関節リウマチの歩行パターン

Weiss RJ, Wretenberg P, Stark A, Palmblad K, Larsson P, Gröndal L, Brontröm E
Gait pattern in rheumatoid arthritis
Gait & Posture2008; 28: 229-234.

PubMed PMID:18226528

  • No.1104-1
  • 執筆担当:
    甲南女子大学
    看護リハビリテーション学部
    理学療法学科
  • 掲載:2011年4月1日

【論文の概要】

背景

疼痛や軟部組織の腫脹はRA患者における関節炎の早期の症状であり、薬物療法による早期治療にもかかわらず、多くのRA患者の荷重関節に関節破壊や変形がみられる。その結果、RA患者のQOLに相当な影響を及ぼす機能障害や正常歩行における潜在的変化を生じる。

目的

健常者と比較してRA患者における歩行の変化を定量化し、HAQスコアと歩行の運動学および動力学的パラメーターとの関連を調査する。

方法

対象:
50名のRA患者は、43名(86%)が女性で、平均年齢55±14歳、平均罹病期間17±10年、64%が罹病期間10年以上である。37名の健常者は22名(59%)が女性で、平均年齢51±14歳である。

評価

RA評価:
VAS(Visual Analog Scale)、疾病活動性、mHAQによって記録された。

歩行分析:
3次元歩行解析装置(Vicon Motion System, Oxford)が使用され、34個の反射マーカーが両側の身体ランドマークに取り付けられた。10m歩行路を裸足で自由歩行速度による歩行を行った。3回の試技の平均値から運動学および動力学的パラメーターを求め、2つのフォースプレートによる床反力から関節モーメント、関節仕事量、筋出力などを算出した。

結果

  1. 時間-距離パラメーター
    RA患者は、健常者に比較して有意に歩行速度、ストライド長、ステップ長、ケイデンスが低下していた。両脚支持時間はRA群が有意に延長していた。
  2. 運動学
    RA群において、体幹傾斜角(3° 対 2°, p=0.01)や体幹外側動揺(5° 対 3°, p<0.001)が有意に高かった。股ROM(股関節最大屈曲から最大伸展、38° 対 44°, p<0.001)、初期遊脚(3° 対 7°, p<0.001)、膝ROM(膝関節最大屈曲から最大伸展、49° 対 57°, p<0.001)、遊脚前の足底屈(4° 対 14°, p<0.001)はRA群が有意に低下していた。
  3. 動力学
    モーメント:
    矢状面において、健常者と比較しRA群は、loading responseにおける股伸筋力の減少(0.65Nm/kg 対 0.95Nm/kg, p<0.001)および立脚後期での股屈筋力の減少(0.73Nm/kg 対 0.93Nm/kg, p=0.003)がみられた。前額面において、立脚中期での股外転筋力(0.69Nm/kg 対 0.81Nm/kg, p<0.001)は有意に低下していた。
    膝では、RA群はloading responseにおける伸筋モーメント(0.42Nm/kg 対 0.53Nm/kg, p=0.003)や立脚最終期での屈筋モーメント(0.32Nm/kg 対 0.45Nm/kg, p<0.001)が低下していた。前額面では、膝外反モーメント(0.34Nm/kg 対 0.51Nm/kg, p<0.001)は有意に減少した。遊脚直前における足底屈筋モーメント(1.05Nm/kg 対 1.49Nm/kg, p<0.001)が低下していた。
    仕事量:
    RA群における股関節(0.13J/kg 対 0.2J/kg, p<0.001)や足関節(0.14J/kg 対 0.29J/kg, p<0.001)の仕事量は、膝(0.15J/kg 対 0.23J/kg, p<0.001)や足関節(0.1J/kg 対 0.13J/kg, p<0.001)での後方向の仕事量と同様に有意に低下していた。
  4. HAQスコアと歩行パラメーター
    HAQと股屈伸ROM、最高股外転、そして膝屈伸ROMとの間に弱い相関がみられた。また、股外転筋モーメント、ストライド長、ステップ長、片脚支持期(時間)は、HAQと有意に相関していた。

考察

今回の結果は、RA群が健常者に比較して下肢の運動学的および動力学的歩行パラメーターが低下していることや、機能障害のレベルが歩行パラメーターと弱い関係があることを示した。
制限されたROMは関節モーメントを減少させ、関節荷重の低減により関節痛を軽減していることや、慢性疼痛は下肢関節の運動を低下させて疼痛を緩和していると考えられる。また、膝の外側への内反モーメントの減少は、RA群にみられる内側への外反膝モーメントの減少として検出することができ、外側コンパートメントの関節軟骨の相対的な大きな欠損が一因であると考えられる。仕事量におけるRA患者と健常者とのもっとも明白な相違は、遊脚直前の減少した内側への底屈筋モーメントの結果としてみられ、低下した歩行速度、疼痛、底屈筋群における筋力低下のためと考えられる。HAQスコアは、RA群におけるいくつかの歩行パラメーターと有意に関連していたが、全ての関連性は残念ながら低かった。しかし、疼痛スコアはHAQスコアの変化に対する強力な弁明の変数であるので、我々はHAQと歩行パラメーターとの強い関係を予想した。

【解説】

これまでもRA患者の歩行に関する報告がみられる[1.-3.]。本研究は歩行分析を行い歩行パラメーターの定量化とともに、HAQスコアと歩行の運動学および動力学的パラメーターとの関連を調査している。歩行パラメーターである歩行速度、ストライド長、ステップ長、ケイデンスがRA患者において有意に低下し、両脚支持時間が有意に延長していた結果は先行研究と一致している。また運動学および動力学的パラメーターの測定結果から、体幹の不安定性や下肢関節の運動の低下、歩行周期における各関節のモーメントや仕事量の低下が示されたことにより、詳細な歩行分析の報告となっている。今後、RA患者の歩容の改善や歩行障害への予防を検討する際に役立つ。

【文献】

  1. Laroche D, Pozzo T, Ornetti P, Tavemier C, Maillefert JF. Effects of loss metatarsophalangeal joint mobility on gait in rheumatoid arthritis patients. Rheumatologu(Oxford) 2006;45(4):435-440.
  2. Eurenius E, Stenstrom CH. Physical activity, physical fitness, and general health perception among individual with rheumatoid arthritis. Arthritis Rheum 2005; 53(1):48-55.
  3. O'Connell PG, Lohmann Siegel K, Kepple TM, Stanhope SJ, Gerber LH. Forefoot deformity, pain, and mobility in rheumatoid and non-arthritic subjects. J Rheumatol 1998;25(9):1681-1686.

2011年04月01日掲載

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