研究内容を十分に説明されたボランティアの男性7名(28.9±4.5歳)を対象とした。基本的な重心動揺測定、指尖接触位置を除いて神崎らの先行研究と同様とした。被験者には床反力計(Kistler社製9281B、スイス)上で、それぞれ開閉眼の条件、裸足で踵間距離を15cmとした40秒間の静止立位を保持することを要求した。タッチしない(NT)条件では上肢は体側においた。LT条件では、右手指尖を固定装置におき、それ以外はNTと同様の条件とした。NT条件で、被験者は右手をLT条件と類似した位置に保持するように指示された。LT条件ではできるだけ軽く、自然に触れるように指示された。タッチ装置は、高さ調整が可能な金属スタンドで支えられた水平金属プレートの上に、高感度の3軸トランデュ―サー(共和社製LSM-B-10 NSA1、日本)が設置された。タッチ面の高さと位置関係については、先行研究から被験者の指尖の高さと腰高の位置に合わせた。被験者がタッチ装置と接触したかどうかにかかわらず、モニターするためにオシロスコープに記録された。LT時に被験者がタッチ装置に触れていなかったり、1Nを超える力で触れた場合は、再度実施した。
指尖による触覚フィードバックを除去するために、10cm幅のターニケットが右上腕遠位部に巻かれ、200mmHgの止血ターニケットによる虚血が20分適応された。 まず、はじめに被験者は止血ターニケット虚血なしでNT条件とLT条件で静止立位課題を実施し、コントロール条件(CON)とした。そして被験者はリラックスした状態で椅子に座り、右上腕遠位に止血ターニケットで200㎜Hgの強さで止血した。止血してから20分後、被験者は再びNT条件とLT条件で静止立位課題を実施し、止血ターニケットによる虚血(TIS)条件とした。止血ターニケット虚血は、TIS条件中の静止立位期間中にも継続して実施した。本研究では、被験者が触覚を感じるかどうかを確認するために、検査者は5分毎に被験者の指尖を軽く触って確認した。その結果、すべての被験者が15~20分間の止血ターニケットによる虚血の後に指尖の触覚が消失することを確認した。
被験者は①NT-CON-開眼、②NT-CON-閉眼、③LT-CON-開眼、④LT-CON-閉眼、⑤NT-TIS-開眼、⑥NT- TIS-閉眼、⑦LT- TIS-開眼、⑧LT- TIS-閉眼の8条件測定された。各条件ともに3回づつ行われ、十分な休憩も与えられた。試技の順序は、CON条件間、TIS条件間では偽ランダム化によって行われた。
すべての電気信号は16ビット・アナログ‐デジタル変換器(PowerLab/16SP,オーストラリア)を用いてサンプリング周波数100Hzで計測し、PCに保存された。前後方向の足圧力中心(CoP)と左右方向の床反力(GRF)は床反力計の垂直成分と水平成分によって算出された。計測した40秒間のデータのうちの30秒間のデータを比較対象として用いた。そしてCoP、GRF, 指尖接触力はそれぞれ15Hzの低域フィルターで処理した。加えて、CoP動揺の平均周波数は、その特徴を評価していることが明らかとなっている。11ビットの高速フーリエ変換アルゴリズムは、CoP(cm2)のパワースペクトルを得るために、30秒間のデータから2,048ポイント適用した。先行研究では、平均周波数が算出されている。
静止立位動揺を評価するために、我々はCoP(CoP総軌跡長/30秒)の前後方向の平均速度を算出した。なぜなら、この手段はバランス活動制御に関連しており、姿勢制御の評価にとって最も高感度な方法だからである。姿勢動揺に対する指尖による機械的支持の影響を調査するために、我々は左右方向の床反力と指尖力の標準偏差(SD)を算出した。
静止立位時のCoPの平均速度、CoPの平均周波数、左右のGRFのSDは、眼条件(開眼・閉眼)、指尖接触(LT・NT)、体性感覚情報の条件(CON・TIS)の比較には、3要因分散分析(反復計測)が用いられた。交互作用が存在した場合には、TukeyのPost-hoc検定が実施された。LT条件による指尖接触力の比較には、眼条件と体性感覚情報の条件で2要因分散分析(反復計測)が用いられた。αレベルは0.05に設定され、必要に応じてTukeyのPost-hoc検定が実施された。