脳卒中患者の歩行能力評価に用いられる評価指標と理学療法士の認識

Salbach NM, Guilcher SJ, Jaglal SB. Physical therapists' perceptions and use of standardized assessments of walking ability post-stroke. J Rehabil Med. 2011 May;43(6):543-9.

PubMed PMID:21533335

  • No.1208-2
  • 執筆担当:
    県立広島大学
    保健福祉学部
    理学療法学科
  • 掲載:2012年8月1日

【論文の概要】

背景

脳卒中の治療ガイドラインは、標準的な評価指標にて評価を行うことを推奨している。また、ガイドラインに提示されている評価法は、歩行機能のさまざまな側面を検出できるようにデザインされており、信頼性や妥当性、反応性などが確認されている。たとえば、12分間歩行テストは制限時間内に歩行可能な距離を、10m歩行テストは歩行速度を評価する。その評価結果は、歩行能力を定量化し、基準値(健常者)との比較を可能とする。駐車場を横切り店舗内を歩行するために必要な歩行距離や、通りを安全に横切るために必要な歩行速度は、治療プログラムや目標設定に有用である。

理学療法士は、脳卒中患者の歩行のリハビリテーションにおいて、中心的な役割を果たす。しかしながら、脳卒中患者の歩行能力に着目した、標準的な評価法の実施率は明らかにされていない。また、評価法の使用目的を理学療法士がどのように認識しているのかは不明である。

目的

脳卒中患者の歩行評価に用いられる評価指標と理学療法士の認識を明らかにすること。

方法

カナダのオンタリオ州に登録されている神経系理学療法士(n=1155)にアンケートを送付した。設問内容は、標準的な評価法の使用について、定期的な使用について、評価法の使用目的に関することとした。回答方法は、5段階のリッカート尺度を用い、同意できるレベルで回答できるようにした。

結果

回収率は61.0%、参加拒否は19.2%であった。そのうち分析に用いたのは、270人分のデータである。

使用頻度の高い評価法は、Chedoke-McMaster Stroke Assessment(CMSA)(61.1%)、FIM(45.2%)、歩行速度(32.2%:10m歩行速度14.8%、5m歩行速度10%)、2分間歩行テスト(26.3%)、Berg Balance Scale(20.0%)、Clinical Outcome Variables Scale(COVS)(13.7%)、6分間歩行テスト(11.1%)、Time Up and Go test(11.1%)であった。

評価の目的は、歩行能力の評価のため(44.6%)、変化を確認するため(42.9%)、退院を判断するため(28.4%)、予後予測のため(19.4%)の順であった。

一方、回答者の40.1%は、信頼性や有用性が確認された歩行評価法が存在することを知らなかった。また、回答者の多く(80.5%)が、特定の評価法をガイドラインにて推薦すべきとしていた。また、評価法を使用しないと回答した理学療法士に、その理由を尋ねた。理由は、時間がない(28.1%)、評価法に関する知識の欠如(25.6%)、評価法は患者のニーズを満たさない(23.3%)、仕事が多忙で管理が難しい(21.1%)、同意を得ていない(17.0%)であった。

「歩行能力の変化を評価するために評価法を用いる」に「いいえ」(n=152)とした理由は、時間がない(30.7%)、変化を検知できる評価法がない(20.7%)、優先度が低い(17.8%)、評価は役に立たない(15.2%)であった。「歩行の予後予測のために評価法を用いる」に「いいえ」(n=212)とした理由は、エビデンスがない(36.7%)、時間がない(35.2%)、優先度が低い(23.0%)であった。「退院準備のために評価法を用いる」に「いいえ」(n=187)とした理由は、測定値は屋内外の歩行能力を反映しない(38.2%)、時間がない(20.4%)、基準値がない(15.9%)であった。

考察

理学療法士が選択する治療介入や評価法は、養成校で学んだ内容に大きく依存することが知られており、また新しい知見は臨床実習生から学ぶことが多いと報告されている。このことから、評価法の選択には養成校のカリキュラムや、臨床実習生による影響が考えられる。FIMの使用率が高かったのは、州の保健省とカナダ保健情報協会がFIM得点の報告を義務付けているからであろう。しかし、この義務化は、評価の実施率を改善することには効果的であるものの、提供される医療サービスの改善にはつながらない。

歩行速度テストおよび6分間歩行テストは、信頼性と妥当性、変化の感度、標準値、屋外歩行可能な基準などが報告されており、強いエビデンスが提示されている。それにもかかわらず、評価法の使用率が低いのは、驚くべきことである。これらの評価法は、その実施方法について少し学習することで、短時間かつ簡単に実施できるものである。評価法を使用しない理由のなかに、修正可能と思われるものがある。それは、評価法に対する知識の欠如である。回答者の40%は、評価法に対する知識がなく、信頼性が高く有用な評価法があることを理解していなかった。理学療法士は、知識の更新が必要である。

定期的に評価を実施するには、時間がないとの回答が多かった。この時間の不足は、以前から指摘されてきた問題である。評価を実施することや論文から新しい知見を得ることは、患者ケアの費用に含まれているとされている。管理職は評価の重要性を強調するとともに、評価の時間を確保すべく支援すべきだろう。

回答者の多くが、特定の歩行評価法をガイドラインのなかで推奨すべきとしていた。しかし、ガイドラインは利用可能であり、評価法は提示されている。このことを、多くの理学療法士は把握していなかった。理学療法士が同じ評価法を用いるということは、患者が施設を移動しても連続性を持つことを意味する。また評価結果は、施設間でコミュニケーションを取るための共通言語となる。標準的な評価法の使用が望まれる。

結論

脳卒中患者の歩行能力の評価において、利用されている評価法とその利用率をアンケートにて調査した。また、評価法の使用について理学療法士の認識を確認した。その結果、ある程度の理学療法士が、標準化された評価法を使用しており、評価を行う目的は歩行能力の評価と改善の程度を確認するためであった。評価法の使用率を改善するには、信頼性と妥当性、有用性が確認された評価法の認知度を高める必要がある。

【解説】

本研究の著者は、評価は少しの時間だけ実施方法について学習することで、短時間かつ簡単に実施できるものであると述べている。また、理学療法士は知識の更新が必要であり、自ら情報収集を行うことを求めている。信頼性と妥当性、有用性が確認された評価法の使用が望まれる。
CMSAは、複数のテストをから構成されている総合的なテストとなっている[1.]。テストの内容は、大きく機能障害と能力低下の2つの項目に分けられる。機能障害の下位項目には、肩の痛み、上肢、手、下肢、足の運動機能、姿勢のコントロールから構成されている。能力障害の下位項目には、粗大運動や歩行能力があり、歩行能力には2分間歩行テストも含まれている。
神経系理学療法士を対象に行われたカナダの調査では、治療効果を確認するために標準化された評価法を用いるのは、わずか49%であったと報告されている[2.]。また、オランダでは、ガイドラインにて推奨されている評価法の使用率は7~49%であったとしている。評価の実施が困難な理由は、評価に費やす時間が不足しており、評価に対する保険点数の変更が必要だとしている[3.]。
日本リハビリテーション医学会の調査[4.]によると、脳卒中患者に用いられた評価法は、使用件数が多い順にFIM、Ashworth scale-modified、Mini-mental state examination、Fugl-Meyer assessmentと報告されている。また、この調査結果によると歩行に関わる評価法は、Time up and go testや6分間歩行テストなどが挙げられていた。脳卒中理学診療ガイドライン[5.]のなかで、歩行評価にはエモリー機能的歩行能力評価や歩行障害質問票、time “up & go” test、10m歩行テストが推奨されている。日本脳卒中ガイドラインのなかでも、信頼性と妥当性が確認された評価法が提示されている[6.]。

【参考文献】

  1. Gowland C, Stratford P, Ward M, et al.: Measuring physical impairment and disability with the Chedoke-McMaster Stroke Assessment. Stroke, 1993, 24(1): 58-63.
  2. Stevenson TJ, Barclay-Goddard R, Ripat J.: Influences on treatment choices in stroke rehabilitation: survey of Canadian physical therapists. Physiother Can, 2005, 57: 135-144.
  3. van Peppen RP, Maissan FJ, Van Genderen FR, et al.: Outcome measures in physiotherapy management of patients with stroke: a survey into self-reported use, and barriers to and facilitators for use. Physiother Res Int, 2008, 13: 255-270.
  4. 才藤栄一, 朝貝芳美, 森田定雄, ・他:リハビリテーション関連雑誌における評価法使用動向調査 -7-.The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine, 2008, 45(1): 10 -13.
  5. 理学診療ガイドライン、日本理学療法士協会HPの会員専用ページ(http://www.japanpt.or.jp/gl/guidelines.html):閲覧日2012年7月20日
  6. 6) 日本脳卒中ガイドライン2009、日本脳卒中学会(http://www.jsts.gr.jp/jss08.html):閲覧日2012年7月20日

2012年08月01日掲載

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