外傷性脊髄損傷者のリハビリテーション期間中の発熱:トルコの国立リハビリテーション病院における392例の分析

Fever During Rehabilitation in Patients With Traumatic Spinal Cord Injury: Analysis of 392 Cases From a National Rehabilitation Hospital in Turkey Sibel Unsal-Delialioglu, MD, Kurtulus Kaya, MD, Sule Sahin-Onat, MD, Fazil Kulakli, MD, Canan Culha, MD, and Sumru Ozel, MD:Fever during rehabilitation in patients with traumatic spinal cord injury: analysis of 392 cases from a national rehabilitation hospital in Turkey. J Spinal Cord Med 2010;33(3):243-248.

PubMed PMID:20737797

  • No.1108-1
  • 執筆担当:
    甲南女子大学
    看護リハビリテーション学部
    理学療法学科
  • 掲載:2011年8月1日

【論文の概要】

背景

脊髄損傷後の合併症では発熱の頻度が高く、その原因として感染症、血栓塞栓症、異所性骨化、体温調節障害などが報告されている。この原因を究明することは発熱の予防にもつながり、リハビリテーションを円滑に進めるために重要である[1.-4.]。

目的

リハビリテーション期間における成人の外傷性脊髄損傷者における発熱の発生率と危険因子、およびその原因を解明することを目的とした。研究デザインとしては、入院治療を実施した外傷性脊髄損傷者392例を回顧的に調査した。

方法

2000年から2005年の間に、トルコ国立リハビリテーションセンターである250床を有するthe Ankara Physical Medicine and Rehabilitation Training and Research Hospitalに入院した外傷性脊髄損傷者392例について回顧的に調査した。
体温は、36℃から37.5℃を正常として、37.5℃以上を発熱とした。また、24時間に4回の計測を行うが、このうち複数回で37.5℃以上が計測されたときを発熱とした。同病院の発熱時のリハビリテーションプログラムは関節可動域運動で、37.5℃以下になれば通常のプログラムを実施する。

対象

脊髄損傷者392例の年齢は36.54歳±13.78歳、男性297名(75.8%)、女性95名(24.2%)であった。胸髄損傷236名(60.2%)、頸髄損傷80名(20.4%)、腰髄損傷76名(19.4%)で、ASIA Aの完全損傷は205名(52.3%)、ASIA B~Eの不完全損傷は187名(47.7%)であった。なお、完全損傷は胸髄損傷で有意に高かった。

結果

発熱の原因は尿路感染70.6%、上部呼吸器感染14.3%、肺炎2.9%、創傷感染2.9%などである。発熱期間は、3.51日±1.14日、リハビリテーション中止期間は3.25日±1.48日であった。187名の発熱者のうち、ASIA Aの完全損傷者は116名(62%)で、ASIA B~Eの不完全損傷者は71名(38%)で有意差が認められた。損傷レベルでは、胸髄損傷者236名中126(67.4%)、頸髄損傷者80名中39名(20.9%)、腰髄損傷者76名中22名(11.8%)で有意差が認められた。発熱者の排尿方法では、留置カテーテル123名(65.8%)、間欠的無菌自己導尿47名(25.1%)、間欠的無菌導尿17名(9.1%)であり、導尿方法の違いに有意差が認められた。

考察

リハビリテーション施行中の脊髄損傷者で発熱の発生は47.7%であり、最も多い原因は尿路感染症であった。先行研究でも60%~85%の発生が報告されており、発熱はリハビリテーション期間を延長させる原因ともなる[1.4.5.]。
脊髄損傷者の発熱原因の多くは、尿路感染症と呼吸器感染症である。加えて、留置カテーテルが尿路感染症のリスクを高めることは先行研究でも報告されている[6.-8.]。発熱予防の一方法として、尿路感染症の原因を排除するために、間欠的無菌導尿の導入が推奨される。呼吸器感染症は2番目の問題であり、今回は頸髄損傷者と胸髄損傷者のほとんどに呼吸器感染症を見ている。死亡原因の第1位である肺合併症を予防するために、特に頸髄損傷者と上部胸髄損傷者では肺理学療法が重要である[9.10.]。
その他の発熱原因では、第3位が創傷、第4位が膿瘍である。本研究では胸髄損傷に完全麻痺が多く発生しており、不完全損傷に比べて入院期間も有意に長期であった。胸髄損傷で発熱が有意に多かった理由として、胸髄損傷には頸髄損傷・腰髄損傷と比べて完全損傷が多いことが考えられる。
入院早期より発熱因子を排除していくことは、リハビリテーション効果を高め、入院期間の長期化を防ぐ要因になり、入院費の抑制にも効果がある。

【解説】

脊髄損傷者では発熱症状を呈することが臨床的にもよく観察されるが、本研究ではトルコ国における完全損傷者に発熱が多い原因について検討されている。発熱の要因には、完全損傷、胸髄損傷、留置カテーテルがあげられており、これらの重複がリスクを高めるとしている。上部胸髄損傷で発熱が多く見られた原因として完全損傷をあげているが、本論文には自律神経との関連が記載されていないことに物足りなさがあった。しかし、発熱は入院期間を長期化し、社会参加を遅らせる要因となるので、そのリスク因子を排除するように努めることが医療スタッフに求められることを再認識した。

【参考文献】

  1. McKinley W, McNamee S, Meade M, Kandra K, Abdul N. Incidence, etiology, and risk factors for fever following acute spinal cord injury. J Spinal Cord Med. 2006;29(5):501窶錀506.
  2. Montgomerie JZ. Infections in patients with spinal cord injuries. Clin Infect Dis. 1997;25(6):1285窶錀1290.
  3. Beraldo PS, Neves EG, Alves CM, Khan P, Cirilo AC, Alencar MR. Pyrexia in hospitalised spinal cord injury patients. Paraplegia. 1993;31(3):186窶錀191.
  4. Sugarman B, Brown D, Musher D. Fever and infection in spinal cord injury patients. JAMA. 1982;248(1):66窶錀70.
  5. Colachis SC, 3rd, Otis SM. Occurrence of fever associated with thermoregulatory dysfunction after acute traumatic spinal cord injury. Am J Phys Med Rehabil. 1995;74(2):114窶錀119.
  6. Siroky MB. Pathogenesis of bacteriuria and infection in the spinal cord injured patient. Am J Med. 2002;113(suppl 1A):S67窶鉄79.
  7. National Institute on Disability and Rehabilitation Research (NIDRR) Consensus Statement. The prevention and management of urinary tract infections among people with spinal cord injuries. J Am Paraplegia Soc. 1992;15(3):194窶錀207.
  8. Cardenas DD, Hooton TM. Urinary tract infection in persons with spinal cord injury. Arch Phys Med Rehabil. 1995;76(3):272窶錀280.
  9. McKinley W, Gittler M, Kirshblum S, Stiens S, Groah S. Medical complications after SCI. Arch Phys Med Rehabil. 2002;83(suppl 1):S58窶鉄64.
  10. DeVivo MJ, Kartus PL, Stover SL, Rutt RD, Fine PR. Cause of death for patients with spinal cord injuries. Arch Intern Med. 1989;149(8):1761窶錀1766.

2011年08月01日掲載

PAGETOP