light touchによる静止立位時の姿勢動揺の減少は、機械的支持によるものではなく触覚フィードバックによるものである

Motoki Kouzaki, Kei Masani. Reduced postural sway during quiet standing by light touch is due to finger tactile feedback but not mechanical support. Exp Brain Res 2008; 188:153-158.

PubMed PMID:18506433

  • No.1207-1
  • 執筆担当:
    県立広島大学
    保健福祉学部
    理学療法学科
  • 掲載:2012年7月1日

【論文の概要】

背景

静止立位時の指尖接触によって姿勢動揺が改善することがよく知られている。止血ターニケットによる虚血は、ヒトの立位や歩行時の感覚入力を部分的にブロックするために一般的に使用された。そこで、止血ターニケットを上腕部に巻くことによっておこる虚血により、指尖からの触覚フィードバックが除去されることが予測され、能動的な接触効果が減弱する。

止血ターニケットによる虚血は指尖触覚フィードバックを遮断するために用いられ、本研究から得られる結果は姿勢安定性の上でlight touch(LT)の効果の神経生理学的理解を促す可能性がある。

目的

本研究の目的は、能動的なLTが指尖接触力の機械的支持にかかわりなく、指尖からのフィードバックによって静止立位時の姿勢動揺が減少するかどうかを検証した。

対象と方法

研究内容を十分に説明されたボランティアの男性7名(28.9±4.5歳)を対象とした。基本的な重心動揺測定、指尖接触位置を除いて神崎らの先行研究と同様とした。被験者には床反力計(Kistler社製9281B、スイス)上で、それぞれ開閉眼の条件、裸足で踵間距離を15cmとした40秒間の静止立位を保持することを要求した。タッチしない(NT)条件では上肢は体側においた。LT条件では、右手指尖を固定装置におき、それ以外はNTと同様の条件とした。NT条件で、被験者は右手をLT条件と類似した位置に保持するように指示された。LT条件ではできるだけ軽く、自然に触れるように指示された。タッチ装置は、高さ調整が可能な金属スタンドで支えられた水平金属プレートの上に、高感度の3軸トランデュ―サー(共和社製LSM-B-10 NSA1、日本)が設置された。タッチ面の高さと位置関係については、先行研究から被験者の指尖の高さと腰高の位置に合わせた。被験者がタッチ装置と接触したかどうかにかかわらず、モニターするためにオシロスコープに記録された。LT時に被験者がタッチ装置に触れていなかったり、1Nを超える力で触れた場合は、再度実施した。

指尖による触覚フィードバックを除去するために、10cm幅のターニケットが右上腕遠位部に巻かれ、200mmHgの止血ターニケットによる虚血が20分適応された。 まず、はじめに被験者は止血ターニケット虚血なしでNT条件とLT条件で静止立位課題を実施し、コントロール条件(CON)とした。そして被験者はリラックスした状態で椅子に座り、右上腕遠位に止血ターニケットで200㎜Hgの強さで止血した。止血してから20分後、被験者は再びNT条件とLT条件で静止立位課題を実施し、止血ターニケットによる虚血(TIS)条件とした。止血ターニケット虚血は、TIS条件中の静止立位期間中にも継続して実施した。本研究では、被験者が触覚を感じるかどうかを確認するために、検査者は5分毎に被験者の指尖を軽く触って確認した。その結果、すべての被験者が15~20分間の止血ターニケットによる虚血の後に指尖の触覚が消失することを確認した。

被験者は①NT-CON-開眼、②NT-CON-閉眼、③LT-CON-開眼、④LT-CON-閉眼、⑤NT-TIS-開眼、⑥NT- TIS-閉眼、⑦LT- TIS-開眼、⑧LT- TIS-閉眼の8条件測定された。各条件ともに3回づつ行われ、十分な休憩も与えられた。試技の順序は、CON条件間、TIS条件間では偽ランダム化によって行われた。

すべての電気信号は16ビット・アナログ‐デジタル変換器(PowerLab/16SP,オーストラリア)を用いてサンプリング周波数100Hzで計測し、PCに保存された。前後方向の足圧力中心(CoP)と左右方向の床反力(GRF)は床反力計の垂直成分と水平成分によって算出された。計測した40秒間のデータのうちの30秒間のデータを比較対象として用いた。そしてCoP、GRF, 指尖接触力はそれぞれ15Hzの低域フィルターで処理した。加えて、CoP動揺の平均周波数は、その特徴を評価していることが明らかとなっている。11ビットの高速フーリエ変換アルゴリズムは、CoP(cm2)のパワースペクトルを得るために、30秒間のデータから2,048ポイント適用した。先行研究では、平均周波数が算出されている。

静止立位動揺を評価するために、我々はCoP(CoP総軌跡長/30秒)の前後方向の平均速度を算出した。なぜなら、この手段はバランス活動制御に関連しており、姿勢制御の評価にとって最も高感度な方法だからである。姿勢動揺に対する指尖による機械的支持の影響を調査するために、我々は左右方向の床反力と指尖力の標準偏差(SD)を算出した。

静止立位時のCoPの平均速度、CoPの平均周波数、左右のGRFのSDは、眼条件(開眼・閉眼)、指尖接触(LT・NT)、体性感覚情報の条件(CON・TIS)の比較には、3要因分散分析(反復計測)が用いられた。交互作用が存在した場合には、TukeyのPost-hoc検定が実施された。LT条件による指尖接触力の比較には、眼条件と体性感覚情報の条件で2要因分散分析(反復計測)が用いられた。αレベルは0.05に設定され、必要に応じてTukeyのPost-hoc検定が実施された。

結果および考察

運動群には、週2回50~60分の運動療法を8週間行った。運動療法の内容は、10~15分間のウォーミングアップ、30分間のサーキットトレーニング、10~15分間のストレッチおよびリラクセーションとした。サーキットトレーニングは、下肢のステップ運動、立位バランス運動、上肢のレジスタンストレーニング、全身運動、下肢のレジスタンストレーニング、有酸素運動の6つの運動を行った。サーキットトレーニング内の各運動は2分間ずつ行い、CoPの平均速度は、CON条件においてのみLT条件がNT条件と比較して有意に減少した。しかしながら、LTの効果はTIS条件では有意差はみられなかった。我々は、LT条件による床反力の水平成分はNT条件と比較して約20%減少したことを明らかにした。そして、それは、CoPの平均速度の減少とほとんど等しかった。指尖の接触力が床反力の水平成分と比較して大きかったことから、LTの効果は接触により与えられる機械的支持かもしれないと言うこともできる。しかしながら、我々は止血ターニケットによる虚血によって指尖からの触覚フィードバックを除去することによってLTの効果が減少したことから、LTによる機械的支持によるものではないことを実験的に証明した。可能性のある1つの理由として、姿勢制御のためのフィードバック情報の不足である。そして、触覚フィードバックの除去によっておこる上肢制御が変化したことによるものである。移動は1分で行った。運動負荷量は対象者の身体機能に合わせ個別に設定した。

【解説】

近年、LTによる姿勢制御の影響が調査され、多くの文献が散見されるようになってきた。本研究は、先行研究において能動的LTの有効性について、機械的な支持ではなく指尖からの触感覚フィードバック制御によるものかどうかを神経生理学的な観点から明らかにしたものである。実験手段として、止血ターニケットを利用した虚血により一時的に指尖からの触感覚障害を生じさせる方法が用いられており、そのプロトコールも詳細に行われている。しかし、触感覚の消失時間や消失程度などの評価については詳細に行われておらず、「被験者の指尖を軽く触って確認した」程度であるため、読み手としては、患者を想定した場合の「触感覚鈍麻の程度」も知りたいところである。
しかし、本実験の結果から、通常のLTと比較して、指尖からの触覚フィードバックの除去条件ではLTの効果が減少したことから、LTは機械的支持によるものではないことが実験的に明らかとなった。つまり、LTによって指尖からの触覚フィードバックと上肢の位置関係から静止立位時の姿勢制御が行われていることが神経生理学的観点から明らかになった。臨床応用を考えた場合、在宅などでは機械的支持の無い場所においては、LTによって触覚フィードバックを与えることによって姿勢制御ができる可能性もあると考える。

【参考文献】

  1. Clapp S, Wing AM: Light touch contribution to balance in normal bipedal stance. Exp Brain Res 1999; 125:521-524.
  2. Jeka JJ: Light touch contact as a balance aid. Phys Ther 1997; 77:476-487.
  3. Krishnamoorthy V, Slijper H, Latash ML: Effects of different types of light touch on postural sway. Exp Brain Res 2002; 147:71-79.
  4. Lackner JR, Rabin E, DiZio P: Stabilization of posture by precision touch of the index finger with rigid and flexible filaments. Exp Brain Res 2001; 139:454-464.
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2012年07月01日掲載

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