脳卒中患者における運動療法の時間増加による効果:メタ分析

Kwakkel G, van Peppen R, Wagenaar RC, Wood Dauphinee S, Richards C, Ashburn A, Miller K, Lincoln N, Partridge C, Wellwood I, Langhorne P. : Effects of augmented exercise therapy time after stroke: a meta-analysis. Stroke. 2004 Nov;35(11):2529-39.

PubMed PMID:15472114

  • No.1111-2
  • 執筆担当:
    県立広島大学
    保健福祉学部
    理学療法学科
  • 掲載:2011年11月1日

【論文の概要】

背景

脳卒中は,成人における身体障害の主な原因であり,治療により機能改善を図ることで患者自身やその家族の経済的負担や苦しみを軽減することができる。このことから,脳卒中医療におけるリハビリテーションは,重要な礎石として認識されている。

システマティックレビューにより,脳卒中患者への集中的なリハビリテーションは,身体機能の向上と短期間での改善が見込まれることが報告されている。また,ADL(activities of daily living)に焦点をあてたアプローチに効果があることや,リハビリテーションの治療時間の違いから改善効果に差がでることが確認されている。しかし,これらのレビューは,分析方法の違いや,不均一な母集団が交絡因子として影響していたことが明らかとなっている。一方で,セラピストにより運動療法の時間を増やす効果について検証がなされ,ADLへの有益な効果があることが報告されている。この運動療法の時間を増やす効果について,見解が一致しない原因は(1)研究手法の問題,(2)患者の選択方法,(3)コントロール群と実験群との運動療法の強度,(4)脳卒中のタイプや介入のタイミング,焦点をあてるポイントの相違,(5)効果判定に用いる評価指標の違い,(6)統計学的検出力の問題,などが考えられる。とくに,運動療法の強度については多くの見解があり,必要最低限の量がどの程度なのかは不明のままである。

目的

本研究の目的は,脳卒中患者への運動療法の時間を増やす(augmented exercise therapy time : AETT)ことで,歩行やADL,IADL(instrumental activity of daily living)などにどのような効果を及ぼすかを検証することである。

研究デザイン:メタ解析,システマティックレビュー

方法

1966年~2003年の間に出版された論文を, MEDLINE,CINAHL,CCTR,PEDro,DARE,およびPiCartaらのデータベースにて検索した。キーワードは,脳卒中,脳血管障害,理学療法,作業療法,運動療法,リハビリテーション,強度,治療効果判定,効果,および無作為化比較試験(randomized controlled trial : RCT)とした。また,総説や学会抄録,参考文献についても調べた。さらに,論文の選択要件を(1)脳卒中患者,(2)運動療法の強度の効果を検討(3)歩行速度,ADL,IADLにて効果を判定,(4)RCT,を満たすものとした。一般的に用いられている歩行速度やADL,IADLなどの評価結果から,効果量(ES),要約効果量(SES)標準偏差単位(SDU)を推定した。また,運動療法の時間を増やすことの効果を評価するために,運動療法の時間の差で調整した累積メタアナリシス(ランダム効果モデル)にて検討した。なお,特別な機器やトレッドミル,バイオフィードバック,およびロボットなどを用いた運動療法は対象から除外した。

結果

データベースにてキーワード検索を行った結果,7483本の論文が得られた。そのうち,全文を確認することができた507本の論文のなかから,選択の要件を満たした20本の論文が選択された。14論文では,運動療法の時間を増やすことで改善効果があるとしていた。6論文では,運動療法の時間を増やすことによる有益な効果は認められなかった。

対象となる脳卒中患者は2686人であり,治療開始時期は発症後1週から1年未満であった。3論文では,脳卒中発症から6ヶ月後に研究が開始されたのに対し,17論文は,脳卒中発症から6ヶ月以内に実施されていた。一日あたりの運動療法の時間は,コントロール群では21.1分(±18.0)~7.0分(±16.8)であり,そのうち理学療法は44.5分(±30.8),作業療法は13.9分(±23.6)であった。運動療法増加群の追加された治療時間は132~6816分であり,患者1人あたり平均959分/日(約16時間)であった。

累積メタアナリシスにより,運動療法の時間は少なくとも16時間増やすことで,ADLは4縲鰀5%改善していた。また,自宅生活や余暇活動などを含むIADLにおいても5%の改善効果が示された。

運動療法の効果判定の指標としてADLを用いた研究を分析すると,15論文(n=2686)でBI(barthel index)が用いられ,1論文でFIM-m(functional independence measure motor)が,4論文ではその他の評価法が用いられていた。運動療法の時間を増やすことで,わずかながらもADLに有益な効果があることが示されたが,IADLを評価した9論文(n=1570)でも,ほぼ同程度の改善効果が確認された。また,脳卒中発症から6カ月以内に運動療法の時間を増やすことで有意な改善効果を認めた。20論文の結果より,治療時間は長いほど改善傾向を示し,その治療時間は15時間以上であった。

20論文(n=524)から,運動療法の増加による歩行速度への効果を,また別の5論文(n=420)から上肢機能への改善効果を検証した。その結果,運動療法を増やすことにより歩行速度や上肢機能の改善効果は認められなかった。

考察

脳卒中発症から6ヵ月以内の患者の,運動療法を増やすことにより,わずかながらもADLが4~5%改善することが明らかとなった。具体的には,効果があると確認された指標はBIであり,5%とは1点程度の改善効果である。また,改善効果を確認することが可能な運動療法の追加時間は16時間であり,運動療法時間を増やすことで自宅生活や余暇活動を含むIADLにおいても5%の改善効果が示された。

結論

脳卒中発症から6ヶ月以内の時期に,少なくとも16時間の運動療法を追加することで,少ないながらもADLやIADLは改善することが確認された。

【解説】

運動療法の時間を増やすことで,ADLやIADLは改善することが確認された。本研究の注目すべき点は,特別な機器を用いたり新しい手技を用いたりするのではなく,一般的な運動療法に取り組む時間を長くすることで効果を見いだした点である。しかし,効果を確認できるとした運動療法の時間は,従来の運動療法に取り組む時間に加え,さらに16時間ほど増やす必要があるとしている。実際の臨床場面にあてはめてみると,患者の許容する時間[1.]やセラピストの人数には限界があることから,これだけの運動療法の時間を確保することは困難と考えられる。治療時間を増やす工夫として,限られた治療資源を有効に利用するために,患者を能力別にグループ化し,セラピストの監督の下で同時に複数の運動療法を行うサーキットトレーニングの取り組みが行われている[2. 3.]。また,本研究では検討がなされていないが,自主練習の効果も含めて検討する必要があるだろう。
今回,ADL評価に用いられた指標はBarthel Indexであり,この評価法は下肢機能を反映しやすい指標とされている[4.]。一般的に,回復期の脳卒中患者は上肢機能よりも下肢機能の改善率が良好である[5.]。これらのことから,検証方法についても検討の余地が残されている。今後は,慢性期の患者を対象にした検討や,上肢機能に焦点をあてた検討,効果の持続時間,運動療法の詳細な内容,経済的効果,などの検討が望まれる。

【参考文献】

  1. Wade D. Rehabilitation research窶杯ime for a change of focus. Lancet Neurol. 2002; 1: 209.
  2. Duncan P, Studenski S, Richards L, Gollub S, Lai SM, Reker D, Perera S, Yates J, Koch V, Rigler S, Johnson D. Randomized clinical trial of therapeutic exercise in subacute stroke. Stroke. 2003; 34: 2173窶錀2180.
  3. Dean C, Richards C, Malouin F. Task related circuit training improves performance of locomotor tasks in chronic stroke: a randomized controlled pilot trial. Arch Phys Med Rehabil. 2000; 81: 409窶錀417.
  4. Kwakkel G, Wagenaar R, Twisk J, Lankhorst G, Koetsier J. Intensity of leg and arm training after primary middle-cerebral-artery stroke: a randomised trial. Lancet. 1999; 354: 191窶錀196.
  5. Kwakkel G, Kollen B, van der Grond J, Prevo A. Probability of regaining dexterity in the flaccid upper limb. Stroke. 2003; 34: 2181窶錀2186.

2011年11月01日掲載

PAGETOP