膝蓋大腿疼痛症候群(PFPS)の女性に対する股関節外転・外旋筋力増強の短期効果:無作為化臨床比較試験

Fukuda TY, Rossetto FM, Magalhaes E, Bryk FF, Lucareli PR, de Almeida Aparecida Carvalho N. : Short-term effects of hip abductors and lateral rotators strengthening in females with patellofemoral pain syndrome: a randomized Controlled clinical trial. J Orthop Sports Phys Ther. 2010 Nov;40(11):736-42.

PubMed PMID:21041965

  • No.1110-1
  • 執筆担当:
    県立広島大学
    保健福祉学部
    理学療法学科
  • 掲載:2011年10月1日

【論文の概要】

背景

PFPSの原因は膝蓋骨のトラッキング不足による膝蓋大腿関節に生じる過度な圧力と考えられている。そのため、多くの介入は膝蓋骨のアライメントと運動の補正を目的としており、具体的には大腿四頭筋、特に内側広筋の筋力増強、ハムストリングや腸脛靭帯のストレッチング、テーピング、足部回内誘導を目的とした足部装具などが実施されている。

最新の知見では矢上面および前額面における大腿骨の過度な動きにより股関節の異常な運動が起こり、膝蓋大腿関節に影響が及ぶことが発見され、さらに先行研究によるとPFPSの患者では荷重位において大腿骨の過度な内旋が起こり、膝蓋骨が相対的に外側に変位する事が証明されている。

また、この他にもPFPS患者における股関節外旋筋および外転筋の筋力低下や、股関節の過度な内旋と股関節の内旋が膝関節の過度な外反アライメントを誘発する事などが報告されている。これらのPFPSのメカニズムが理解されたことから、股関節筋の筋力増強が下肢のアライメントの改善や膝蓋骨のトラッキングの改善、膝蓋大腿関節における圧の軽減につながり、最終的にはPFPS患者の疼痛軽減や機能改善に有効であると報告されている。しかしながら、これらの筋の強化が、活動度の低いPFPS女性の疼痛軽減や機能改善に関連するのかについては明らかにされていない。そこで本研究では膝関節周囲筋の筋力増強に股関節外旋・外転筋群の筋力増強を追加したトレーニングの有効性について、膝関節のみの運動群や介入を行わなかった場合と比較し検討することとした。

目的

PFPS女性の疼痛と機能に、股関節外転筋と外旋筋の強化がどのような影響を及ぼすか調査すること。

対象

PFPSの診断を受けた70名の女性を対象とし、膝関節周囲筋の筋力増強およびストレッチを行う群22名(以下、KE群)、前述の膝関節の運動に加え股関節の外転および外旋の筋力増強を行う群23名(以下、KHE群)、コントロール群25名(以下、CO群)の3群に振り分けた。また、本研究における活動度の低い(Sedentary)女性の定義として、少なくとも過去6カ月にわたり、有酸素運動や筋力増強運動を行っていない者とした。

方法

介入:
週3回のトレーニングを4週間継続して実施した(計12日)。

<膝関節の理学療法プログラム-KE群>
  • ストレッチング(ハムストリングス、足関節底屈筋、大腿四頭筋、腸腰筋)3回×30秒
  • 無負荷での腸腰筋の筋力増強 3回×10セット
  • 1RMの70%の負荷にて短座位による膝関節伸展(90度屈曲位~45度屈曲位)3回×10セット
  • 1RMの70%の負荷にてレッグプレス(0度~45度屈曲位)3回×10セット
  • 1RMの70%の負荷にてスクワット(0度~45度屈曲位)3回×10セット

<股関節の理学療法プログラム-KHE群>
KE群と同様のプログラム
立位にてセラバンドを用いた股関節外転運動 3回×10セット(10RM程度のバンド)
1RMの70%の負荷にて側臥位での股関節外転運動 3回×10セット
座位にてセラバンドを用いた股関節外旋運動 3回×10セット(10RM程度のバンド)
セラバンドに抗したサイドステッピング 3回×1分間

アウトカム:
以下のアウトカムを用いて介入前および4週間経過後の評価を行った。
  • 11 points NPRS ( Numerical pain rating scale) 昇段・降段時の疼痛評価
  • LEFS (Lower extremity functional scale)
  • AKPS (Anterior knee pain scale)
  • 片脚跳躍テスト

解析:
ベースラインとして年齢、体重、身長、疼痛スコアにおける群間比較は一元配置分散分析を実施した。
AKPSとLEFS、片足跳躍テスト、NPRSは3×2(3群×2期)の二元配置の分散分析を実施した。

結果

3群の年齢、体重および介入前の測定項目に有意差はなかった。介入前と比較し介入後において、KE群とKHE群の双方においてAKPSとLEFS、片脚跳躍テストにおいて有意な改善が見られた。介入4週後においてCO群と比較し、KE群とKHE群におけるAKPSとLEFS、片脚跳躍テストにおいて有意な差が認められた。しかし、KE群-KHE群間に有意差は認められなかった。また、昇段時のNRPSについて、4週後での群間比較ではCO群と比較しKE群およびKHE群に疼痛の軽減が認められた。また、降段時のNRPSではCO群およびKE群と比較しKHE群においてNRPSが低値を示した。

考察

KEおよびKHEによるリハビリテーションプログラムは活動度の低いPFPS女性の疼痛軽減と機能改善に有効と考えられた。疼痛と機能の改善に関して股関節の強化を実施した群ではより効果が高かったが、有意な改善を示した項目は降段動作時の疼痛スコアのみであった。股関節と膝関節を組み合わせたトレーニングでより疼痛軽減効果が高い理由として、抗重力活動時の下肢アライメントが維持されるためと考えられた。

【解説】

PFPS(Patellofemoral Pain Syndrome)はAKPS(Anterior Knee Pain Syndrome)と同義とされ、前者は膝蓋大腿(疼痛)症候群や膝蓋大腿関節症、後者は膝前部疼痛症候群と呼ばれる。特徴として若年期から青年期のアスリートに多くみられ、不整地歩行、坂道や階段昇降、同一肢位の長時間保持後、スポーツ活動後に症状の悪化を認める。
本文ではPFPSにつながる要因として股関節の外旋および外転筋群に焦点を当てているが、これ以外にも内側広筋をはじめとする大腿四頭筋の筋力低下、腸脛靭帯の短縮、ハムストリングスの短縮、股関節内転・外転・外旋筋群の筋力低下、腓腹筋の短縮など様々な原因が報告されており、原因と介入方法について統一された見解はない。
これらの原因として実際の臨床場面においてはこれらの要因が複雑に交絡している事が予測される。本研究においてもKE群とKHE群の双方にハムストリングス、足関節底屈筋、大腿四頭筋、腸腰筋のストレッチングなどを同時に実施し、両群に疼痛軽減や機能の改善が認められていることから単一関節のみでなく運動連鎖を考慮に入れた包括的なアプローチの重要性が伺える。また、運動療法以外の介入として、膝蓋骨の内側誘導テーピングや膝装具、アーチサポートなどの足部装具、アイシングなどの物理療法、消炎鎮痛剤、電気刺激、筋電図バイオフィードバック療法などの有効性や各種療法の併用効果が報告されているものの、エビデンスレベルが低いものもあり更なる検討が必要である。

【参考文献】

  1. Gregory RW, Ann YM: Patellofemoral pain syndrome (PFPS): a systematic review of anatomy and potential risk factors. Dyn Med 2008; 7: 1-14 (open access).
  2. Rodorig DMB, Theresa HN, Thiago BM, Cesar FA, Carlos DM, Fabio VS: Eccentric hip muscle function in females with and without patellofemoral pain syndrome. J Athl Train 2009; 44: 490-496.
  3. Lori AB, Michelle C: An update for the conservative management of patellofemoral pain syndrome: a systematic review of the literature from 2000 to 2010. Int J Sports Phys Ther 2011; 6:112-125.
  4. Naoko A, Phillip AG: Patellar taping, patellofemoral pain syndrome, lower extremity kinematics, and dynamic postural control. J Athl Train 2008; 43: 21-28.
  5. Gross MT, Foxworth JL: The role of foot orthoses as an intervention for patellofemoral pain. J Orthop Sports Phys Ther 2003; 33: 661-670.
  6. Watoson CJ, Propps M, Ratner J, Zeigler DL, Horton P, Smith SS: Reliability and responsiveness of the lower extremity functional scale and the anterior knee pain scale in patients with anterior knee pain. J orthop Sports Phys Ther 2005; 35: 136-148.

2011年10月01日掲載

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