遠心性運動後の筋損傷に由来する諸症状に振動療法が与える効果について

Lau WY, Nosaka K.: Effect of vibration treatment on symptoms associated with eccentric exercise-induced muscle damage. Am J Phys Med Rehabil. 2011 Aug;90(8):648-57.

PubMed PMID:21273897

  • No.1201-1
  • 執筆担当:
    県立広島大学
    保健福祉学部
    理学療法学科
  • 掲載:2012年1月4日

【論文の概要】

背景

高強度かつ非習慣的な遠心性運動では筋損傷が発生する。典型的な症状の一つとして遅発性筋痛(DOMS: Delayed-onset muscle soreness)が知られている。動作時や触診時の疼痛がDOMSの主症状であり,筋損傷に由来するその他の症状としては筋の機能障害や浮腫が挙げられ,運動後数日間継続することが知られている。これらの症状は日常生活動作やパフォーマンスを低下させるため,症状を軽減させ,筋損傷の回復を促す介入方法の検討が重要である。

理学療法場面では疼痛軽減を目的とした振動刺激が頻繁に用いられている。50~200Hzの振動刺激を30分~45分程度負荷することにより,急性あるいは慢性的な筋骨格系の疼痛軽減につながることが報告されている。また,DOMSに対する振動刺激の効果も散見される。

目的

そこで,本研究では「遠心性運動後の振動療法は,DOMSや浮腫を減少させ,筋機能の回復を促進する」という仮説のもと検証を行った。

方法

一側上肢をコントロール群,対側上肢を介入群とするランダム化クロスオーバー試験にて実験を実施した。15人の男性を対象とし,両側上肢の肘関節屈筋に対して6回×10セットの最大努力下での遠心性運動を行わせた。なお,左・右それぞれの運動は4週間の間隔をあけた。一側上肢は運動後30分,1日,2日,3日,4日の時点で30分間の振動療法を実施し(治療群),対側上肢には一切介入を行わなかった(コントロール群)。治療側と非治療側,利き手と非利き手の条件は被験者間で調整した。

次に振動負荷方法について,ハンディタイプの振動刺激装置を用いて行い,刺激時間30分,刺激周波数65Hz,振幅1mmとした。刺激部位は胸部,腹部,肩,背部,腋窩,三角筋前部および後部,上腕二頭筋,上腕筋,腕橈骨筋,肘関節,上腕三頭筋とし,上腕部~前腕部は2分間,その他の部位には1分間の振動刺激を加えた。

測定項目は等尺性肘関節屈曲筋力,肘関節可動域(本文中では屈曲角度と伸展角度の差から運動範囲を求めている),上腕周径,VASによる疼痛評価,圧痛閾値,血清クレアチンキナーゼ活性(以下CK値)とし,運動前,運動直後,運動1時間後,1日~7日後に測定を実施した。なお,これらの測定に加え,治療群では1日目~4日目の振動負荷直後にも測定を実施した。両上肢間における各測定項目は二元配置分散分析(反復測定)により比較した。

結果

コントロール群と比較し,治療群ではDOMSの進行が少なく,運動後2日~5日の時点で早期に減少した(VASによる運動時および触診時の疼痛の結果)。また,関節可動域も治療群で早期に改善が認められた。しかし,各群間における筋力や上腕周径,圧痛閾値,CK値について有意差は認められなかった。なお,振動療法直後では,DOMSの程度および筋力が減少し,圧痛閾値の上昇と関節可動域の拡大が確認された。

考察

本研究により,振動療法は[1.]筋痛を18~30%減じ,DOMSを早期に消失させ,[2.]ROMの回復を促し,[3.]振動療法直後では強い鎮痛作用を持つことが確認された。これらの結果は遠心性運動後の諸症状に対する振動療法の有効性を部分的に支持するものと考えられる。また,筋力や浮腫,CK値には影響が見られなかったが,先行研究によりDOMSとこれらの指標には関連性が無いことが報告されており,類似した結果となっている。

本研究結果からは振動刺激がどのようにしてDOMSの軽減に作用するかについて言及することはできない。しかし,先行研究により振動刺激が筋内の求心性感覚情報(Ⅰa,Ⅰb,Ⅱ線維)に作用し筋からの感覚入力を変化させ,また,Ⅲ,Ⅳ線維に関連する痛覚情報に影響を及ぼす可能性が報告されている。この他に,振動刺激が脊髄後角ニューロンの興奮性に作用し,疼痛閾値の上昇と疼痛軽減をもたらす可能性が報告されている。また,振動刺激はリンパや血液環流に影響を及ぼすことが報告されており,発痛物質の除去や浮腫の改善に有効とされている。

結論

運動後の振動療法が遠心性運動後のDOMSや関節可動域の回復に効果を示すことが確認された。その一方で,振動刺激が浮腫や筋力の回復,CK値には影響を及ぼさないことが確認された。

【解説】

振動刺激をはじめとする物理療法機器を用いた実験ではプラセボ群の設定が困難であり,心理学的な効果を除外しきれていない。しかし,被験者間で治療群とコントロール群の実験順を調整し,期待される振動刺激の治療効果について何も説明を行わず実験を実施しており,心理学的な影響は少ないと著者は述べている。また,筋ごとに運動時および触診時の疼痛を調査している点,時間経過とともにその差が顕著となっている点,疼痛の指標と関節可動域の結果が類似している点などから,振動刺激がDOMSに対して一定の効果を示しているものと考える。
振動刺激には主に全身振動刺激(WBV: Whole Body Vibration)と局所振動刺激(LBV: Local Body Vibration)が用いられており,本研究は後者(LBV)を対象とした実験である。LBVに関する研究では筋の「抑制効果」と「促通効果」について相反する報告が行われており,これらは刺激周波数,振幅,振動方向,刺激時間,刺激部位などさまざまな刺激条件が影響するものと考えられる。一般的に低周波・高振幅の振動刺激では筋の抑制がおこり,高周波刺激(100Hz程度)では筋収縮(緊張性振動反射:TVR-Tonic Vibration Reflex)が誘発される。そのため,目的に応じた振動負荷方法を検討する必要がある。
DOMSに対するその他の介入方法として寒冷療法,ストレッチ,抗炎症薬,サプリメント,超音波,電気刺激,ホメオパシー,マッサージ,圧迫,高酸素療法などに関する調査が行われている。しかし,DOMSに対する介入効果や筋損傷の関連症状に対する介入効果について一致した見解はなく,また有効性を報告した研究は少ないため,今後更なる研究が求められる。

【参考文献】

  1. Cheung K, Hume P, Maxwell L: Delayed onset muscle soreness: treatment strategies and performance factors. Sports Med. 2003; 33(2): 145-64.
  2. Connolly DA, Sayers SP, McHugh MP: Treatment and prevention of delayed onset muscle soreness. J Strength Cond Res. 2003 Feb; 17(1): 197-208.
  3. Howatson G, van Someren KA: The prevention and treatment of exercise-induced muscle damage.Sports Med. 2008; 38(6):483-503.
  4. De Gail P, Lance JW, Neilson PD: Differential effects on tonic and phasic reflex mechanisms produced by vibration of muscles in man.J Neurol Neurosurg Psychiatry. 1966; 29(1):1-11.
  5. Bongiovanni LG, Hagbarth KE: Tonic vibration reflexes elicited during fatigue from maximal voluntary contractions in man. J Physiol. 1990; 423:1-14.

2012年01月04日掲載

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