小児慢性腎臓病患者の最大酸素摂取量は減少した

Weaver DJ Jr, Kimball TR, Knilans T, Mays W, Knecht SK, Gerdes YM, Witt S, Glascock BJ, Kartal J, Khoury P, Mitsnefes MM. Decreased maximal aerobic capacity in pediatric chronic kidney disease. J Am Soc Nephrol. 2008 Mar;19(3):624-30.

PubMed PMID:18184856

  • No.1203-1
  • 執筆担当:
    県立広島大学
    保健福祉学部
    理学療法学科
  • 掲載:2012年3月1日

【論文の概要】

背景

成人の末期腎不全や腎移植後の患者は血行動態の異常や体液異常等により心肺機能が低下し、最大酸素摂取量の低下をきたしやすい。小児慢性腎臓病(Chronic kidney disease:CKD)患者では、成人CKD患者に比べると心疾患イベントの発生は稀ではあるが、心機能および形態異常は指摘されている。

目的

小児CKD患者の最大酸素摂取量および心機能を調査し、重症度別に検討した。

対象

CKD stage 2から4の患者(CKD2~4群)46名(13.0±3.7歳)、維持透析患者(維持透析群)12名(14.9±4.0歳)、腎移植後の患者(腎移植群)22名(14.8±4.1歳)、腎機能に問題の無いコントロール群33名(12.9±3.3歳)を対象とした。

方法

全対象者に対し体重、身長、血圧等の測定に加え、血液生化学検査、心臓超音波検査、運動負荷試験を行った。
心臓超音波検査: 安静時の心機能について下記項目を測定した。
左室心筋重量係数(left ventricular mass index: LVM index)
左室肥大(left ventricular hypertrophy: LVH)の有無
左室内径短縮率(fractional shortening:%FS)
左室円周方向線維最大伸展速度(velocity of circumferential fiber shortening: VCF)
左室流入血流速波形による拡張早期波(E波)、心房収縮期波(A波)、速度比(E/A)
僧帽弁輪部速度波形による拡張早期波(E′波)、心房収縮期波(A′波)、速度比(E′/A′)
両拡張早期波の比率(E/E′)
運動負荷試験: Jamesの方法[1.]を参考にリカンベントエルゴメーターを用いて運動負荷試験を行った。心拍数は安静時および運動負荷中1分毎、運動後1、3、5、10、15分毎に測定した。血圧は安静時および運動負荷中2分毎、運動後1、3、5、10、15分毎に測定した。酸素摂取量等は呼気ガス分析装置を用いて測定した。透析群は透析後24時間後に測定した。

結果

対象者の属性の主なものを表1に示す。透析群の平均透析歴は1.2±1.3年、腎移植群の移植からの平均経過年数は3.9±3.4年だった。維持透析群の安静時心拍数はコントロール群、CKD2~4群に比べ有意に高かった(p<0.05)。
 
表1 対象者の属性

コントロール群
( n = 33 )
CKD stage2~4群
( n = 46 )
維持透析群
( n = 12 )
賢移植群
( n = 22 )
年齢(歳) 12.9±3.3 13.0±3.7 14.9±4.0 14.8±4.1
性別(M/F) 24 / 9 33 / 12 6 / 6 11 / 11
体重(kg) 51.4±17.7 47.9±21.3 49.3±18.1 49.1±16.9
身長(m) 1.56±0.18 1.49±0.19 1.49±0.18 1.48±0.16
心拍数(beat/min) 73.2±10.3 75.0±15.7 90.0±19.0c, d 80.0±14.1
ヘモグロビン(g/dL) N / A 12.9±1.4 11.7±1.9 12.1±1.3
mean ± S.D.
C:コントロール群と比較して有意差あり p < 0.05
D:CKD stage2~4群と比較して有意差あり p < 0.05

心臓超音波検査の結果を表2に示す。維持透析群と腎移植群は、CKD stage2~4群に比べ左室心筋重量係数が高かった(p<0.05)。CKD2~4群、維持透析群、腎移植群はコントロール群に比べ、左室円周方向線維最大伸展速度が有意に増加していた(p<0.05)。維持透析群の拡張機能はコントロール群やCKD2~4群に比べ有意に低下していた(p<0.05)。

表2 安静時の心臓超音波調査結果

コントロール群
( n = 33 )
CKD stage2~4群
( n = 46 )
維持透析群
( n = 12 )
賢移植群
( n = 22 )
LVM index 29.1±6.1 33.3±7.5 41.2±13.4c, d 40.5±9.3c, d
LVH, n(%) 0 8 (17) 6 (50) 11 (50)
%FS 35.7±7.0 40.7±4.0 36.9±6.5c, d 40.2±4.8c, d
VCF(circumference / s) 1.05±0.17 1.19±0.27c 1.17±0.24c 1.20±0.19c
E / A 2.1±0.46 1.9±0.5 1.5±0.5c, d 1.8±0.5
E' / A' 2.3±0.6 2.1±0.7 1.6±0.7c, d 1.9±0.6
E / E' 7.0±1.9 7.7±1.7 8.6±2.5c 9.3±2.3c, d
mean ± S.D.
C:コントロール群と比較して有意差あり p < 0.05
D:CKD stage2~4群と比較して有意差あり p < 0.05

運動負荷試験時の最大酸素摂取量は維持透析群が最も低下しており、次いで腎移植群、CKD stage2~4群の順番に低かった。各群ともにコントロール群より有意に低く(p<0.05)、維持透析群、腎移植群はCKD stage2~4群より有意に低下していた(p<0.05)。コントロール群とCKD stage2~4群の比較では、CKD stage3および4の群はコントロール群に比べ最大酸素摂取量が有意に低かった(p<0.05)。最大運動時の心拍数とガス交換比については、各群において有意差は無かった。

考察

CKD stage3~4の小児患者の最大酸素摂取量はコントロール群に比べ有意に低下していた。成人のCKD患者では腎機能の重症化に伴い運動耐容能や心機能は健常者に比べ著しく低下しており、小児期の患者においても同様の結果であった。腎移植群においても移植後1年以上経過していたが、最大酸素摂取量は依然として低い値を示していた。これについては運動との関連性も含めて検討が必要である。

また、心機能については左室収縮能の低下が著しくなくても、左室拡張能の低下が認められることが分かった。左室収縮能単独では小児CKD患者の心機能障害を指摘するには十分ではないため、拡張能の評価も必要であることが示唆された。今後は、小児CKD患者に対し適切な運動療法を実施することによって左室拡張能をはじめとした心機能の改善が図れるのかについて検討を行う必要がある。

【解説】

CKDの概念については、2002年に米国で初めて提唱[2.]された。CKDにより透析療法が必要となる末期腎不全患者が急増し、医療費が増大したこと、心血管疾患の独立したリスクファクターでありその対策が必要となったこと等が背景として挙げられる。小児CKD患者は成人CKD患者と比較して決して多いとは言えないが、腎機能低下に伴う様々な合併症や透析療法などにより患児の身体活動やQOLを大きく損なう可能性がある。
本論文では、小児CKD患者の最大酸素摂取量および心臓超音波検査による心機能について評価し、腎機能の重症度別に検討を行っている。本論文ではヘモグロビン値に有意差は無かったため、最大酸素摂取量の低下に貧血は関連しにくいと考えられる。透析群の最大酸素摂取量および左室拡張能はコントロール群に比べ低下しており、過去の報告と同様である。
心臓超音波検査法による心機能評価については様々な方法および尺度があるが、左室収縮能が正常であっても心不全症状を呈することがあるため、拡張能を評価することが重要である[3.]。小林ら[4.]は小児CKD患者の心機能評価を年齢別で行い、左室収縮能では健常児との有意差が認められなかったが、拡張能の低下は低年齢児から認められたと報告している。
本論文は一施設での限定された対象者であるため結果に偏りがある可能性もあるが、小児CKD患者の運動耐容能や心機能に関する報告は本邦においても少ないため、小児CKD患者の運動療法を実施する上での一助になるものと思われる。

【参考文献】

  1. James FW Kaplan S Glueck CJ:Responses of normal children and young adults to controlled bicycle exercise. Circulation 6 :902 912, 1980.
  2. National kidney foundation:K/DOQI clinical practice guidelines for chronic kidney disease:evaluation、classification、and stratification. Am J Kidney Dis.39(2):l-266、2002.
  3. 赤石誠、伊藤浩、石塚尚子・他:心機能指標と標準的計測法とその解説.超音波医学.33(3):371-381、2006.
  4. 小林とし子、呉智美、松田雅子・他:小児慢性腎臓病における心機能評価の検討-拡張能評価を中心に-.超音波技術.35(3):290-293、2010.

2012年03月01日掲載

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