脳卒中患者の歩行能力改善を目的としたサーキットトレーニング:システマティックレビュー

English C, Hillier S.: Circuit class therapy for improving mobility after stroke: a systematic review. J Rehabil Med. 2011 Jun;43(7):565-71.

PubMed PMID:21584485

  • No.1202-1
  • 執筆担当:
    県立広島大学
    保健福祉学部
    理学療法学科
  • 掲載:2012年2月1日

【論文の概要】

背景

脳卒中は、多くの国で死亡や障害のおもな原因となっている。脳卒中患者の生活を支えるシステムは、国によって異なるものの、介護に要する費用が高額なのは共通している。したがって、科学的根拠(EBM)に基づく治療ならびに費用対効果の高い治療が提供されることが望まれる。サーキットトレーニングの利点は、複数の人数のグループで実施することから、セラピストの人数が少なくても実施可能なところにある。また、プログラムの内容は患者の能力に応じて変更することが可能であることから、入院患者や通院患者も適応となる。

目的

脳卒中患者の歩行能力向上を目的としたサーキットトレーニングの効果を検証すること。

方法

システマティックレビューは、脳卒中患者の歩行能力に着目したRCTまたは準RCT研究を、コクラン共同計画のガイドラインに準じて調査した。文献検索は、すべてのデータベース(MEDLINE、Embase、CINAHL、PEDroなど)にて行った。その際、学会抄録や症例報告も検索の対象に含めた。選択された論文は、コクランハンドブックに記載された「システマティックレビューのためのガイドライン」に従いバイアスの見直しを行った。評価項目は、臨床で一般的に用いられている歩行能力、立位バランス、下肢機能(筋力や関節可動域)、ADL、健康関連QOL、患者満足度を調査した。さらに、有害事象や入院期間も評価した。

結果

候補に挙がった953件の論文から、 最終的に選択されたのは6件の論文であった。これらの論文は、2000~2009年の間にオーストラリア、ニュージーランド、カナダにて報告されている。対象者は、292名(12~68名)であった。介入の頻度と介入時間は、2時間/日、5日/週、を4週にわたって行われた。
評価項目 症例数 コントロール群-介入群 95%信頼区間 p値
6分間歩行テスト 157 76.57m 38.44-114.70 p<0.0001
歩行速度 130 0.12m/s 0.00-0.24 0.04
踏台昇降テスト 39 3.00step 0.08-5.91 0.04
ABC Scale(バランス) 103 7.76 point 0.66-14.87 0.03
入院期間 96 -19.73 days -35.43- -4.04 0.01
コントロール群とサーキットトレーニング介入群を比較した結果、6分間歩行テストにおいて有意な改善(コントロール群と介入群の差76.57m, p<0.0001)が確認された。また、歩行速度(0.12m/s、p=0.04)、踏台昇降テスト(3.00step, p=0.04)、ABC Scale(7.76 point、 p=0.03)、入院期間(-19.73 days, p=0.01)においても効果が認められた。

サーキットトレーニング介入の期間中に発生した有害事象を調査した報告は2件ある。どちらの報告とも、サーキットトレーニング群の方がコントロール群よりも転倒数は多かった(①コントロール群2名、サーキットトレーニング群4名、②コントロール群1名、サーキットトレーニング5名)。

患者の満足度は、サーキットトレーニングに取り組んだ時間が多いほど、患者の満足度は有意に高かった。

考察

サーキットトレーニングは、脳卒中患者の歩行能力の改善に有効であることがわかった。また、対象者が入院患者の場合は、在院日数を短縮できる可能性が示された。

6分間歩行テストは、サーキットトレーニングによる有益な効果が確認された。6分間歩行テストの臨床的に意義のあるとされる改善率は、13%を超えなければならないとされている。この13%とは、32.5mから52.5mに改善することに相当する。本研究では77mの改善が確認されたことからサーキットトレーニングは効果があると言えるであろう。歩行速度は、有意な効果が確認されたものの、その変化量は0.12m/secとわずかであった。脳卒中患者の臨床的に意義のあるといわれる歩行速度の変化量は0.16m/secとされており、歩行速度に効果があったとは言い切れない。バランス能力は、測定誤差(5.05点)を超える効果(7.76点)が確認され、臨床的にも意義のある改善として解釈することができた。

サーキットトレーニングによる入院期間の短縮は、経済的利益を示すものであり大変興味深い結果である。しかし、無作為割り付けではない結果に基づいていることに注意しなければならない。また、入院期間に影響する要因は多く存在し、どの要因と因果関係にあるのかを明らかにすることは困難である。

前向きに有害事象(治療期間中の転倒数)を検討した結果、コントロール群とサーキットトレーニング群との間に有意差は確認されなかったものの、介入期間中に転倒事例があることが確認された。しかし、コントロール群の治療プログラムは座位での上肢治療などであり、サーキットトレーニング介入群と比較するのには注意が必要である。

サーキットトレーニングの内容は、どの報告も非常に類似していた。また、サーキットトレーニングに参加している対象者の特性も類似していた。対象者の多くがベースライン評価時に独歩が可能で、発症から3か月を経過していた(平均1~5年)。また、サーキットトレーニングに参加する患者は、動機が高い患者に限定される可能性がある。

結論

脳卒中後患者を対象としたサーキットトレーニングは、歩行能力が改善することが確認され、入院期間を短縮する可能性が示された。

【解説】

本研究にも紹介されているように、サーキットトレーニングの利点は、スタッフ数が少人数であっても、訓練量を増やすことができるところにある。また、トレーニングの種類を豊富にすることで多様な刺激を入力できることから、神経可塑性の面においても有益であるとされている。365日勤務体制の施設が増加している現状を鑑みると、サーキットトレーニングを選択肢の一つとして検討する必要があるかもしれない。しかしながら、通常の理学療法と同様に転倒を含めたリスク管理が必要であり、注意が必要である。
本研究は、2010年7号のコクランライブラリの報告に基づいて実施されている。しかし、今回のレビューは著者の意見であり、必ずしもコクラン共同計画によって支持された報告ではない。また、サーキットトレーニングは、脳卒中発症早期からの介入効果や費用対効果、持続効果など、十分に明らかにされていない部分も多い。今後のさらなる検証が待たれる。
コクランレビューは、定期的に更新されており、レビューの最新版を参照することをお勧めする。また、コクランレビューの結果は、視点や状況に応じて異なる解釈が可能であることから、提示されている結論は慎重に検討する必要がある。

【参考文献】

  1. English CK, Hillier SL, Stiller KR, Warden-Flood A. Circuit class therapy versus individual physiotherapy sessions during inpatient stroke rehabilitation: a controlled trial. Arch Phys Med Rehabil 2007; 88: 955-963.
  2. Blennerhassett J, Dite W. Additional task-related practice improves mobility and upper limb function early after stroke: a randomised controlled trial. Aust J Physiother 2004; 50: 219-224.
  3. Mudge S, Barber PA, Stott NS. Circuit-based rehabilitation improves gait endurance but not usual walking activity in chronic stroke: a randomized controlled trial. Arch Phys Med Rehabil 2009; 90: 1989-1996.
  4. Dean CM, Richards C, Malouin F. Task-related circuit training improves performance of locomotor tasks in chronic stroke. A randomized controlled pilot trial. Arch Phys Med Rehabil 2000; 81: 409-417.
  5. Marigold D, Eng JJ, Dawson AS, Inglis JT, Harris JE, Gylfadottir S. Exercise leads to faster postural reflexes, improved balance and mobility, and fewer falls in older persons with chronic stroke. J Am Geriatr Soc 2005; 53: 416-423.
  6. Pang M, Eng JJ, Dawson AS, McKay HA, Harris JE. A community-based fitness and mobility exercise program for older adults with chronic stroke. A randomized controlled trial. J Am Geriatr Soc 2005; 53: 1667-1674.

2012年02月01日掲載

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