Toe curlとshort foot exercise間における母趾外転筋の筋活動ならびに内側縦アーチ角度の比較

Jung DY, Kim MH, Koh EK, Kwon OY, Cynn HS, Lee WH.: A comparison in the muscle activity of the abductor hallucis and the medial longitudinal arch angle during toe curl and short foot exercises. Phys Ther Sport. 2011;12:30-5.

PubMed PMID:21256447

  • No.1212-1
  • 執筆担当:
    弘前大学
    医学部保健学科
    理学療法学専攻
  • 掲載:2012年12月1日

【論文の概要】

背景

 足部の回内運動は3平面上の複雑な運動であり、その運動は地面からの衝撃吸収や歩行時に身体に伝わる衝撃を減衰させるなど非常に重要な役割をはたす。しかし、足部の過度な回内は足底腱膜炎やアキレス腱炎、後脛骨筋の機能異常など様々な障害の原因につながる。過度な足部の回内をコントロールし、荷重運動中の内側縦アーチを保持するためには骨格構造や靭帯による保持、そして足部内在筋や外来筋の働きが重要になる。
母趾外転筋や短趾屈筋、骨格筋などの足部内在筋は歩行時などの推進力を得るときに足部のアーチ構造を保持することに貢献すると考えられている。その中でも特に母趾外転筋は、推進時における回内方向への床反力に抗して、内側縦アーチを保持させる働きがある。そのため、多くの研究者によって、足部過回内に起因する障害を予防するために足部内在筋の筋力強化運動を取り入れることが推奨されている。
足部内在筋の筋力強化運動にはtoe towel curls (TC)や足趾で物を拾う、short foot exercise (SF)など様々な方法があるが、この中でも特にTCとSFはスポーツ場面やリハビリテーションの領域でしばしば用いられる方法である。しかし、上述のように母趾外転筋は歩行時の過回内を制御するために重要な役割を果たすにも関わらず、TCとSFのどちらの運動がより母趾外転筋を活性化させるか、また内側縦アーチを変化させるかを明らかにした研究は存在しない。

目的

 本研究の目的は、坐位または片脚立位時のTCおよびSFにおける母趾外転筋の活動量ならびに内側縦アーチの角度を比較し、以下に示す仮説を検証することである。
仮説1:TCとSFでは母趾外転筋の活動量ならびに内側縦アーチの角度の違いが観察される。
仮説2:坐位と片脚立位では、TCとSFの両方で母趾外転筋の活動量ならびに内側縦アーチの角度の違いが観察される。

方法

 対象者は事前に安静立位における踵骨の傾き角度の調査ならびにnavicular drop testにより足部のアライメントが中間位であると確認された20名とした。対象者には、データ測定前までにTCおよびSFの練習を検査者の監視下で2週間それぞれ15分ずつ行わせた。SFについては足趾を曲げずに足の前後径をできるだけ短くするように、第1中足骨頭をできるだけ踵に向かって近づけるように指示した。
母趾外転筋の筋活動量の測定はEMGを用いた。EMGの電極は舟状骨粗面の後方約1-2cmの場所に張り、電極間の間隔は2cmとした。得られたEMGの値は母趾外転筋の最大等尺性随意収縮(MVIC)時の筋活動により標準化を行い、%MVICを算出した。内側縦アーチ角度の記録にはビデオカメラを用いた。踵骨が中間位の状態でマーカーを舟状骨粗面、第1中足骨頭の内側面および踵骨内側面に皮膚上から貼り、2m離れた位置からTCおよびSF実施時の足部内側面を撮影した。撮影した画像はパソコンに取り込み、パソコン上で舟状骨粗面と第1中足骨頭の内側面を結ぶ線と舟状骨粗面と踵骨内側面を結ぶ線の角度を測定した。筋活動量ならびに内側縦アーチ角度は、TCおよびSFの両運動を5秒間保持させて測定し、それぞれ3回繰り返した。データ解析には3回測定した平均値を用い、反復測定による2元配置分散分析を行った。交互作用が認められた場合はpost hoc testとして対応のあるt検定を実施した。

結果

 母趾外転筋の筋活動量ならびに内側縦アーチ角度の両方に運動のタイプと運動時の姿勢の間に有意な交互作用が認められたため、post hoc testとして対応のあるt検定を実施した。その結果、母趾外転筋の筋活動量は坐位および片脚立位の両方で、TCに比べSFの方が有意に大きかった(差の平均:坐位=35.0 %MVIC、片脚立位=55.7 %MVIC)。TCでは運動時の姿勢の違いによる母趾外転筋の筋活動量に有意差は認められなかった。しかしSFでは、運動時の姿勢の違いにより筋活動に有意差が認められ、片脚立位時の方が大きかった(差の平均=28.0 %MVIC)。内側縦アーチ角度は坐位および片脚立位の両方で、SFはTCに比べ有意に小さかった(差の平均:坐位=4.2°、片脚立位=6.4°)。SFでは運動時の姿勢の違いによる内側縦アーチ角度に有意差は認められなかった。しかしTCでは、運動時の姿勢の違いにより内側縦アーチ角度に有意差が認められ、片脚立位時の方が大きかった(差の平均=2.9°)。

考察

 今回の結果から、TCに比べSFの方が有意に母趾外転筋の筋活動を高めることができ、また内側縦アーチを高める効果が認められたため、SFを母趾外転筋の筋力トレーニングとしてより推奨できると考える。運動時の姿勢においては、SFで片脚立位時に母趾外転筋の筋活動量が有意に増加したにもかかわらず、内側縦アーチ角度に変化が認められなかった。このことは、内側縦アーチを高める作用というよりむしろ荷重による内側縦アーチを低下させる作用を母趾外転筋の筋活動の増加により防ぐ効果があったと推察される。
臨床場面では、SFは部分荷重位(坐位)もしくは全荷重位(両脚立位や片脚立位)で実施される。本研究では、TCでは運動時の姿勢間で有意差は認められていないが、SFでは有意差が認められている。このことは、足部内在筋のパフォーマンスのレベルを考慮して、SF運動時の姿勢を変化させることで、より効果的な母趾外転筋の筋活動を引き出すことができることを示している。

【解説】

 足趾の運動は、本邦の臨床場面においてもしばしば用いられる運動である。本邦ではタオルギャザーに代表される把持運動[1]や足趾を曲げずに床を押す運動、すなわち圧迫運動[2]がよく用いられている。本研究で使用されているTCは前者に対応する運動であり、SFは足部内在筋を主に使う運動として後者の要素を一部含む運動と捉えることができる。そして、その効果を筋活動および内側縦アーチの状態から示している点で臨床的にも有意義なデータを提供している。
母趾外転筋は正常歩行における蹴り出し時に床反力に抗して第1列(母趾側の骨格)を底屈させて、第1中足骨頭を固定する働きがあり[3]、また荷重位において足部の回内をコントロールして内側縦アーチを保持すると報告されている[4 , 5]。そのため、母趾外転筋の筋力強化は荷重位における足部の回内の制御という点で重要な役割をはたすと考えられる。本研究は、母趾外転筋の筋活動をより高め、内側縦アーチを高める(保持する)にはTCよりSFの方が適していること、またSF運動時の姿勢を変化させることで、より効果的な母趾外転筋の筋活動を引き出すことができることを示している点でも有益な報告と考える。
しかし、本研究では母趾外転筋の筋活動と内側縦アーチのみの違いに言及しているが、SFは主に足部内在筋を活性化させる運動とされているのに対し、TCは内在筋のみではなく、長趾屈筋や長母趾屈筋などの足部外来筋も大きく運動に関与する。このような活性化される筋の違いは、寄与する運動の違いを生み出す可能性がある。そのため母趾外転筋の筋活動と内側縦アーチの変化のみではなく、他の筋の筋活動やバランス能力、運動課題も含めて様々の方法でどちらの運動がより推奨されるかをさらに検討する必要がある。また、本研究では足部のアライメントが中間位の者を対象としているが、例えば外反母趾のように母趾外転筋の機能が低下している者や内側縦アーチが低下している者に対してはどちらの運動がより母趾外転筋の筋活動と内側縦アーチを高めることができるかなど、臨床場面で実際に問題となっている対象における検証が今後加えられれば、より有意義な報告になると思われる。

【参考文献】

  1. 竹井和人, 他 : 足把持トレーニングの効果. 理学療法科学. 2011;26:79-81.
  2. 石坂正大, 他 : 足趾圧迫練習が内側縦アーチに及ぼす影響. 理学療法科学. 2007;22:139-43.
  3. Mann R, et al. : Phasic activity of intrinsic muscles of the Foot. J Bone Joint Surg Am. 1964;46:469-81.
  4. Headlee DL, et al. : Fatigue of the plantar intrinsic foot muscles increases navicular drop. J Electromyogr Kinesiol. 2008;18:420-5.
  5. Fiolkowski P, et al. : Intrinsic pedal musculature support of the medial longitudinal arch: an electromyography study. J Foot Ankle Surg. 2003;42:327-33.

2012年12月01日掲載

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