致)の信頼性であった。評価者間信頼性では、仰臥位の測定(ICC2,2=0.74-0.81)で fair(ほぼ一致)から good(中等度一致)の信頼性であるが、側臥位の測定(ICC2,2=0.88-0.96)は excellent(高い一致)の信頼性であった。側臥位での他動的内旋可動域の平均値から、健常者群では39.7度(11度~69度)の可動域を有することがわかった。また、肩関節疾患群は24.8度(-16度~49度)であった。

考察

総合すると側臥位での他動的肩関節内旋可動域は、トラディショナルな仰臥位の測定より評価者内および評価者間ともに優れた信頼性を認めた。また、本研究の健常者群から他動的肩関節内旋は約40度であることがわかった。また、肩関節疾患群は約25度であった。

【解説】

従来、ゴニオメーターで測定する関節可動域はAAOS(米国整形外科学会)や日本整形外科学会および日本リハビリテーション医学会が定めた関節可動域測定法が標準である。内旋可動域測定は、肩関節内転位(上腕体側位)と肩関節外転90度位の2肢位を座位または仰臥位での測定が標準で、肩甲骨の運動を含むとの注釈がある。通常、上腕体側位が第1肢位(内旋参考可動域80度) 、肩関節外転90度位が第2肢位(内旋参考可動域70度)と称される。標準の測定方法ではないが、側臥位で肩関節屈曲90度位からの測定を第3肢位と称される。これらの肩関節肢位の違いは、筋や靭帯、関節包など関節構成組織の緊張と弛緩との相互関係から、内旋可動域の違いにも影響する。この解剖学的特徴を利用して、制動因子の評価(推察)が行える。
肩関節疾患では、臼蓋上腕関節での内旋可動域制限がしばしば注目される[1.]。投球障害肩など肩関節挙上位での内旋可動域に着目して、仰臥位での第2肢位(以下、仰臥位)や側臥位での第3肢位(以下、側臥位)の測定が選択されることが多い。主に関節後方組織の拘縮などの病態を確認する上で測定される。肩関節内旋運動の最終域では、肩甲骨副運動の前方傾斜が生じることは周知のごとくである[2.-3.]。仰臥位では、この肩甲骨の運動を最小限に抑制し、臼蓋上腕関節の可動域を分離する必要がある[4.]が、固定方法を工夫[5.]しても評価者間信頼性の低さが指摘されている[6.-7.]。現在では、側臥位での内旋測定を選択することが一般的になっている。理由として側臥位は自重により肩甲骨の前方傾斜が最小限に制御できること、仰臥位より臼蓋上腕関節後方の軟部組織により緊張感を与えられること[8.]、評価者内および評価者間ともに比較的高い信頼性があること[9.]が挙げられ、測定手技や評価者間の影響を受けにくいとされる。臨床上、この側臥位は“sleeper stretch”として臼蓋上腕関節後方の軟部組織のストレッチングに使われる肢位であり、内旋可動域の増加に即応することが報告されている[10.]。
肩関節外転位の内旋可動域標準値は、AAOS(米国整形外科学会)で70度である[3.]。本邦でも同様である。本論文では側臥位の他動的内旋可動域は約40度(健常者群:51名)と報告しているが、標準値としては明確ではない。 側臥位での内旋可動域測定およびストレッチングについては、臨床における有意性と実用性が認められる。しかしながら、測定値の信頼性や標準値については、より客観的に示したデータをもとに検討されることを期待する。

【参考文献】

  1. Myers JB, Oyama S, Wassinger CA, Ricci RD, Abt JP, Conley KM, Lephart SM. Reliability, precision, accuracy, and validity of posterior shoulder tightness assessment in overhead athletes. Am J Sports Med. 2007;35(11):1922-1930.
  2. Morrey BF,An KN.Biomechanics of the shoulder.In:Rockwood CA,Matsen FA,3rd,eds.The Shoulder. Philadelphia,PA:W.B.Saunders Company;1990:208-245.
  3. Norkin CC,White DJ.Measurement of Joint Motion: A Guide to Goniometry.3rd ed.Philadelphia, PA;F.A. Davis Company;2003.
  4. Riddle DL, Rothstein JM, Lamb RL. Goniometric reliability in a clinical setting: shoulder measurements.Phys Ther. 1987;67:668-673.
  5. Ellenbecker TS, Roetert EP, Piorkowski PA, Schulz DA.Glenohumeral joint internal and external rotation range of motion in elite junior tennis players.J Orthop Sports Phys Ther. 1996;24:336-341.
  6. Awan R,Smith J,Boon AJ. Measuring shoulder internal rotation range of motion: a comparison of 3 techniques.Arch Phys Med Rehabil.2002;83:1229-1234.
  7. Boon AJ, Smith J. Manual scapular stabilization: its effect on shoulder rotational range of motion.Arch Phys Med Rehabil. 2000;81:978-983.
  8. Terry GC, Hammon D, France P, Norwood LA. The stabilizing function of passive shoulder restraints. Am J Sports Med. 1991;19:26-34.
  9. Tyler TF, Roy T, Nicholas SJ, Gleim GW. Reliability and validity of a new method of measuring posterior shoulder tightness.J Orthop Sports Phys Ther. 1999;29:262-269; discussion 270-264.
  10. Laudner KG, Sipes RC, Wilson JT. The acute effects of sleeper stretches on shoulder range of motion.J Athl Train. 2008;43:359-363.

2011年03月14日掲載

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